【私の卒業研究】I・Aさん「Japan through foreigners’ eyes: Hearing life stories through interview」

   (以下の記事は、情報社会学科が2学科制の際の【私の卒業研究】です。現在の3学科制の情報社会学科とは扱う内容が一部異なりますが、参考までに掲載します)

卒論の内容を紹介してください。

「異文化を持った外国人の目で、日本とその文化を見つめ、そこから見えてきたものを考察する」というのがこの論文の主旨です。8人の外国人の方へのインタビュー内容がこの論文の重要な題材であり、土台です。

 前半では、社会学的な手法としての「インタビュー」について、その意義と手法、テクニックなどについて研究し、さらにそれら知識として学んだことを、私が実際のインタビューの中で消化し応用していったかといことを客観的に分析しています。

後半は8人それぞれインタビュー内容の主な流れがわかるように要約して紹介し、そしてこの論文の核として、全てのインタビューの中から特に意義深い3つのトピックに焦点をあて深く考察しています。

卒論には、「This research is a process of discovering myself」と書かれています。この問題に取り組んだ理由を教えてください。

 私自身が個人的に抱えていた問題の原因を追求したかったからです。異文化に触れ、体験するようになってから、私が日本でよく抱えていた葛藤は、日本文化に由来するものがあると気づき、自文化に対する違和感や居心地の悪さを持ち続けていました。そしてある日、留学先のアメリカで、「home」というテーマの論文課題が与えられました。漠然と感じていた「感覚」を、文章という具体的な形で表現するために、初めてこの違和感による内面の葛藤と正面から向き合うという作業をしました。

私はこの論文の中でその違和感の理由を、「一個人としての自我と日本文化において様々な集団の一員としての自我との間に衝突がある」と結論づけています。この気づきは、自分の内面の葛藤と向きあうためのスタートになったに過ぎません。なぜなら、私の葛藤の根本と正面から向き合おうとすればするほど、答えは単純ではなく見つめるべき問題はまだ深いと思わされたからです。そして、この作業の続きを卒業論文で取り組んでみたいと考えました。

卒論はすんなり進んだのですか?

 最終的に今の論文の形になるまでは、随分と試行錯誤を繰り返しました。私の個人の葛藤の理由を突き止めたいという思いをどのような形で論文にできるのだろうかと悩みました。何かヒントになればと様々な文献も読みました。しかし、既に成されている研究では、自分が目指す形にしっくりとあてはまらない。そんな折に、社会学的な手法でもあるインタビューを使うことを、教授に提案されました。私と同じように自我と文化との間で苦しんでいる人がいるかもしれない、その人たちがどのような問題にぶつかり、それとどう向き合っているか聞いてみたい、また日本という異文化で暮らしている外国人の目で、日本やその文化を見てみたいと考えました。

そこで、研究の中心となる題材を彼らが語るインタビューの内容にし、それに対しての私なりの視点や意見、考察を重ねていくことにしました。日本文化とは異なる様々な文化を持った彼らのメンタリテイに入り込み、彼らの目で世界を見るという過程が、私自身の自文化への洞察を明らかにしていくことにも繋がると考えたからです。

この論文を通して、あなたは日本や自分自身を客観的に見つめ直す作業をしたのですが、そこで得た知見を教えてください。
また、「This experience will be a big step toward my future life and help me to understand the world that I am in.」と論文中に述べられています。この論文で得たことが今後のあなたにどう生かせると思いますか?

8人の外国人と対面している間中、実はそれは彼らを通して自分自身と向き合ったプロセスだったように思います。なぜなら、それは自分の感情の変化を追った過程でもあったからです。

初め私は、語り手の話に感嘆を持って共感しました。しかし、そのあとに自分の中に「怒り」の感情が芽生えたのです。彼らの発言に対する怒りです。そしてこの「怒り」は、私が彼らの発言をより高いレベルで理解しようとする試みを阻む要因になったのです。なぜなら私は日本文化-それはある意味において「自分自身」と置き換えることが可能なもの-を外部の攻撃から守ろうとしたからです。
これは一種の人間の本能的なデイフェンスメカニズムなのだと思います。しかし、この通過儀礼とでもいうような初期の心理的葛藤を超えることができたとき、私は自分の属する文化から自由になり客観的に日本や自分自身を見つめることができたのだと思います。

 自分の属する世界や自分自身を客観的に見つめるということは、決して簡単なことではありません。けれど、必要なことです。離れたところからもう一人の自分を眺める、また相手の立場に立ってみようと試みる、相手の気持ちに思いを寄せる、こうした想像力こそが私たちに必要な力なのだと思います。なぜなら、私たちが生きている社会は白と黒、1と0で成り立ってはいません。もっともっと複雑で多面的です。自分の見ている方向からだけでは本質は見えないのかもしれない。主観的な囚われから自由になり、自分と他の視点とを自由に行き来できるようになったとき、自分を取り囲む社会の全体像が見え始め、また、自分がより自分らしくしっかりと立てる場所を発見することができるのではないかと思っています。

この論文を書くに当たり、8人の外国人にインタビューしています。その過程で苦労したことはなんですか? あるいは、印象に残ったことはなんですか?

インタビューそのものの過程は、とにかく楽しかった。豊富な経歴・経験やユニークな日本との関わりを持つ留学生や外国人の方々の話が聞けることをただただ楽しくてインタビューをしているという感じでした。初対面の人がほとんどでしたが、会話が途切れて困ったりしたことはほとんどありませんでした。

ただ、常に気をつけていたことは、相手の警戒心をなくすことです。彼らが普段考えていることを、普段のままで語ってほしいという思いから、自然体で友達と会話するような雰囲気をつくろうと努めました。そのため、形式だった同じ質問を全員に投げかけるのではなく、自己紹介や来日したきっかけなどの話から始めて、あとは自然に会話が流れるまま質問を広げていきました。意図的に質問を用意しなかったもう一つの理由は、同じ質問に対する答えではなく、彼ら一人一人のオリジナルな物語を聞くことのほうが私にとって意義のある経験だと考えていたからです。

苦労したこといえば、インタビュー後の作業です。インタビューを録音したテープを聞き直し、全ての会話を文字に直していく、いわゆるトランススクリプトを作成する作業です。これはインタビューにとって非常に重要な工程です。1つは、インタビュー内容を文字にして保存することで、時間がたってからでも会話の全内容を掴みやすくできるという意味においてです。

さらにもっと意義深いのは、テープを聞き直す過程で、インタビュー中の自分の進行や質問方法を客観的に分析し、評価・反省できるという点です。そうはいっても、8人分、1人平均1時間半に及ぶインタビューの全スクリプトを作成することは、根気のない私にとってかなり大変な作業でした。

これまでの関連する研究と比較して、あなたのこの論文の長所はなんだと思いますか? また、反省点は何ですか?

独自性が長所だと思います。私のインタビュー中で交わされた会話は、聞き手である私と一人一人の話し手の間にだけ起こり得た、この世に二つと存在しないものです。

例えば、一般的に日本文化の特徴であるといわれている「ウチとソト」に関わることについて複数の人が語ったとしても、語り手一人一人がそれに遭遇した状況、またその捉え方は千差万別です。そういった個々の具体的な事例を題材にして、さらに「私」という個人の経験や普段感じていることも加え、それらを学問的に考察しているという点で、また語り手と私自身の内面の葛藤を描写している点においてもこの世に二つと存在しえない論文になったと思います。

浜松という街は、外国人の比率が高いところです。さまざまな文化を持った人が住む街として、どうあるべきだと思いますか?

シンプルに、お互いがお互いについてもっとよく理解し合うことだと思っています。日本人と外国人との間にどれほど先入観や誤解が多いことか。それは、相手の物差を持っていないがゆえに、お互いに自分の物差に相手を当てはめるからです。

例えば、今回のインタビューを通して、日本人が「すみません」を頻発することに多くの外国人が違和感を抱いているということを知りました。インタビュー後すぐに、どれぐらい自分や他の日本人が「すみません」を使っているか意識的に観察し、その多さに驚きました。日本人は挨拶がわりに「すみません」を使う民族なのです。だから、日本人が海外に行くと「すみません」の代わりに「I am sorry」多用してしまい、それが外国人には奇妙に映るということがあります。「すみません」は「I am sorry」とイコールではないのです。論文中で詳しく述べていますが、「すみません」の頻用には、日本人独特の心理的背景があります。その深い意味を外国人の方が知れば、日本人の「すみません」の多用に対して何か新しい見方を持つかもしれません。

表面上の感覚や行動の違いに否定的な反応するだけではなく、その違いの根本の理由を理解していくことにより、より寛容に相手を受け入れられるようになるのではないでしょうか。それを自分たちから相手に説明していく努力も、日本人・外国人を問わず必要なことです。そのためにはまず自分や自文化をよく知ること、そして相手を知ろうとする好奇心と想像力を持つことです。お互いが興味をもって向き合った時に、両者の隙間は埋まっていく気がします。

卒論を書くに当たって、後輩になにか助言はありますか?

自分の興味のあることに素直に向き合ってみて下さい。

「どういう場合に、どういう事についてどんな感じを受けたか、それをよく考えてみるのだ。そうすると、ある時、ある場所で、君がある感動を受けたというくり返すことのできない、ただ一度の経験のなかに、その時だけにとどまらない意味のあることが分かってくる。それが、本当の君の思想というものだ。」

これは、吉野源三郎著、『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)からの引用です。目先の損得や怠惰な気持ちからではなく、自分が何かしみじみと感じたり、心の底から思ったことをごまかさずに、その意味を考えてみてほしいのです。

幸いにも、情報社会学科の卒業研究はテーマ選択の自由度が高く、それができるまたとないチャンスです。さらに、多種多様な分野においてそれぞれの専門に精通した教授陣がいます。彼らを通して様々な世界を覗くことができる、こんな贅沢な環境に身を置くことは人生の中でもそうないと思います。与えられた時間と環境、生きた知的データベースをフル活用して、自分の思想を発見し、私的好奇心を満たす研究をしてほしいと思います。

 

指導教員講評 Comment on this thesis
指導教員:M.J. Guest
One reason why Ms. A. I.’s work is so good, I believe, is that the topic she chose was something that she is personally so involved in and enthusiastic about: her own experience of forming an identity in the context of two different cultures. She adopted a research method known as “qualitative interviewing,” the techniques related to which she researched and executed artfully. This is a flexible and systematic approach that enables a researcher to obtain and interpret deep subjective responses from a group of interview subjects. Qualitative research of this kind requires communicative skill, intelligence and sensitivity, all of which she demonstrated eminently. Her observations on her own part in the interview process and its contribution to her own personal development were also most satisfying for their maturity and concurrence with contemporary qualitative theory. I should add that her English writing ability, which was already at a good level, improved noticeably during her year and a half’s graduation research work in my laboratory, and her thesis is substantial (about 50 pages) and well written. In my laboratory I try to promote the abilities of students to work and think independently and intellectually, and I am happy to see these qualities reflected in Ms. A.I.’s work.

取材・編集:Y(2003/03/23)