(以下の記事は、情報社会学科が2学科制の際の【私の卒業研究】です。現在の3学科制の情報社会学科とは扱う内容が一部異なりますが、参考までに掲載します)
卒論で取り上げたことは何ですか?
卒業論文では、テーマとして”eデモクラシー”を取り上げました。”eデモクラシー”とは、簡単に言ってしまえば、情報通信技術(ICT)を利用した政治や行政への市民参画ということです。例えば、インターネットを利用した電子投票や、インターネットを利用した選挙運動などが、”eデモクラシー”にあたります。

その中でも、今回の卒業論文では、「インターネット上での議員・行政・市民間の討議、それらの政策への反映」という、いわゆる市民直接参加型のeデモクラシーをとりあげ、地方自治の現場にどのような形で”eデモクラシー”を取り入れてゆくべきか、そして”eデモクラシー”が有効に機能するにはどのようにしたらよいかという点について研究しました。
具体的な卒論の内容を教えてください。
現在、日本の地方自治は、議会を中心とする代議制民主主義(間接民主主義)を採用しています。代議制民主主義は、領域・人口ともに巨大化し、政治の機能も複雑になった現代社会においては、現実的で合理的な政治システムと言えますが、一方で、市民の民意を政策に反映できる場が、選挙による投票に限られているということが言えます。
”eデモクラシー”は、インターネットの持つ特徴により、多くの市民がいつでも自宅にいながら政治について話し合いをすることができ、話し合いの結果を実際の政策に反映させることで、代議制民主主義と比べ、より多くの民意を政策に反映することが可能であるという大きな可能性を持っています。そこで、実際に”eデモクラシー”を取り入れている地方自治体を訪問調査することによって、現時点で”eデモクラシー”によって何が実現でき、何が実現できていないのかということを明らかにし、”eデモクラシー”の望ましいあり方を探ること、これが今回の卒業論文の内容です。
この卒論を書こうと思った理由は何ですか? あるいは、この研究を通して、何を知りたかったのですか?
大学に入る前から、政治について漠然とした興味を持っていました。この卒論を書こうと思った直接のきっかけは、3年のときに受講した「情報政策論」という講義の内容に強い関心を持ったことからでした。「情報政策論」の講義で、ICTを民主主義に取り入れる動きが世界中で始まっていることを知り、大変なことが起こりつつあると感じました。ひょっとしたらこれまでの政治体制が大きく変化するかも知れないと思い、研究してみたいと思うようになりました。

”eデモクラシー”を取り上げた中でも、今回このテーマにしたのは、”eデモクラシー”がなぜこれほどまでに地方自治に取り入れられているのか、なぜ注目を集めているのか、果たして”eデモクラシー”は地方自治において有効に機能するのかということを知りたいと思ったからです。
これまでの研究と比較して、あなたの研究はどんな点が優れていると思いますか?
優れているなどということは、おこがましくてとても言えませんが、地方自治を構成するさまざまな立場の人から直接話を聞き、それら調査をもとに研究をすすめたことで、机上の空論ではなく、事実に基づいたものになったことがよかったのだと思います。
地方自治は、大きく分けて、市長や区長をトップとする行政、議員の集まりである議会、そして私たち市民の三者で成り立っています。この論文を書くにあたり、現役の議員、”eデモクラシー”に取り組んでいる自治体行政の職員の両者に話を伺いました。現場の生の声を聞くことで、本を読むだけでは決して理解できないことが、この研究の中には盛り込まれていると思います。
また、”eデモクラシー”自体が新しい分野で、あまり研究されていないということもありますが、議会との関係を探るという視点はあまりないものであったと思います。藤沢市の職員の方にインタビューを行なったときも、「これまで議会との関係について聞かれたことはなかった」とおっしゃっていました。この部分がよかったのだと思います。
卒論を作成する過程で苦労したことはなんですか?
苦労したことは山ほどあります。すべての過程が苦労の連続でした。その中でも、印象に残っている苦労を挙げるとすれば、4つほど挙げられると思います。

まず、中間発表直前になってのテーマ変更がありました。実は今回の論文、当初は議会のIT化という視点で研究を進めていました。「より多くの民意の反映」のためには議会のIT化が有効なのではないかという仮説を立て、研究をすすめていたのですが、中間発表直前になって完全に研究に行き詰まってしまい、やむを得ずテーマを変更しなければならなくなりました。その時期でのテーマ変更はかなりつらいものがありましたが、このテーマ変更によって、論文の中身がより濃いものになったと確信しています。
2つめは、訪問調査での苦労です。事前に質問内容を相手方に伝えていなかったため、実際の調査では、相手にこちらの質問の真意がうまく伝わらず、質問に沿った回答を引き出せなかったということがありました。自分の力不足で、質問内容を正確に相手に伝えることができず、悔しい思いをしました。
3つめは、論文を書き上げていく段階での苦労です。政治学・政策学というテーマを選んでおきながら、自分自身にその分野の知識がほとんどといっていいほどなかったので、どのようなしくみで政治というものが動いているのかということを把握するだけで、かなりの時間を費やしてしまいました。この部分についてはまだまだ勉強不足であり、今後さらに勉強をしてみたいと思いました。
最後に、論文をまとめる段階での苦労です。一旦まとめあげた後、論文を一通り見直してみると、一体自分がこの論文によって何を明らかにしたかったのか、一体何を言いたかったのかわからない論文になってしまっていました。あらゆる事を調べ、まとめてみたものの、結局は何が明らかになったのかわからない論文となっており、結論を導き出せず、大いに悩みました。
苦労はまだまだ挙げればきりがありませんが、だいたいこのようなことがあったと思います。
卒論を書くに当たって、後輩に対するアドバイスはなんですか?
アドバイスとしては2つほどあります。
ひとつは、テーマ選びです。やはり、自分の興味のあるテーマを選ぶことが重要だと思います。興味のないテーマでは、なかなかやる気が起こらないものです。じっくり考えてテーマを見つけることが大切だと思います。

そのテーマもはじめからガチガチに固めてしまうと、その枠にとらわれてしまい、後々苦労することになります。私の場合もそうですが、当初予想していた結果にならないことはよくあるそうなので、ある程度幅広く、かといって壮大過ぎないテーマを選ぶことが重要になってくると思います。
2つめは、メモを取る習慣をつけることです。アイデアはふとした瞬間に生まれます。特に、お風呂に入っているとき、布団に入ったときなどは要注意です。素晴らしいアイデアが浮かんでも、そのときにメモを取っておらず、後悔したことが多々ありました。アイデアを忘れないうちに残しておくことをおすすめします。自分の経験として、今回の卒論を書くにあたり、200ページくらいのメモ帳を1冊使い切りました。
主査・副査からどのようなコメントをもらいましたか?
主査・副査の先生からは、論文執筆の段階から何度も何度もアドバイスをいただき、その都度細かく修正を重ねていったので、論文の体裁や構成などについてはほとんど指摘を受けませんでした。論文の内容についてですが、”eデモクラシー”にもう少し将来性があってもよかったのではないかというコメントをいただきました。
今回の卒業論文は事例調査の結果を中心にまとめあげたものなので、現状からあまり飛躍することなく、現実に即した結論を導き出しています。そのため、”eデモクラシー”に寄せられている期待と比べると、少しトーンダウンしたような結論となっています。”eデモクラシー”の将来性に、学生だからこそできるもう少し思い切った提案ができるとよかったということを、主査・副査の先生からいただきました。
なぜ事例研究の対象として、藤沢市や大和市を選びましたか?
今回、事例研究の対象としては、藤沢市と大和市を選びました。この2つの事例は、他の自治体と比較して”eデモクラシー”への取り組みが早く、市民の参加者数も多いことから、実例に基づいたより具体的な話を聞くことができると考え、研究対象として選びました。さらに、この2つの事例は、”eデモクラシー”での議論の内容を、実際の政策に活かすしくみを整えていたため、今回の論文にぴったりだと考え、研究対象に選びました。実際の調査の結果ですが、経験の蓄積に裏打ちされた、非常に実のある回答をいただけたので、この選択は正解だったと思います。
反面、この2つの事例は他の事例と比較して、成功事例であるといえるため、言葉は悪いですが、失敗の事例も取り上げる必要もあると思いました。
eデモクラシーの将来性について意見を聞かせてください。
これは、まさに今回の卒業論文の結論であり、先ほどの主査・副査の先生からのコメントと重なってくる部分なのですが、私の考える”eデモクラシー”の将来性はあまり飛躍したものにはなっていません。”eデモクラシー”の将来性についての考え方に、”eデモクラシー”が発展し、市民の民意が政策に直接反映されてゆくようになると、議会が必要でなくなり、市民と行政の直接民主制化となるというものがあります。

しかし、私は今回の卒業論文を通じて、この考えにNoという結論を出しました。”eデモクラシー”の意義は直接民主制の可能性にあるのではなく、市民の政治意識を高めること、そしてその結果として、間接民主主義を強化してゆく可能性にあるのだと考えました。
このように考えると、”eデモクラシー”の将来性はあまり明るくないようにみえますが、だからといって、悲観することはないと思います。今挙げたような間接民主主義の強化が実現されれば、現状の間接民主主義を超え、より多くの民意が反映される社会が実現されると考えています。
情報社会学科で学んだことは何ですか?
情報社会学科で学んだこととは違うかもしれませんが、私は大学で、「学んでゆく事の大切さ」を学びました。大学では卒業論文に限らず、自分が興味のあることがあれば、いくらでも学ぶことができる環境が整っています。興味のあることに関係する講義を聞き、先生に話を聞くことでどんどん知識を増やしてゆくことができます。知識を増やしてゆく過程では、さまざまな人に出会い、いろいろなものの考え方に出会うことができます。そういった人と人とのつながりや、大学で学んだことというものは、今後生きてゆく上で必ずプラスになることだと思います。
また、大学では、努力していればその姿を必ず誰かが見てくれています。それは教授であったり、先輩であったり、同期の仲間であったりさまざまです。一生懸命何かに取り組んでいれば、必ず誰かがその姿を見ていて、それを評価し、活かす場を提供してくれます。私は大学生活を通じ、何度もそのような場面にめぐり合うことができました。このことはとても幸せなことであり、私の大学生活の支えでもありました。情報社会学科ではこのように、自分の能力を生かす場が常に提供されています。このことを感じながら、自分のやりたいことに精一杯打ち込んでみてください。
指導教員講評
指導教員:八重樫純樹
O君は3年次、科目群演習で研究室に来た時、丁度前年の卒業生(平成13年度卒業のS君)が作った研究室ホームページのサーバー機のハードデスクが壊れ、新たに作成し直さなくてはならなくなり、率先してホームページをつくりました。八重樫研究室の現在のホームページは彼の作品です。
卒研も既に3年生のときから、地方自治体活動にまとを絞っていたらしく、先輩4年生の卒研調査(浜松市、磐田市、掛川市等)に付いてきておりましたし、先輩が学んでいる基本図書は3年時点で、相当読み込んでいました。

卒研は、当初、地方議会のIT化による活性化、民主化について社会に提案できるシステム案を作ることを目標にしておりました。多分、人間の利害や生き様そのものが具現されている政治の世界がITで解決できるわけがないと私ははじめから思っておりましたが、彼は理想に燃えて、突き進みました。
ま、結果はやはり思っていた通りになりましたが、彼の理論基盤がしっかりできていることや、彼の能力、行動力からして、私は何の心配もしませんでした。むしろ、卒論はたとえ不十分なものとなる可能性があるとしても、良い社会勉強になると思っていました。
しかし、少ない残り時間で、適切な方針変更し、しっかりした内容の卒論となりました。この卒論は彼の実力でもあり、彼にとって本当に生きた良い勉強になったと思います。これを踏み台として、社会で大きく育ってもらいたいと念じております。
取材・編集:X(2004/03/26)