【私の卒業研究】NYさん「静岡県における地区販売会社の営業拠点配置モデルとシミュレーション分析」

(以下の記事は、情報社会学科が2学科制の際の【私の卒業研究】です。現在の3学科制の情報社会学科とは扱う内容が一部異なりますが、参考までに掲載します)

卒論の内容を具体的に紹介してください。

テーマは「静岡県における地区販売会社の営業拠点配置モデルとシミュレーション分析」です。

大手メーカーがナショナルブランドの販売網を形成するために販売エリアを分割した際、その分割された各単位地域を管轄し、卸売・小売会社としての役割を担っているのが地区販売会社です。地区販売会社が営業拠点をどのように配置して、いかに効率的な営業活動を行なうかということが企業にとって重要な要素になると考えました。

そこで卒論では、地区販売会社における営業拠点の配置地点を予測できるモデルを提示しました。

本研究では、「モデルにより導き出される<理論上の営業拠点配置形態>」と、「実際に企業にアンケート調査を行うことで把握する<現実の営業拠点配置形態>」を対比し、構築したモデルが有効であるかどうか分析しました。

具体的にはどういうことでしょうか?

 研究のメインとなるモデルは、「需要量」と「営業効率」の2要素が規定要因となっています。「営業効率」とは、営業活動に伴うコストの大小を指します。営業活動の訪問先が営業拠点から離れるほど営業員の移動時間が長くなって移動費用もかかるため、効率的な営業活動ができなくなるという考え方です。
以上のことを踏まえて、このモデルでは「人口」「道路距離」の2つの指標を用います。

 構築したモデルについて、実際のデータ(静岡県74市町村の人口、市町村間の道路距離)を用いてシミュレーションを行いました。同時に、先行研究で提示されている既存モデルについてもプログラミングしシミュレーションを行ないました。その結果、既存モデルに比べ、本研究で構築したモデルの方が現実状態によりよく適合しており、モデルの有効性が実証されました。

この卒論を書こうと思った理由は何ですか? あるいは、この研究を通して、何を知りたかったのですか?

 3年次のゼミで日野正輝『宮城県における「地区販売会社」の事業所の配置形態』という論文を読んだことがきっかけです。
論文内では、事業所の配置メカニズムが計算式のモデルで表されていたので、モデルをプログラミングしてシミュレーションを行なったのですが、論文は対象地域が宮城県だったので、もっと身近な地域である静岡県を対象としてモデルのシミュレーションを行ない、モデルの有効性について分析したいと思いました。また、論文内で提示されていたモデルを改良してより精度の高いモデルを構築したかったこと、更に私自身プログラミングが好きだったことも、このテーマを選んだ理由の1つです。

 研究の目的は「企業にとって合理的な営業拠点の配置形態を予測できるモデルを構築する」ということだったのですが、最初は、世の中に数多くある企業の拠点配置行動をモデル化すること自体可能なのか、たまたま宮城県でモデルの実証がうまくいってしまったのではないかと心の中で疑っていました。本当にモデルを用いて拠点配置形態を予測できるのかということが、実は最初に知りたかったことです。最終的にモデルを導き出すことが出来たので良かったです。もし出来てなかったら「拠点配置メカニズムのモデル化は不可能である」という結論にでもなっていたんでしょうか。

これまでの研究と比較して、あなたの研究はどんな点が優れていると思いますか?

 これまでの研究で提示されてきたモデルは、「1つの企業は、1市町村内に1拠点しか配置しない」という条件を設定していますが、実際には市場規模の大きい市町村には複数の拠点を配置しています。先行研究でモデルを検証する際にも、同一市町村内への複数拠点の配置が課題であると指摘しつつもそれを考慮したモデルは構築されてきませんでした。

 この卒論では、同一市町村内への複数拠点配置が可能なモデルを提示できたことが最大のポイントです。これにより、より実用的なモデルになったと思います。

卒論を作成する過程で苦労したことはなんですか?

 最も苦労したのは、企業へのアンケート調査です。実際に静岡県内の地区販売会社はどのような営業拠点の配置形態をとっているのか、どのような要素を考慮して配置地点を決定しているのかということを把握するためのアンケート調査だったのですが、まずアンケート票を作成する段階でつまづきました。

 単純に「営業拠点の所在地はどこですか」、「どんな事を考慮して配置地点を決めますか」という質問だけではなく、その背景にある事情(地区販売会社全体の販売エリアや、営業活動の内容等)を捉えるためにどのような質問をすればよいか、とても悩みました。

 アンケート票が出来上がって、実際にアンケートを行なう段階になったら、今度はアンケートを行う企業を探すのに苦労しました。自動車の販売会社は数多くあるのですぐに見つかりましたが、家電や事務機器等の販売会社がなかなか見つからず、その結果、アンケートの対象業種が自動車に偏ってしまいました。

 また、アンケートを行なう上で企業1社1社に電話で依頼をしたのですが、とにかく緊張してしまい、特に最初のうちは、心の準備を10分して、電話をし終えたらまた休んで…という状態の繰り返しでした。こんな具合で、アンケートに関する作業は何から何まで大変でした。でもよい経験になったと思います。

あなたがこの研究を作成した後に、企業のどのような点を見るようになりましたか?

直接研究内容とは関係ないのですが、今回アンケート調査で色々な企業と折衝する機会があり、どの企業においても、まず総務課の方に応対していただきました。ほとんどの企業の方が親切に対応して下さいましたが、中にはそうでない企業もありました。

私は調査に協力していただく立場なので偉そうなことは書けませんが、企業の中でお客様にとっての窓口としての役目を担う立場というものを考えさせられました。

私自身、就職後は接客の機会が非常に多くなるので、今回の教訓を活かし、お客様の気持ちをよく考えて行動できるようになりたいと思います。

主査・副査からどのようなコメントをもらいましたか?

卒論を無事提出し、発表会が終わった後には「皆よく頑張りました」と声を掛けていただき、一方で「モデルの指標に加重平均をかければ更に実用的なモデルになる」といった、今後につながるアドバイスをいただきました。

私の作業がなかなかはかどらないので、先生にはご心配をお掛けしたと思いますが、最後まで丁寧に見ていただき、本当に助かりました。ありがとうございました。

卒論を書くに当たって、後輩に対するアドバイスはなんですか?

当り前のことなのですが、作業を先延ばしにすると大変困ったことになります。例えば先程述べたアンケート調査にしても、「今日は気が乗らないから電話依頼は明日にしよう」ということをしていると、アンケート回収が12月頃までかかり、焦って集計することになってしまいます。

後から「時間が無い!」と騒ぐ事になるのは分かっていても、忙しければ忙しいほど現実逃避したくなるのが人の常です。負けずに頑張りましょう。

情報社会学科で学んだことは何ですか?

情報社会学科の授業では、1年次に習得したタッチタイピングに始まり、webページ作成、プログラミング、データベース、GIS等、様々な分野において基本的なことを学びました。

特に、これらは演習形式の授業が多かったので、技術も身についたし、友達と教え合ったりすることでより知識を深めることができたと思います。

指導教員講評
指導教員:西原純

 NYさんは、高校時代には理系クラスに所属していたそうで、元々、目標課題をいくつかのステップに分けて考えることが上手で、しかも高いプログラミング能力も持っていました。

 私の研究テーマである都市システム論の分野では、県域レベルでのメーカー・商社の販売拠点配置が都市群の階層と都市群ネットワークを構成していることが知られていました。そこで、メーカーや商社の販売拠点の配置がどのように決定されているかが、非常に重要な研究課題でした。また企業側からみても、新たに販売網を展開する際に、どの都市からどのような順序で拠点を置いていくかは、重要な経営課題です。

 この県域レベルでのメーカー・商社の販売拠点配置モデルとして、東北大学の日野先生による日野モデルが最も先駆的なものでした。しかし企業の業種によっては、需要量が大きい大都市では一つの企業でも複数拠点が配置されて、実際の配置とモデルによるシミュレーション結果が一致しない場合がありました。NYさんの研究は、この点について、他の研究事例をもしっかりと精査して、モデルの改良を試みた研究でした。

 私の研究室での卒業研究の進め方は、毎週毎週の卒業研究セミナーで、先週1週間の作業報告を行なって、それに対してお互いの意見を出し合っていき、次の1週間の方向性を決めていくという方法をとっています。NYさんは、そこで出された新しいアイディアを、新しい改良モデルとして、次の週にプログラミングし、シミュレーション結果を報告できる能力がありました。

 またモデル構築・シミュレーション分析とともに重要なのが、実際のメーカー・商社の地区販売会社へのアンケート調査です。アンケート調査に先立ち、まず電話で調査を依頼し、次に実際に訪問して調査票を預け、後日、回収するという作業を繰り返しました。アンケートの集計・分析で出てきた疑問点をさらに回答企業に問い合わせたりして、たいへんだったと思います。

 他の研究では、とかくモデル構築・コンピュータシミュレーション分析では、企業の実際の事情に注意を払わない場合が多くあります。しかしNYさんは、企業に実状をふまえたモデル構築・コンピュータシミュレーション分析を行い、足が地に着いた研究を行うことができました。

 さらにNYさんは、モデルによるシミュレーション結果を現実と比較し、自分のモデルを評価する手続きを非常に厳密に行いました。一般に、モデル構築・シミュレーション分析では、その結果の評価がおろそかになりがちです。その意味でも、NYさんの研究は高く評価できます。

 このように、NYさんの研究成果は、実際に静岡県以外の県におけるメーカー・商社の地区販売会社配置にも高い精度で適用可能で、応用範囲が広く有用なものだと思います。

取材・編集:N(2004/03/26)