【私の卒業研究】Sさん「新聞の国際報道の現状と課題    -アテネオリンピックに関する記事の日米比較から-」

(以下の記事は、情報社会学科が2学科制の際の【私の卒業研究】です。現在の3学科制の情報社会学科とは扱う内容が一部異なりますが、参考までに掲載します)

卒業研究の内容を教えてください。

 私の卒業研究は「新聞の国際報道の現状と課題-アテネオリンピックに関する記事の日米比較から-」というテーマです。簡単に説明すると、2004年の8月にギリシャのアテネで行われた夏季オリンピックを題材に、日本の新聞とアメリカの新聞を比較するという研究です。日本の新聞とアメリカの新聞が「アテネオリンピック」という同じ題材を取り上げたとき、その報道の内容や方法に違いが現れるのか、そこから新聞の国際報道における現状や問題点を見つけ出し、自分なりに今後の新聞の国際報道の課題を考察したものがこの論文です。

    

 実際に私がこの研究で行なったことは、2004年8月12日~31日までの、アメリカの新聞(The Washington PostとThe New York Timesの2紙)と、日本の新聞(読売新聞、朝日新聞、毎日新聞の3紙)からアテネオリンピックに関する記事をすべて収集しました。さらにそれらを新聞ごとにExcelを用いて表にして項目ごとに集計し、新聞社同士、日米間において比較分析しました。先行研究などとも照らし合わせ、新聞の国際報道の現状を知り、そこから今後の新聞の国際報道の課題を考察しました。

この卒業研究を書こうと思った理由は何ですか?

私が受講していた「国際関係論」という授業で、2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロを取り上げたことがありました。その中で、アメリカの報道する同時多発テロと、カタールの衛星放送アルジャジーラが報道する同時多発テロではその内容が大きく異なっていたという事実を知りました。これはどういうことかというと、アメリカの報道ではテロの悲惨さなどを強く訴え、戦争へ向け国民感情を煽るような報道をしていたということです。

 同じ「同時多発テロ」という題材を報道していても、取材する側の国や文化、立場などにより、報道の内容が大きく異なるということを知りそこに興味を持ちました。まず、取材する側の違いによって生じる報道の内容の違いを知りたいという願望からこの研究を始めました。

これまでの研究と比較して、あなたのこの研究の長所はなんだと思いますか?

まず挙げられるのは、実際に日本の新聞とアメリカの新聞の記事を収集し、読んで分析したことだと思います。研究を始める前は、記事を集めるのはオリンピック開催中とその前後の20日間だったので、それほど量はないと思っていたのですが、実際に集めてみると、日本の新聞では各紙とも500近い記事が、アメリカの新聞では各紙とも300前後の記事が集まりました。小さな記事も多く含まれますが日米合わせて2105の記事数になりました。これらの記事をすべて表に入力していくのだけでもかなりの時間をついやし、大変苦労した点でもあります。しかし、多くの記事を集めたことにより、母数が大きくなったため、分析結果は特定の記事に左右されることなく、信頼できる数値になったと思っています。

 また、アテネオリンピックは2004年に開催されたばかりであり、他の方が研究していないだろうという長所もあると思います。オリンピックの研究は先行研究がたくさんあると思いますが、アテネオリンピックについては現時点であまり研究されていないと思います。私が卒業研究に取り組むまさにその年がオリンピック開催の年であったことはとてもタイムリーだったと感じています。

日本の新聞を読むときの態度・視点において、あなたの中で変わったことはありますか?

 大学に入ってから一人暮らしを始めたとき、実は私は新聞を購読していませんでした。私にとって、世の中のニュースを知るときは、テレビとインターネットが主な情報源です。印刷や配達のことを考えると、特に即時性という面で新聞はテレビやインターネットに勝つことは出来ません。これから先、インターネットの普及により、新聞はその存続さえ危ないのではないかと考えていました。

 それでも新聞がなくならないのは、「新聞に掲載される記事の信憑性が非常に高い」ということなのではないかと考えるようになりました。テレビやインターネットで流されるニュースは言わば使い捨てのニュースです。人々がそこから情報を得たらそれで役目は終わります。しかし、新聞は図書館に保存され、半永久的に残り、様々な人の研究対象として利用されます。印刷物として紙媒体で残り続けるということは新聞の他のメディアにはない特色の一つだと思います。保存されるメディアとして、新聞はいい加減な情報を掲載する訳にはいかないということです。もちろん他のメディアだからといって信憑性の無い情報をながしていいという訳ではないのですが。

 この研究をするようになってから、新聞の生き残りにより一層興味を持つようになりました。新聞は紙媒体のメディアだという特色に甘えることなく、内容の面でも速報性のあるテレビやインターネットの情報に負けないように、時間をかけて書く深い洞察力を持った記事を掲載して欲しいと思います。

卒論で取り扱った日米の新聞の記事の中で、特に印象に残ったものは何ですか?

やはり「競泳の北島康介の「泳法違反」に関する記事」です。北島はみなさんご存知の通り、100、200メートル平泳ぎで2つの金メダルを獲得するという偉業を成し遂げました。日本では北島の活躍を多く取り上げ、その栄光をたたえる記事が多く見られたのですが、アメリカの新聞はそうではありませんでした。アメリカの新聞では北島の「泳法違反」に注目し、北島を批判するような記事が多く見られました。

 同じ北島を取り上げていても、日米において取り上げられ方に大きな違いが見られおもしろいと思いました。正に私が見たかった「報道内容の違い」を見ることができた訳です。

あなたにとって、新聞の個性とは何ですか?

 今回読んだ日本の新聞では読売新聞と朝日新聞が特に似ていました。使う写真の構図だったり、取り上げる記事に違いがあまりなかったりということです。同じような内容の記事ばかり並んでいるのなら、どの新聞を購読しても同じになってしまいます。これから新聞が生き残って行くためにも、独自の切り口からの記事や、取り上げる記事の選択にもその新聞社独自のものを多く取り上げて、新聞社の特色をもう少し前面に押し出してもよいのではないかと思います。

卒業研究作成に当たって、もっとも苦労したことは何ですか?

 やはり記事の収集とその記事を表にして分析したところです。記事数の多さでも苦労しましたが、アメリカの新聞においては慣れない英語を読むという作業が加わり、さらに時間を費やす結果となりました。

また、最後に結論として、今後の新聞の国際報道の課題を考えるところで、今までの先行研究にはないような独自の視点はないかと考えるのも苦労した点です。

卒業研究を進めるに当たって、後輩に何かアドバイスはありますか?

 私が卒業研究を進めるにあたって、主査の先生がおっしゃられた「卒業研究は大学4年間の締めくくりになるもの」という言葉がずっと忘れられないでいました。記事の多さに圧倒されて、どれだけ研究対象の新聞の数を減らそうと考えたことか……。でもここで妥協したら私の大学4年間を否定することになると思って、妥協はしませんでした。結論に行き詰まったときも何日もパソコンの前に向かっていろいろ考えました。

 卒業研究は大学4年間の集大成として一生残るものです。自分が大学で学んだことをフルに詰め込んで、自分で納得のいく卒業研究を仕上げてください。頑張った後には卒業研究という実際の物と、達成感という目に見えないモノを手に入れることができると思います。

主査・副査の先生からどういう指導・講評をうけましたか?

 収集・分析した記事の多さは評価していただきました。
足りなかった点としては、量的に分析はできたが、もっと深く記事の内容をひとつひとつ分析することができたらよかったという指導を受けました。

情報社会学科で学んだことは何ですか?

 情報社会学科では幅広い分野の勉強ができたと思います。コンピュータの初歩的な技術を身につけたり、プログラミングをしたりするなど、技術系のことも勉強できましたし、心理学や経済学、英語、文化、言い出したら切りがないほどたくさんの学問を学ぶことが出来ました。これだけ多くの分野があると、自分の興味がある分野が必ず見つかると思います。

 情報社会学科の先生方は、各々の分野に精通している方が多くいらっしゃるので、1・2年の授業で自分がもっとも興味を持った分野の先生のゼミに入れば、その分野についての深い知識を得られると思います。

 また、人との出会いにも恵まれました。情報社会学科に入って本当によかったと思っています。

指導教員講評
指導教員:井川充雄

 Sさんは、昨年開催されたアテネオリンピックを題材として、新聞の国際報道の分析を行いました。
今日、「情報のグローバル化」という言葉をよく耳にします。確かに、インターネットを使えば、世界のさまざまな情報に接することができます。また、テレビなどのマス・メディアにも、世界各地からの映像が飛び込んできます。しかし、その一方で、情報とナショナリティ(「国民」性)は密接な関係があります。特に新聞やテレビといったマス・メディアは、基本的に国家の枠内で活動するため、ナショナリズムが発露する場にもなりやすいという特徴を持っています。

 Sさんは、9.11の同時多発テロ以降、国際報道に強い関心を持ってきたそうです。そして卒業研究でも、そうした問題関心に基づいてテーマを選択しました。オリンピックというのは、一見、テロや戦争と違う平和の祭典です。しかし、選手は国を代表して出場する以上、ナショナリズムが発揚する空間でもあります。したがって、その報道の仕方は、国によって違うのではないかというのが、Sさんの出発点でした。

 研究方法は、いわゆる内容分析というものです。実際の紙面から関係記事を抽出し、その分量や内容の傾向などの特徴を比較します。実際、Sさんは、アメリカの新聞2紙(The Washington PostとThe New York Times)と、日本の新聞3紙(読売新聞、朝日新聞、毎日新聞)を対象としましたので、半月余りの新聞記事といっても膨大な量になります。しかも、英語の新聞も含むわけですから、オリンピックに関係する記事を抽出するだけでも大変だったと思います。しかし、そうした基礎的な作業をいとわずに行ったおかげで、Sさんの卒業研究は、実証性に富んだ重厚なものに仕上がりました。

 このようにして、Sさんは、自分なりの問題意識を出発点にして、情報学部で学んだ知識や技術を活かしながら、仮説を立て、データを集め、分析を行いました。こうした卒業研究のプロセスは、後輩のみなさんにも、ぜひ見習ってほしいと思います。

取材・編集:N(2005.3.20)