(以下の記事は、情報社会学科が2学科制の際の【私の卒業研究】です。現在の3学科制の情報社会学科とは扱う内容が一部異なりますが、参考までに掲載します)
卒業研究の内容を教えてください。
私の卒業研究では、愛知万博や浜名湖花博のように、地方公共団体が実地しているイベントに焦点をあてています。私たちの日常生活において「イベント」というものは、思っている以上に様々な所や場面で行われています。アーティストによるライブやコンサート、スポーツの試合もイベントであり、自治会で行うフリーマーケットなどもイベントなのです。人が何かの目的をもって集まればイベントになります。そう考えると、現代の社会はイベント化社会といっていいほどに、イベントが氾濫しているのです。

今回は、多様に開催されているイベントの中でも、地方公共団体が行う「地域イベント」に注目しました。今日、地方公共団体もこぞってイベントの開催に躍起になっています。自分の住んでいる町や市のホームページでイベント情報をみれば、特にイベントの多さを感じることができるでしょう。しかし、地方公共団体が行う様々なイベントは本当に地域住民や地域自体によい効果を与えているのでしょうか。私たちの知らないうちに開催されているイベントも多くあり、また開催しても人が集まらない、地域に定着しない、費用に見合う効果が出ているようには思えないなどといった問題を抱えているイベントがほとんどだと思います。
そこで、私はどのようにすれば、地域イベントをより効果的に行えるのか、そしてまちづくりにつなげていけるのかということを、静岡県静岡市で開催されている「大道芸ワールドカップ」を例にすることによって考えました。
この「大道芸ワールドカップ」というのは、1992年より開催されているイベントであり、費用の半分以上を静岡市が出している地域イベントです。このイベントは毎年200万人近い来場者を集めており、静岡市に様々な影響を与えている、地域イベントとしては成功例といえるイベントです。この大道芸ワールドカップに実際にボランティアスタッフとして参加し、様々な人やまちを調査しました。
その結果、地域イベントに必要なのは「市民力」と「市民力引き出す運営」であると感じました。ただ、人を集めたいだけなら、お金をかけて有名な人を呼んだり、派手なパフォーマンスをすれば、人は集まります。しかし、地域イベントには求められているものは、それだけではなく、イベント自体がいかにまちに影響力をもつかということです。大道芸ワールドカップではその運営はすべてボランティアの市民の力であり、当日のボランティアの数は1000人に上ります。また、商店街や地元企業など地域全体がイベントに関わっているのです。それによって、イベントはより大きくなり、市民がイベントに参加することによって、まちも変わるという好循環を生み出しているのです。
そして、この好循環を生み出しているのが「市民力を引き出す運営」なのです。
この卒業研究を書こうと思った理由は何ですか?
私は大学時代、静大祭や駅伝祭という学校のイベントの運営に大きく関わってきました。そのため、イベント開催の難しさ、そして楽しさを身をもって感じました。このイベント運営を通して、イベントのもつ力にも非常に興味を持ちました。イベントというのは、テレビやインターネットと違い、多くの人と時間と場所を共有し、五感をフル活用して楽しめるものです。好きなアーティストのライブに実際に行き、その声を生で聞いて、体が芯から震えるような気持ちを感じるようなものです。私はこういったイベントの魅力に惹かれてしまい、卒業論文はなにかしらイベントに関わるものをと考えていました。そして、企業が行うイベントやスポーツイベントなど、様々な題材を考えてきましたが、最も興味を持ったのが、大道芸ワールドカップなのです。大道芸ワールドカップに参加し、本当に楽しい・面白いと感じました。それと同時に、自分の地元のイベントはなぜ、この大道芸ワールドカップみたいに面白くできないのだろうとも感じました。この考えが私の卒業研究の題材選択の原点です。

これまでの研究と比較して、あなたのこの研究の長所はなんだと思いますか?
やはり、実際に大道芸ワールドカップのボランティアスタッフとして参加し体感したことにあると思います。また、商店街の会長さんや大道芸ワールドカップの実行委員長やプロデューサーにインタビューをし、当日はボランティアスタッフや、来場者など様々な人の話を聞いたことによって、新たな見方を発見することに繋がったと思います。
共同体にとって、イベントはどのような機能を果たしていると考えましたか?
もっとも大きな機能は人と人を結びつけ、情報交換できる機能であると考えます。イベントに参加することによって人と人のつながりを築きます。人のつながり、新たな力の原点になるのです。そして情報交換することによって、イベントからのメッセージが共同体に広まっていくのです。
静岡大学の学生にとって、学園祭が大きなイベントになりますが、そこに人をたくさん呼ぶにはどうしたらいいと思いますか?
私は、大学時代に大学祭の運営に関わっておりましたが、静大祭in浜松は毎年多くの来場者を集めていると思います。それは、毎年の宣伝活動などのたまものだと思っています。また、静大生も模擬店やフリーマーケットやテクノフェスタなど、自ら盛り上げ側として参加してくださる人が多く、このこともまた、多くの人を集める要因になっていると思います。運営側だけで、大学祭を作っていくのではなく、多くの静大生を巻き込むことによって、大学祭がより楽しめるイベントに成長するのです。また、運営側もただ人を集めるだけではなく、どのようにするばもっと楽しんでもらえるのか、そして、学生の盛り上げ役への参画を効率的に促すことができるということを考える段階へ進んでいると感じます。

このことは、私が調査した地域イベントにも通じるところがあり、人の参加を促す運営方法が大学祭の運営においても必要になっているのです。
卒業研究作成に当たって、もっとも苦労したことは何ですか?
卒業研究作成を通して、自分の力不足を様々な点で感じました。挙げるときりがありませんが、特に客観分析には苦労しました。
実際に大道芸ワールドカップのボランティアスタッフとして参加していたため、油断しているとどうしても考え方が大道芸ワールドカップを擁護する考え方になりがちでした。特に考えを文章にまとめる際は苦労しました。
卒業研究を進めるに当たって、後輩に何かアドバイスはありますか?
卒業研究というものは、自分が興味をもったことを自分の力で掘り下げることができます。しかし、たとえ、興味があることでも自分の力が足らず、題材を変えなくてはならなくなることもあります。そのため、右往左往し、結局は無難な卒業研究に収まるという人も少なくありません。私も、イベントについてもっとこういう風に調べたいと思ったことは何度もあり、そのたびに自分の力のなさを感じてきました。そのため、是非後輩のみなさんには、1~3年の間に様々な力をつけ、自分の興味を持ったことを自分が満足するまで掘り下げて研究に打ち込んでほしいと思います。その研究が文章にまとまったときは、ひとしおの感動を感じることができるはずです!

主査・副査の先生からどういう指導・講評をうけましたか?
副査の西原先生からは実際に人の中に入り調査した点は興味深いというお言葉を頂きました。反面、具体的なデータからの分析が甘いというご指摘も頂きました。
情報社会学科で学んだことは何ですか?
情報社会学科では様々な考え方を学びました。1~2年生の間は国際報道やジェンダーや地域社会など、本当に様々な分野を学び視野を広げることができました。3年生ではメディアと社会のコースに入り、マスメディアなどを本格的に学んできました。

情報社会学科では、この情報が氾濫する時代に本当に必要となる視野の広さを身につけることができたように思います。
指導教員講評
指導教員:井川充雄
Rさんは、毎年、静岡市で開催されている「大道芸ワールドカップ」を例に地域イベントの意義を考察しました。
Rさんの卒業研究の特徴の1つは、地域イベントを経済効果の側面からではなく、「まちづくり」の側面から捉えようとしたことです。花博や万博といった巨大なイベントから、町の小さなイベントまで、今日さまざまなイベントが行われていますが、こうしたイベントはえてして、収益や観客の動員数、インフラ整備の促進など経済効果から考えられがちです。しかし、Rさんは、そうではない側面、つまりそうしたイベントが、それに参加する地域住民や商店街、ボランティア、地元企業などのコミュニケーションを促進させ、それが「まちづくり」にとって重要であるということを示しました。

Rさんの卒業研究の特徴のもう1つは、「大道芸ワールドカップ」に自身がボランティアとして参加する中で、上記の問題意識をふくらませ、卒業研究にまとめたということです。こうした研究方法は、参与観察といいますが、決して中途半端な気持ちでできるものではありません。時間と労力が大変かかります。Rさんは、半年以上、ボランティアとして参加しながら、多くの方々から話を聞きました。これは、文献などからは得ることのできない貴重なものです。Rさんは、以前から、大学祭の運営でリーダーシップを発揮してきましたが、そうした体験も卒業研究でも随所に活かされています。そのおかげで、Rさんの卒業研究は、他の人には決して真似のできないオリジナリティにあふれるものに仕上がりました。対象に積極的にアプローチするRさんの姿勢は高く評価されます。

もちろん、卒業研究をまとめる過程では、ゼミのメンバーから出された意見や疑問に真摯にこたえながら、着実に論文を作り上げることができました。そのおかげで、自己の体験に基づきながらも、客観性のあるものに仕上がったと思います。
取材・編集:N(2005.3.20)