(以下の記事は、情報社会学科が2学科制の際の【私の卒業研究】です。現在の3学科制の情報社会学科とは扱う内容が一部異なりますが、参考までに掲載します)
卒業研究の内容を教えてく ださい。
卒業研究では、主軸交通という日本の大動脈と災害について、地理学的に考察し、静岡県における主軸交通の脆弱点を指摘し、今後取り組むべき課題を提言することを目的としました。

論文の構成は、第1章では、静岡県の風土と先行研究を紹介し、本研究目的を述べました。
第2章では、旅客・貨物流動から静岡県と主軸交通の関係を考察し、主軸交通の現状を各交通機関別に述べ、東名高速道路と主要国道の交通量を図示しました。
第3章では、静岡県で想定される自然災害について述べました。
地震災害では、東海地震を想定し、静岡県の第3次地震被害想定の予想震度を基に主軸交通への影響を考察しました。次に、気象災害による主軸交通切断の事例から、東名高速道路と主要国道の通行規制の状況を図示しました。最後に、自然災害に対する諸機関の取り組みを紹介しました。
第4章では、新潟県中越地震における主軸交通の被害の概要や復旧状況、諸機関の対応について紹介し、中越地震から学ぶ被災時の主軸交通の復旧と地震対策について考察しました。
第5章では、以上から静岡県における主軸交通の脆弱点として、富士川河口部や浜名湖周辺等の危険箇所を要因別に指摘することができました。そして、災害による主軸交通切断の2次的な影響について考察し、諸機関の取り組むべき課題として、複軸による信頼性の高い交通ネットワークの構築や、ゆとりある交通容量の確保、交通と防災諸機関の連携の重要性について提言しました。
この卒業研究を書こうと思った理由は何ですか?
静岡県は東海地震の危険性が危惧される地域であるとともに、日本の大動脈である第一国道軸に位置する交通の要衝になっています。私自身、度々新幹線や高速道路を利用しており、災害が起これば主軸交通どのような被害を受けるか多角的な視点から調べてみたいと思ったからです。
これまでの研究と比較して、あなたのこの研究の長所はなんだと思いますか?
阪神大震災における主軸交通の切断による影響に関する先行研究は存在しましたが、静岡県を事例にした研究は静岡県が発表している第3次地震被害想定にとどまっています。そこで、縦割り行政・管轄の垣根を越えて、東名高速道路、国道1号線、東海道新幹線、東海道本線について、地震災害や気象災害といった自然的要因と交通量、交通容量や旅客数といった社会的要因から各主軸交通の現状と脆弱点を指摘し、地図上に表示しているところが成果であると思います。

また、2004年10月23日に発生した中越地震における主軸交通の被災と関係機関の取り組みを取り上げることができたことです。
静岡県やその他の組織が発表している災害予測と異なっているあなたの指摘は何ですか?
災害は単独で起こるとも限りません。2次災害や別の要因による災害が多発的に起こることも考えられます。
静岡県は温暖なイメージがありますが、東部では毎年積雪があり交通に支障が出ています。また、濃霧や強風・高波といった普段あまり気にかけていない要因が意外に多いことや、交通容量に対して交通量が大幅に多くなっている区間を事故の危険がある為、脆弱点として指摘しました。
東海地震に対して、我々が備えておくべきことは何ですか?
まずは身の安全を確保することが重要です。
家具や大型電化製品の地震対策は最も身近なことです。そして、普段から避難経路や避難場所について知っておくことです。その次に水や備蓄食料、被災時に情報を得られるようにラジオなどを用意しておくことです。
最近世界各地で地震が多発し、地球規模で地震の活動期に入っていると考えられます。日ごろからいつ地震が起きてもいいように「備えあれば憂いなし」の精神で対策を講ずる必要があると思います。
卒業研究作成に当たって、もっとも苦労したことは何ですか?
まず、データの収集に苦労しました。
本研究では国土交通白書や消防白書を始めとした役所の発行物のほかに、道路交通センサスや道路公団や国土交通省の内部資料を用いました。どのような種類のデータがどの様な形式で保管されているかも関係機関に問い合わせないと判らないので、データを準備するのに苦労しました。卒論の締切日にも依頼してあるデータが山のように届くような状態でした。当然、役所などの諸機関を訪問するわけですが、前もって勉強していかないと質問もできません。どこまでは理解できていて、何を聞くのか、どういったデータを必要としているのかをしっかり整理しなくてはなりません。質問する相手はプロですから、たくさんの専門用語も出てきます。話していただいた内容をどれだけ自分の物にするかが一番大切であり大変です。

また、JRからは区間別旅客数や運休・遅延データが頂けなかったので、鉄道の詳細な分析に手をつけられなかったというのも苦労したところです。
地図の作成では、どのようにすれば判りやすく見やすい地図になるかを工夫することに苦労しました。 最後に卒論本文を書き上げるのですが、これが一番苦労しました。章をどのように組み立てていくか、どのように結論に結びつけるか、それを裏付けるデータをどのように添付するか、本文の記述と平行して考えなければならなかったことです。何しろ時間が足りないので、最後の2週間はほぼ毎日徹夜状態でした。
卒業研究を進めるに当たって、後輩に何かアドバイスはありますか?
何をテーマとするかが最も重要なことです。
先生に薦められるテーマもすばらしいと思いますが、自分が日ごろ疑問に思っていることや知りたいと思うことを選ぶことが大切だと思います。興味の無い分野の本を読むことは億劫です。
自分の趣味をテーマに選ぶと、もっと知りたい、調べたいという欲求がでてきます。この姿勢がより深い研究につながると思います。

もちろん私自身の選択においても個人的な趣向が大きく関係しています。例えば、海外の主軸交通の現状を見てみたかったので、ヨーロッパの高速道路をレンタカーで走ったり、TGVやユーロスターにも乗ってみて日本の主軸交通と比較してみたりしました。好きだからこそこのテーマに打ち込めた、という感じでしょうか。
修士課程まで進んだら、もっと広い視点からこのテーマに迫ることもできると考えていました。
主査・副査の先生からどういう指導・講評をうけましたか?
主査の岩崎先生からは主軸交通の脆弱点が地図で一覧できるように、きれいな地図を作るように指導を受けました。
副査の藤井先生からは全体的に判りやすく記述されているとの講評を受けました。
情報社会学科で学んだことは何ですか?
情報社会学科にはあらゆる分野の先生方が居られるので、多くの基礎教養を身につけることができたと思います。また、3年次からは岩崎ゼミでGISと自然地理を、西原ゼミでは市街地再開発について学びました。多くの巡検にも参加し、様々な経験をすることができました。就職活動においても、この4年間で学んだことが自己アピールの一つとして役立ちました。
指導教員講評
指導教員:岩崎一孝
・テーマの独創性と重要性
東海地震を控えた静岡県における災害時の主軸交通への影響というテーマは、非常に需要であるが、他地域の先行研究が少なく、また資料の収集が大変なことから、これまであまり取り上げられなかった。この重要なテーマをあえて取り上げた点を大いに評価したい。
・多くの時間と手間をかけて収集した豊富な資料
日本道路公団、国土交通省総合政策局や中部地方建設局、JR東海などを足繁く訪問して、静岡県主軸交通に関する膨大な統計資料を収集した。この資料収集だけでもひとつの大きな功績と言える。

・豊富な資料および災害実例を基礎とした分析
上記の豊富な資料に加え、2004年10月に発生した新潟県中越地震の災害資料をも入手して静岡県の主軸交通への影響を分析したことにより、とても説得力ある考察と地震対策への提言をすることができた。
・図表などビジュアル面での表現工夫
交通関係などの資料を、単に統計処理して表にまとめることにとどまらず、GISソフトを活用して、地図など見やすく説得力ある手法で表現できている。このことにより、専門分野の異なった人にも容易に理解できる論文になっている。
取材・編集:N(2005.3.20)