【私の卒業研究】Sさん「地方自治体における文書館設置と文書の電子化について」

(以下の記事は、情報社会学科が2学科制の際の【私の卒業研究】です。現在の3学科制の情報社会学科とは扱う内容が一部異なりますが、参考までに掲載します)

卒論の内容を紹介してください。

私は「文書館」と「文書の電子化」という2つの柱で卒論を書きました。文書館とは国や県、市町村等行政機関、または企業、その他団体などがその活動の中で作成したり受け取ったりした記録資料を永久保存して、一般の利用に供する施設です。

日本では文書館と聞いてピンとくる人は少ないと思いますが、欧米では博物館、図書館と並ぶ3大文化施設として広く認識されています。

特に、行政機関は日々大量の文書を作成・処理しており、それら文書は私たち国民・住民に対し、説明責任を果たすための重要な資料となります。しかし、それらすべてを保存することは現実的に不可能なので、保存期限を定め(30年原則に従い、最高30年と定めているところも多くある)、保存期限の満了した文書は廃棄しているのが現状です。

しかし、これでは30年後には、現在の行政資料はすべて無くなってしまい、現在の街の様子や状況を知ることが出来なくなってしまいます。また、2001年に施行され注目を集めた「情報公開法」は、保存期限が満了していない文書(現用文書)にのみ効力を持つものであり、保存期限が満了した文書(非現用文書)は対象外であることはあまり知られていません。さらに現在進む市町村合併により、文書の散逸・廃棄が危惧されています。

このような状況において文書を救済する1つの手段が文書館というわけです。日本には2006年1月現在、都道府県文書館は29館、市区町村文書館は20館あります。これは欧米等諸外国と比べ、格段に少ない数字です。

そこで本研究では、近年における文書館設置の傾向についてまとめ、文書館設置に結びつきやすい要因を探り、どのように文書館を設置すべきかについて考察しました。さらに情報技術の進展により登場してきた「電子文書」の課題を踏まえ、文書館は電子文書をどのように扱おうとしているかについてまとめました。

このテーマを選んだのはどうしてですか?

研究室の先輩方の卒論を読んでいて、「アーカイブ」「文書管理」に漠然とした興味がありました。卒論テーマについて八重樫先生と相談したとき、それではとりあえずの方向性として「文書館設置の目安」を考察してはどうかというアドバイスをいただきました。

しかし、これがやってみたら難しかった。苦戦しました。目安はあるようでないようなものだったので。先生はそう簡単にはいかないと初めからわかっていたようです。多分、いつかは自分で気づくだろうということだったのでしょう。してやられました(笑)

 最終的に、頭を切り替え、そこから派生した形で全国の文書館の設立経緯から設立の要因を探ることを目的にしました。

この論文を書いて得られた知見はなんですか?

静岡県市町村を対象とした調査では文書館については、ほとんどの自治体がその必要性を認めていました。しかし、長引く財政難で設置が困難というのが多くの自治体の見解です。

その一方で、全国には小規模自治体ながらボランティアを募って文書館を設置した団体や文書館設置に積極的に取り組んでいる団体もありました。文書館設置は、文書は住民のものであり、地域の歴史を知る上での財産であるという文書に対する「考え方」の違いが大きいと感じました。

他の文書管理研究と比較して、Sさんの論文の長所は何ですか?

全国の10の文書館についてその設立経緯を比較した点であると思います。また私の卒業研究は、3年前、1年前の先輩の卒業研究を引き継ぐ形となっているのでそれを踏まえたうえで文書館施設やその利用についても詳しく触れられたと思います。あとは近年の文書館設置動向として設置年度の新しい文書館や設置予定の団体を研究の主な対象にしたことも新しいと思います。

卒業研究を進めるに当たって、後輩に何かアドバイスはありますか?

テーマ・構成をある程度決めたら、出来るだけ早く書き始めるとよいと思います。

 私の場合、資料等はある程度読み、頭の中でまとめてはいたのですが、実際書き始めてみると、調べ足りないことがかなり出てきて、構成から見直す必要がありました。

 

締め切りまでそれほど時間がなく、愕然としたのを覚えています。また締め切りぎりぎりはよしましょう。体力にいくら自信があっても3日間ほとんど眠らずではさすがに集中力が落ちます。精神的にもつらいです。

 ある程度余裕をもって取り組むことをおススメします。

主査・副査の先生からどういう指導・講評をうけましたか?

主査の八重樫先生からは、文書館設置の目安を地域の歴史という観点からも調べられたらよかったというコメントを頂きました。副査の藤井先生からは10の文書館について調べたことを評価していただきました。また自分でも感じているのですがもう少し電子化について踏み込んで書ければよかったとの講評をうけました。

情報社会学科で過ごした4年間に学んだことは何ですか?

まず挙げたいのは、自分で主体的に動くことの大切さです。

 先生方は、私たちが積極的に動けば、それに応えてくださいます。価値のある情報は、待っているだけではなかなか手に入りません。自ら行動して、獲得するものです。私の場合、中国語の自主ゼミに参加して、中国語の能力を磨いたり、さまざまな分野の先生にご教示いただいたりしました。これは、他の大学に行ったら得られない、私の貴重な「資産」になりました。

 また頑張っていれば、その姿をどこかで見ていてくれて、行き詰まったときは適切な指導や助言をしてくださいます。

全力で事にぶつかり、色々なことを経験してください。

 

指導教員講評

指導教員:八重樫純樹

 日本では“記録資料”の保存・管理・運用について、行政も民間企業もあまり真剣に取り組んでおりません。諸外国、特に欧米(中国も)では各種社会活動機関・団体等では、活動記録を社会説明責任と後世への活動歴史(記憶)資料として、国家や各機関・団体では社会的記憶装置として一般化しており、膨大なデータベースが構築されております。また、社会情報化・グローバリゼーションのうねりの中で、これらの記録資料情報を世界一体化させようという動向にあり、世界の動向の中で日本は取り残されてしまいかねない情勢です。このため研究室では社会共有情報資源論の立場から文書館研究を柱の一つとして、S君が3度目のテーマとなっております。諸先輩の成果を踏まえた上でのS君の成果でした。

 難しいテーマで、どのようなまとめ方をするのだろうと思っておりましたが、非常に積極的でパワフルな活動をし、四国や九州方面の文書館機関へ直接出かけて調査するなど、かなり奮闘しました。何度か全体構想を変え、最終的には無事軟着陸といったところでしたね。本人も言ってますように、電子文書のアーカイブが非常に大変なテーマで、このテーマの充分な考察にはいたりませんでしたが、基本的調査を行ってくれました。二つの卒論を同時に遂行したようなものです。

 世界一体化動向から日本は取り残されそうなテーマもあり、後輩の卒研にも繋がると思います。最後の最後までパワフルにやってくれました。あのパワーは社会人としても期待できますね。

取材・編集:N(2006.3)

【私の卒業研究】Kさん「沖縄戦報道の現在」

(以下の記事は、情報社会学科が2学科制の際の【私の卒業研究】です。現在の3学科制の情報社会学科とは扱う内容が一部異なりますが、参考までに掲載します)

卒論の内容を紹介してください。

 この卒業論文は、沖縄という地域に着目し、情報やメディアの力がどのように沖縄という地域を動かしてきたかを検証・分析しています。

沖縄という地域は、近現代、世界でも、独特の歴史を歩んでいます。琉球王国から大日本帝国への併合に始まり、世界大戦では史上最悪といわれた沖縄戦という地上戦を経験し、戦後は米国統治時代を経て、ようやく日本への復帰を果たしました。

このように、統治者が短期間で次々と代わることで、沖縄の人々は“沖縄学”や“沖縄人”という文化やアイデンティティーを形成してきています。

ではその過程の中で、メディア、特に沖縄地方紙はどのような役割を果たしてきたのだろうかという疑問から、この論文はスタートしています。よって、この役割や沖縄地方メディアの特徴などをより正確に捉えるため、それらが顕著に現れるであろう“沖縄戦”に焦点を絞り、1997年から2004年までの8年分の沖縄地方紙『沖縄タイムス』と中央紙『朝日新聞』の“沖縄戦”に関する新聞記事を読み込むという研究方法をとりました。

8年分の新聞記事を検証していくことで、多くの特徴や沖縄戦報道の実相を捉えることができました。一番特徴的であったのは、地方メディアによる“沖縄人”としてのアイデンティティーの育成です。『沖縄タイムス』は“沖縄人はこうあるべきだ”という発言を、具体的であれ抽象的であれ、し続けていました。これは他の地方新聞には見られない特徴です。

他にも“抵抗のジャーナリズム”や“キャンペーンジャーナリズム”といった特徴が見られました。そして“沖縄戦”という歴史的事件が現代の諸問題を語る際にも大きく語られているのがよく分かりました。沖縄にとって“沖縄戦”とは、歴史的事象という意味以上に、“沖縄人”というアイデンティティーの根底にある、絶対的な存在であったのです。

このテーマを選んだのはどうしてですか?

 3年次のゼミから、沖縄に関する書物を読んできたのが大きな要因です。ここで沖縄という地域の奥深さを知り、卒業論文時に、それらをより深く知っていきたいと考えるようになりました。

また、この論文では、地方メディアが特定地域のアイデンティティーの形成を助けていることについても指摘していますが、これもゼミ内で『<日本人>の境界』(小熊英二著)という本に出会ったことがきっかけです。

果たして我々はどのようにして、アイデンティティーの形成をしてきたのだろうかという歴史や現状に強い興味を抱くきっかけとなりました。

多くの本を読み、そして様々なことについて“知る”ということに加え、“考える”という機会を多く与えられる荒川研究室に所属できたからこそ、このテーマを選べたのだと思います。

この論文を書いて得られた知見はなんですか?

 まずは、“情報”や“メディア”の影響力の強さです。これは、論文を書く前にももちろん知っていたことではあるのですが、実際に論文を書くことで体感できたように思います。沖縄という小さな地域の持つ、底知れないパワーというものは、沖縄地方紙のもつ“抵抗のジャーナリズム”などの特徴に支えられているのではないかとも感じました。

 また、“沖縄戦”という歴史的事件をただ報じるのではなく、それが現代の問題解決に生きることもあったという点から、“沖縄戦”という存在の大きさを知りました。沖縄地方紙においては、“戦争を繰り返してはいけない”という趣向以外でも、“沖縄戦”を報じることがあるのです。

 そして“沖縄戦”は、現代の“沖縄人”というアイデンティティーすらも支えているのです。例えば本土生まれ本土育ちの人間が、“自分は●●県人だ”もしくは“自分は日本人だ”ということをそれほど強く意識するだろうか、その意識の裏に第二次世界大戦があるだろうかという比較を持ち出せば、沖縄メディアの訴えるものが如何に特徴的かが分かります。

これは史上最悪と呼ばれる“沖縄戦”を経験しただけでは生まれなかった意識ではないでしょうか。やはりその背景には、それらを強く訴え続ける沖縄地方紙があるのだと思います。

現代社会に潜む意識を、“沖縄戦”という歴史と沖縄地方紙が形成してきたということも、今回得られた知見です。

荒川先生の指導は、この論文でどのように生かされましたか?

 さきほどお話ししたとおり、3年次からの荒川先生の指導があったからこそ、この論文テーマに出会えました。これはとても幸せなことだと思います。

 調査方法の模索に始まり、研究途中にも、どのような点に注目して研究を進めればよいか等の指導もしていただきました。記事の検証でいっぱいいっぱいになってしまうため、それらを如何に分析していくかという多くの新たな視点の発見に、生かせていると思います。

他の沖縄研究と比較して、Kさんの論文の長所は何ですか?

 何よりも、8年間を通して、沖縄地方紙『沖縄タイムス』の“沖縄戦”に関する記事全てを研究対象としている点です。更に中央紙『朝日新聞』の同じ条件の記事を研究対象とし、比較して“沖縄戦報道”の実情を捉えようとしている論文は、他にないと思います。またそこからアイデンティティーの形成などへ視点を移しているのも、この論文の特徴です。

卒業研究作成に当たって、もっとも苦労したことは何ですか?

 やはり8年分の記事の検証です。半年以上かけて検証してきました。記事データ自体はWeb上で公開されているため、手に入れるのは容易でしたが、何しろデータ量もかなり多く、また記事の雰囲気も重いものが多かったため、非常に多くの時間をとってしまいました。しかし今振り返ってみれば、その積み重ねがこの論文の命になっていると思います。

 

卒業研究を進めるに当たって、後輩に何かアドバイスはありますか?

 まずは興味のある分野を見つけることだと思います。私自身、1・2年次にはこの論文のテーマとなっている分野にはほとんど興味がありませんでしたが、ゼミなどを通して、この分野のおもしろさに惹きつけられるようになりました。極力多くの分野に目をむけ、まずは自分の知的好奇心をくすぐるものに出会えるよう努力すべきだと思います。

興味のある分野であれば、研究自体も、大変ではあるかもしれませんが、根気強くやっていけると思います。

主査・副査の先生からどういう指導・講評をうけましたか?

 一地方新聞が“沖縄人”というアイデンティティーの形成に役立っているという主張についてが主でした。自分が論文内で力を入れたこの主張に触れてもらったのが嬉しかったです。

沖縄問題という重い問題にじっくり取り組み、一つ一つの記事を丁寧に読み込み、問題点をあぶりだしていることに成功しています。論文を読んで、その点に敬服しました。Kさんはこのような執筆態度はどのようにして身につけたのですか?

 これは、荒川先生からの指導、という一言に尽きると思います。私は元々熱しやすく冷めやすいタイプですので、このように膨大な情報を整理し、まとめ、執筆するという作業には向かない人間だと思います。

 しかし、掘り下げれば掘り下げるほど多くの問題があふれ出すこの沖縄問題という分野を選んだことに加え、荒川先生にこの沖縄に存在する様々な問題を如何に検証していくかという多くの道を提示していただいた結果、この論文のように、じっくりと一つのことに取り組むことが出来ました。

 興味が尽きることなく、最後まで好奇心をかき立てられながら執筆できたのは、本当に幸せです。

情報社会学科で過ごした4年間に学んだことは何ですか?

 情報の持つ力の強さです。情報は、たとえばどのような媒体であれ、それが真実の情報であっても虚偽の情報であっても、驚くほどの影響力をみせます。そんなことは分かっていると感じる人もいるかもしれませんが、どのようなことであっても、“何となく分かっている”と“自分自身で検証した上で分かっている”では大きな違いが有ります。実際に4年かけて情報の力を学べたことは、代えがたい私の財産となりました。

 

指導教員講評

指導教員:荒川章二

 Kさんの卒業論文『沖縄戦報道の現在』は、(1)沖縄戦という歴史的体験が沖縄の人々のアイデンティティー形成にどのような意味を持っているのか、(2)そのような意識化の過程で地域ジャーナリズムがどのような役割を果たしているのか、という二つの、いずれもかなり検証が難しい課題にチャレンジし、それを卒業論文としては相当の高水準で解明しました。

 私のゼミでは、3年次から沖縄関係マスコミ史の様々な文献を読み、また、演習の最初では(10分程度)、参加者全員が『沖縄タイムス』や『琉球新報』など沖縄関係の新聞から「今週の記事」をなんでも一つ拾い出し、紹介する形式の授業を行い、沖縄の新聞・あるいは沖縄での日常的出来事に親しむようにしてきました。このような2年間の沖縄関係文献講読の授業とKさんのたぐいまれな集中力・分析力とがうまく絡み合い、いい成果が出せたと思います。

 しかしそれにしても、Kさん自身が繰り返し強調しているように、8年間にわたる沖縄タイムスの沖縄戦関係記事をよくここまで読み込みました。沖縄戦という言葉を何らかの形で含めた記事は、実は毎年700~900件にも上ります。8年間では5000件を越える膨大な分量の記事になるわけです。Kさんは、この膨大な記事をきっちり読む込み、整理し、その変化や特徴を明らかにしています。

 卒研指導の途中、私はKさんに対し、この記事の意味は、また、この記事をなぜこう分析するのかというような質問を何度も投げかけましたが、そのほとんどに対し、内容をふまえた的確な回答が帰ってきました。Kさんが、記事をきっちり読み込んだことが確認できます。だからこそ、これだけの水準に持っていけたのでしょう。

 Kさんは、最後に「情報の力」について語っています。それは、情報学部での4年間の経験全体を通じて実感したものでしょうが、この卒業研究では、一度に出されれば途方にくれる程の、しかもバラバラで膨大な情報に筋道を付け、意味づけるという、《情報に価値を吹き込む》作業をしました。この作業がKさんの人生にとって「無形の力」になっていくことを期待しています。

取材・編集:H(2006.3)