杉山岳弘研究室

杉山研究室は、コミュニケーション分析と情報デザインの研究室です。フィールドに赴いて会話等の情報を収集し、情報の流れを記述してパターンを抽出し、パターンが駆動するように関係するコンテンツをデザインします。

杉山研_集合写真

具体的には、地域情報資源のコンテンツ化、観光コンテンツの分析と開発、Webデザイン、映像制作など、コンテンツを中心に幅広く研究活動しています。

最近は、地域の情報資源のコンテンツ化に力を入れています。浜松市天竜区水窪町の民俗芸能の「西浦の田楽」のデジタルアーカイブ化、三ヶ日町の観光活性化に関する調査研究(ヤマハ発動機との共同研究)、浜松・浜名湖ツーリズムビューローの観光データに関する分析と活用に力を入れています。

西浦の田楽の撮影

フィールドワーク_飯田市美術博物館

また、プロジェクト型の専門科目である先端情報学実習では、楽器博物館と連携して、楽器をVR空間で演奏できるようにするシステムの開発や、舘山寺の観光活性化事業などを進めています。

 

担当科目:

担当科目は、メディア関係の「Webデザイン」と「メディア制作演習」、数理データサイエンス関係の「データとプログラミング」です。また、教養科目として「地域社会と情報」や「数学の世界」もやっています。

Webデザイン」では、「Web」を制作する上流工程を中心に、企画・設計・実装までを通して行います。特に、企画ではターゲットやゴールを考えるコンセプトデザインというのをしっかり考えた上で、Webサイトの設計をしていきます。後半は、本格的なプロジェクト型のWeb制作に入り、企画は自由で、受講生らは実装の大変さを味わいながら、楽しく制作し、毎年さまざまなWebサイトが誕生します。

メディア制作演習」では、情報を発信する立場からメディアを学ぶ演習で、発信者になって、テーマに沿ってコンテンツを制作して、情報発信を行って行きます。特に、4回目から、映像班・雑誌班・創作班に分かれてそれぞれ制作をしていきます。

杉山は映像班を担当していて、企画、構成・絵コンテ、撮影、編集・MA、配信という流れで、一通り演習を行います。最後は、全班全員で集まって、公開授業として最終発表会を行い、他の班のすごさに驚きながら、自分たちも頑張った成果を自慢げに発表をしていきます。

メディア制作演習_集中講義

 

杉山研究室の卒業研究:

メディアに関することならなんでも研究テーマにしてしまう学生さん達のおかげで、本当に多種多様なテーマが生まれています。このリストに過去の卒業研究を見ることができます。

ちょっと変わった卒業研究として、フォントに関する研究を紹介します。観光地に合ったフォントがあるはずだ、という仮説のもと、観光地とフォントの印象評価をそれぞれ実施して、その類似度から合ったフォントを見つけるという実験をしました。
観光地に適したフォントに関する調査 -京都・横浜・名古屋・浜松・福井・岐阜羽島-
この研究は観光情報学会の第28回研究発表会で発表して、研究会優秀賞を受賞しました!

もうひとつ、ちょっと変わった卒業制作を紹介します。情報社会学科では、卒業研究だけでなく、卒業制作というのもあります。紹介するのは、
人の魅力を紹介する「魅力発見!三ヶ日似顔絵イラストマップ」の制作
です。三ヶ日の人を好きすぎて、地域活性化に地図を作りたいという思いで、似顔絵イラストマップを制作しています。観光協会の会議に何度も出席して、20人以上にインタビューして、予算を獲得して、印刷して、配布までする、とてもパワフルな卒業制作でした。

三ヶ日似顔絵マップ_B3_表紙

三ヶ日似顔絵マップ_B3_裏_地図面

杉山研究室の自主ゼミ:

杉山研では、個人の興味に応じて、自発的に自主ゼミを行っており、去年は「ノンデザイナーズ・デザインブック」、今年は「失敗の科学」と「統計学入門」を行いました。最初はそんなに興味なくても参加しているうちに、勉強になっているように思います。

卒業研究合宿:

毎年夏に研究室の卒業生である目白大学メディア学部の西尾研究室と合同で合宿を行っています。総勢、50人近く集まる合宿で、合宿係も大変ですが、卒研発表会では、思いも寄らない多様な質問やコメントをもらい、本当に有意義な合宿を行っています。もちろん、観光もあり、毎年学生達が楽しみにしています。

合同合宿の様子_グループワーク

 

合同合宿_観光_大涌谷

 

 

 

吉田寛研究室

(この記事で使われた画像は吉田先生にご提供いただいたものです。個人が特定されないよう配慮しましたが、不都合等がありましたらご連絡ください)

吉田研究室は、これまでの人間の思想・考えかたがどういうふうに変化しているか、を探求しています。情報学部に所属しているので、特に情報機器やそれを使った発信について考えています。

たとえば、人工知能の登場で人間に対する考え方か、知識が変わろうとしているか、今後の人間社会がどういう方向に進んでいくのか、が考察の対象です。

インスタグラムやX(旧Twitter)などのようなSNSのなかに、思想や考え方がどのように入り込み、広がっているか、について考えています。SNSの分析も吉田寛研究室の研究の範囲です。

・吉田先生の担当科目
具体的には「情報社会思想」という科目を担当しています。そこでは、情報社会を作ってきた技術者が持っていた思想はどういうものかを最初に検討しています。また、情報社会の一面であるかもしれない「監視社会」について考えています。

そもそも「監視」とは何か、ITが作る理想像はどのようなものかを踏まえ、ロボットと共存する社会、について互いに意見を交わしながら、考えていきます。

一方的に担当教員が話すのではなく、受講生の意見を汲み取りながらこの授業なりの結論にたどり着こうと思っています。

夕方の授業(16:05-17:35)なので、高校生(1~3年の全学年)にも公開されています。高校生が参加していたこともありました。この科目は「高大連携科目」と呼ばれ、近隣の高校と協定を結んで受講してもらっています。(浜松の高校生で、この科目を受講したい人は、学校の先生に相談してみてください)

思想と芸術」という科目も担当しています。
高校の倫理社会と違って、昔の哲学者のことばではなく、自分の問題として考察しています。

「夢と現実を区別できるか」「言葉で言いたいことを伝えられるか」などのほか、アニメ作品も取り上げるなど、具体例を挙げて、受講生全員と対話しながら、それぞれの考えに到達することを求めています。

PBL」も担当しています。「PBL」とは、「Project Based Learning」や「Problem Based Learning」などの略称とされています。

一般に、「課題解決型学習」や「問題解決型学習」「プロジェクト型学習」などと訳されています。この科目は、1年生の必修科目で、情報学部で学んでいく上で必要なスキルや態度を学ぶことになっています。

この授業では、グループワークを通して、グループを通して一人では到達できないところまで到達するセンスを養います。多くの学生は、この授業で学ぶことによって、学問に主体的に立ち向かう楽しみが得られます。

・吉田研究室の過去の卒業研究
毎年たくさんの卒業研究が吉田研究室では提出されますが、そのなかでもユニークな卒業研究を2つご紹介しましょう。

1つ目は、「死者AIが許される条件」です。
具体的なテーマは「死者AIが許される条件にどのようなものがあるか」というものです。この卒業研究を学生が取り組もうとした背景は生成AIの普及が出発点です。生成AI によって表情や態度、話す内容が、他人によって「再生」する時代になっているという点です。

あなたが会ったこともない、明治初め頃の遠い先祖が白黒写真のなかから「よみがえ」って、カラー動画の人物としてあなたに微笑みかけ、親しく言葉を発したら、あなたの心にはこみ上げてくる感情がきっとあるでしょう。

では、あなたがかつて一緒に暮らし、まだ記憶にある故人の画像に手を加え、他人の意図のもとに動かし、勝手な内容をしゃべらせたら、あなたはどう思いますか。

あるいは、子供の頃に飼っていたペットが古い写真の中から「よみがえ」り、あなたを見つめながら近づいてくる動画はどうでしょうか。

この卒業研究では、その点を踏まえ、故人を「人工知能」で「再現」することがどのような場合に許され、どのような場合に許されないかを検討しました。

本人の思い、家族の思い、第三者の思いの優先順位をどうつけるか、プライバシーがどこまで存在するか、人権・尊厳がどこまで尊重されるか—-その点を意識し、この論文は書かれました。

2つ目の卒業研究は、「サードプレイスにおける社会志向と個人志向」です。「サードプレイス」とは、自分が所属する社会、コミュニティにおいて、自宅(ファーストプレイス)とも学校や職場(セカンドプレイス)とも異なり、そこから隔離された、自分にとって心地のよい時間を過ごせる第三の居場所(サードプレイス)のことを指します。

この卒業研究では、大学生にとって、学校でも自宅でもない居場所を活用していくかという問題に取り組みました。

なぜ「サードプレイス」が求められるかというと、自宅でも学校でも、何らかの「役割」が自分に求められる結果、自分はいつも求められる役割を演じることになってしまいます。「それって本当の自分と言えるのか」という疑問がこの論文の出発点です。

では、どうすれば役割を演じないで、本来の自分にたどり着けるか。
そういう場所を大切にすることにどういう意義があるか。
サードプレイスを活用することでどのような可能性を見いだせるのか。

この学生は休学して国内の島に行き、そこで「島留学」を経験して、その経験を卒業研究の基礎としました。この学生は島で、自分でいられる場所をどう見つけ、自分を拡張し、社会との交流を活かしながら生きていく実践を行い、その経験を思索の対象としました。

その結果、社会の中でことさらに自分を作らないで、本来に近い自分を広げていく試み、自然のままのこころを抱いて自分を肯定して生きる道を考察し、論文にしました。

単に自分自身の経験だけに依拠するのではなく、カフェや広場の責任者などにインタビューして、多方面から考察し、自分の経験だけでなく、調査と理論も含めた内容を持つ優れた論文となりました。

・吉田研究室の自主ゼミ(授業外の自主的な研究会)
吉田研究室内には、珈琲研究会があります。実態は、実は吉田先生もすべて把握していないという、学生主体の自由な研究会です。時間の拘束も金銭的負担もありません。

コアメンバーが5人で、時々参加する人もいれると、15人くらいです。情報学部だけではく、工学部の学生もいます。2013年から続いているので、もう10年以上活動していることになります。

生まれたきっかけは、静岡大学図書館浜松分館でカフェを吉田研の学生が提供したことです。それ以降、ずっと継続しています。会費等はなく、カンパで運営しているのも特徴の一つです。コーヒー豆も機器もすべてカンパで購入しています。

この研究会は、大学の諸行事に呼ばれてカフェを提供することもあります。また、学内で月に一度くらいのペースでカフェコーナーを作って、皆さんに美味しいコーヒーを提供しています。

この研究会はまず、美味しいコーヒーの淹れ方を研究しています。豆の選び方に始まり、その豆をどう扱ったら美味しくなるか、地道に研究しています。理系のひとはデータを活用しつつ、特に淹れ方にこだわっているなど、普段どういう点に意識をおいているかという生態に差が生まれます。


コーヒーを単に飲み物を提供するだけでなく、カフェを起点にして、教員・職員・学生がどうコミュニケーションを作れるか、についても研究しているのが特徴です。

物質としてのコーヒーと、文化としてのコーヒーの両面を考えています。浜松キャンパスには多くの学科があり、多様な考えを持ったひとが集まっています。その人たちが「カフェ」という場所で集まります。

その人たちの中には、研究対象、考え方、生活スタイルなどの共通点や相違点があります。そういう人たちがそこでどのような刺激を受け、あるいは、多様性を認識するのか、を経験し、実践につなげていくかの試みの場所でもあります。

吉田研究室にはもう一つ、別の自主ゼミがあります。
ガバナンス研究会」がそれで、通称、「ガバ研」です。
ガバナンスとは、「統治」「統制」「管理」を意味する言葉ですが、ここでは広く考えて、思考や意思決定などの面で、ものごとを決めていくあらゆるプロセスを指します。ですので、テーマはさまざまです。各自が自由なテーマを自分で作り、意見交換する場として活動しています。

ここでの成果をどう活用するかも自由です。もちろん、卒業研究につなげていくことも可能です。

この研究会では、まず、知識や関心の幅を深めることに主眼を置いています。素材としては本を輪読することもありますし、SF映画を視聴して語り合うこともあります。

・卒業研究合宿
山梨の富士五湖で行うことが通例です。この日までに卒業研究の準備をし、論文構想について発表し、意見交換をします。
OBOGも参加するので、全部で20人くらいになります。
卒業研究をすでに経験した先輩から助言をもらえるので、実践的な場になります。

 

情報社会学科で学んだもの(Tさん)

・どうして静岡大学情報学部情報社会学科を受験しようと考えたか
文理融合という特色に惹かれて受験しました。高校では理系のクラスで学んでいたのですが、そのまま大学で理系に進むべきか悩んでいました。情報社会学科は文系と理系のバランスが程よく、色々な学問に触れられると感じたのが受験を決意した理由です。

・当初、どういう将来像を思い浮かべていたか
これがやりたい、という明確な目標はありませんでした。入学当初は普通に大学生活を送って、普通に就職するかなと思っていました。ただ、大学に在籍している間に色々と経験をして、絶対に自分の道を見つけたい、という思いは持っていました。

・情報社会学科で学んだものはなにか
一つはアルゴリズムやシステムに対する理解です。当時はまだ今ほどオンラインメディアが生活の一部とはなっていませんでしたが、その時期に裏側の仕組みを学べたのは大きな財産となりました。4年間の学びを通して、パソコンを使い、ネット上で必要な情報を収集することが得意となり、そのおかげで、世界が大きく広がったと感じています。

もう一つは、様々な分野の学問に触れられたことです。情報社会学科には多様な先生が在籍していたため、色々な考え方や価値観に触れることができました。私自身は最終的にマス・コミュニケーション学のゼミに進んだのですが、在学中は著作権に関する法学の授業、政治学、都市学、異文化コミュニケーション学など、実に多くの学問に接することができました。正規に所属していたゼミ以外にも、吉田先生のガバナンス研究会に参加できたことも大きな学びでした。これらのおかげで、視野が広がり、人間としての幅も広がったと感じています。

・卒業研究で何に取り組んだか
卒業研究ではメディアの報道分析を行いました。

・在学中に得たものはなにか
得たものはとても多いのですが、一番ははやり、社会には多様な価値観や考え方があるということを身をもって感じたことでしょうか。当たり前のことかもしれませんが、様々な学問に触れることで、多様な価値観の存在を、身をもって体感できたと思います。

・大学在学中に同級生とどういう交流があったか
在学中は大学祭実行員会に入っていました。大学祭に向けて学生同士で会議したり、準備したりしたことは今でも良き思い出です。情報社会学科の友達とは、毎日のように交流していました。中でも課題提出前やテスト前に、夜中まで情報学部棟で勉強したのが思い出されます。

・どういう業界に就職したか
卒業後はアメリカに留学をし、日本に戻った後は大学の教員として仕事をしています。

・大学で自分の夢をどう実現したか
上にも書いたように、大学に入った時にはこれといった夢はありませんでした。ただ、色々な経験をする、という目標は達成できたと思います。あとは、卒業論文を書く過程で、案外自分は研究をするのが嫌いではない、と気づきました。今振り返ると、この経験はその後の自分の進路を決める上での一つの分岐点だったと思います。

・大学で得たものをどう活かしているか
デジタルメディアを難なく使いこなせるようになったことで、今まで入手しにくかった情報にもアクセスできるようになり、できることが多くなりました。

・卒業後、静岡大学とどう関わっているか
離れたところに住んでいるため、あまり関われていません(残念です)。

・どのような分野に就職し、いま、どういう仕事をしているか
大学で教員をしています。専門はメディア心理学です。

・今後の情報学部に期待するもの
文理融合はとてもいい理念だと感じています。また、学生の数に対して、先生の数が多いのは国立大学の良い点です。在学時は気付きませんでしたが、先生の数が多かったことで、丁寧に指導していただけたことは、とても贅沢な体験でした。今後とも、多様な価値観を理解できる人材、バランスの取れた人材が輩出されるような学部であってほしいなと思います。