この卒業研究の内容を紹介してください。
卒業研究では、インフルエンサーによるPR投稿に着目し、スポンサーシップ開示方法と同一投稿内で紹介される商品数の違いが、消費者の広告認識やインフルエンサー評価にどのような影響を与えるのかを検証しました。

近年、インフルエンサーを活用した広告が広がるにつれて、SNS上では企業がインフルエンサーに依頼して商品を紹介するPR投稿が増えています。PR投稿では、企業との関係があることを示す「PR」や「広告」などの表示(スポンサーシップ開示)を行うことが求められています。しかし、表示が分かりづらかったり、曖昧な表現が使われたりする投稿も見られます。スポンサーシップ開示の明瞭化が求められている一方で、統一された表示基準が存在しないため、スポンサーシップの開示方法はインフルエンサーごとに大きく異なっているのが現状です。
また、商品を紹介するPR投稿では、スポンサーシップを受けている商品と受けていない商品が混在した複雑なPR投稿も存在しています。
こうしたSNS環境において、SNSの利用者が投稿をどの程度広告として認識しているのか、また、その投稿やインフルエンサーにどのような印象を持つのかについては、十分に研究されてきませんでした。そこで本研究では、架空のInstagramのPR投稿を用いた実験調査を実施し、消費者の広告認識やインフルエンサーへの好意度、信頼性評価への影響を分析しました。
この卒業研究に取り組もうと考えた動機はなんですか。
日常的にInstagramを利用する中で、PR投稿であるにもかかわらず広告だと気づきにくい投稿が多いと感じたことがきっかけです。特に、PR投稿であるにもかかわらず、投稿内で複数の商品が紹介されている投稿では、どの商品が広告なのか分かりにくいと感じる場面がありました。こうした状況が消費者の意思決定にどのような影響を与えているのかを明らかにしたいと思い、本研究に取り組みました。

内外の既存研究と比べて、本研究はどの点に新規性や独自性がありますか。
本研究の新規性は、InstagramにおけるインフルエンサーのPR投稿について、スポンサーシップ開示の有無だけでなく、同一投稿内で紹介される商品数や開示の明瞭さに着目した点にあります。従来の研究では、スポンサーシップ開示の有無やインフルエンサーの信頼性に焦点を当てた研究が多く見られました。本研究では、日本におけるPR投稿の特徴を踏まえた投稿を再現し、実際のSNS環境に近い状況下で広告認識や消費者評価への影響を実証的に検討しました。これらの点に、本研究の既存研究と比べた新規性があります。
消費者保護という観点から、本研究で特に重要だと分かった点は何ですか。
本研究の結果から、スポンサーシップ開示が行われていても、その表示方法や投稿内で紹介される商品数によっては、消費者が広告であることを十分に認識できない可能性があることが明らかとなりました。特に、複数の商品が同一投稿内で紹介される投稿においては、広告認識が低下する傾向が確認されました。

これは、投稿内の情報量が増えることで消費者の注意が分散し、スポンサーシップ開示への注意が向きにくくなることによる影響が考えられます。したがって、消費者保護の観点からは、単に開示を行うだけでなく、消費者が広告であることを適切に理解できるよう、開示の明瞭さや表示方法を工夫することの重要性が示唆されました。
企業や広告代理店、プラットフォーム事業者にとって、本研究はどのような示唆を与えると考えますか。
本研究の結果から、インフルエンサーによるPR投稿では、消費者保護の観点から消費者が広告であることを認識しやすい表示方法を設計することの重要性が示唆されました。そのため、企業や広告代理店は、単にスポンサーシップ表記を付すだけでなく、開示の位置や表現方法、投稿内で紹介する商品数などを含めたPR投稿全体の設計を検討する必要があります。

また、プラットフォームにおいても、スポンサーシップ投稿であることが利用者に明確に伝わるよう、視認性の高い開示表示の仕組みを整備することが重要であると考えられます。さらに、現行の制度ではスポンサーシップ関係があることを開示することが求められていますが、その表示方法は必ずしも統一されていません。消費者が広告であることを適切に認識できるようにするためには、開示表記や表示方法の標準化を進めることも、今後の制度設計において検討すべき課題であると考えられます。
主査・副査の先生からどういう指導・講評をうけましたか。
主査である高口鉄平先生からは、調査設計の妥当性や分析手法の適切性について、多くのご指導をいただきました。本研究では、本調査に先立ち予備調査を実施しましたが、その段階から調査設計について丁寧に助言をいただき、研究全体の方向性を明確にすることができました。
また、本研究ではInstagramを模した調査用サイトと架空のPR投稿を作成しましたが、投稿の構成やデザイン面について何度も相談に乗っていただき、実際の閲覧環境に近い調査設計を実現することができました。多くの調査対象者を必要とする研究であった中、対象者数の設定や調査実施方法についてもご指導をいただき、十分なサンプル数を確保することができたのは高口先生のおかげです。

副査である杉山岳弘先生からは、分析結果を踏まえ、今後の施策や実務的示唆へとどのようにつなげるべきかという視点についてご指導をいただきました。論点を提示していただいたことで、考察をより深めることができました。
この卒業研究に取り組む過程で、あなたの中で変わったことはなんですか。
研究を通して、分析手法を主体的に学ぶ姿勢や、分からないことをそのままにせず、理解できるまで追求する姿勢が身についたと感じています。研究を進める中で新しく学ぶ研究手法や知識に直面する場面も多くありましたが、自分が納得できるまで文献を調べたり、指導教員の先生に助言をいただいたりしながら理解を深めていきました。
また、SNSをこれまでよりも批判的かつ客観的に捉えるようになり、日常的に接している情報の背後にある意図や仕組みを考える習慣が身についたことも、自身にとって大きな変化であると感じています。
情報社会学科で過ごした4年間に学んだことは何ですか?
情報社会学科では、幅広い学問領域から情報学を学ぶことができました。私自身は特に、経済学・メディア学・法学・社会学を中心に、情報を取り巻く制度や市場構造、メディア環境について学びました。多様な視点から情報社会を捉える力が身についたことを実感しています。
現代社会において情報は、人々の意思決定や行動、価値観の形成に大きな影響を与えています。本学科での学びを通して、情報を単なる技術やデータとしてではなく、人々の意思決定やコミュニケーション、社会構造と密接に関わる社会的な存在として捉える視点を身につけることができました。

指導教員講評
指導教員:高口鉄平
取材・編集:情報社会学科OSスタッフ(2026-03-17)