駿河湾MI研究/Marine Informatics Research

 

《他拠点へ容易に展開可能な魚種・サイズ選別AIシステムの開発(2025-28年度)》

<概要> 本研究では、本チームのこれまでのIoT/AI研究開発成果をベースに、駿河湾に生息する魚種を想定した、駿河湾生息魚種・サイズ選別AIシステムを研究開発し、その選別精度向上と選別処理速度向上の両立を目指します。特に、駿河湾に分散する漁協毎に異なる水揚げ魚種、物理的制約、漁協関係者などに横展開可能な、汎用的なデータ収集&魚種・サイズ選別プラットフォームを研究開発し、地元企業や漁協とも連携し概念実証を図っていく予定です。

 <研究分担者>  ◎峰野 博史(静岡大学)、長谷川 達人(福井大学)、山本 泰生(静岡大学)

 <研究協力機関> 静岡県水産・海洋技術研究所、株式会社イシダテック、焼津漁協、浜名漁協、など

 

 研究で対象とする駿河湾は、日本で最も深い湾であり、約 1,000 種の魚種が生息する豊かな生態系を有します。特にシラス、サクラエビ、カツオ、アジ、サバ、イワシなど全国有数の水揚げを誇る魚種が生息しており、沿岸に点在する主要漁協は 10 漁協あり、それぞれ駿河湾の水産業を支え地域の活性化に寄与しています。以上のように駿河湾の水産業は、全国有数の重要産業ですが、他の地域同様に、慢性的な新規就業者不足とそれに伴う高齢化が深刻化しており、持続可能な漁業の実現には、デジタル技術の導入と同時に、生態系保全が不可欠だと考えます。国内外では、水温、塩分、海流などの漁場データ、漁船の位置や漁獲量、漁港での選別や計量の情報、さらには流通や消費に関するデータを統合・共有する基盤を構築し、デジタル・バリューチェーンの形成が目指されています。

 本研究では、漁業における陸揚げから販売までの一般的な流通工程における選別作業において人海戦術で行われていることの多い魚種選別・サイズ選別を対象としています。本チームのこれまでの研究開発成果をベースに、駿河湾に生息する約 1,000 種類の魚種を想定した、駿河湾生息魚種・サイズ選別 AI の実現、その選別精度向上と選別処理速度向上の両立を目指します。特に、駿河湾に分散する漁協毎に異なる水揚げ魚種、物理的制約、漁協関係者などに横展開可能な、汎用的なデータ収集&魚種・サイズ選別プラットフォームを研究開発し、地元企業や漁協とも連携し概念実証を図っていく予定です。

イメージ図3

 魚種・サイズ選別 AI の一般的な研究開発は、1.画像撮影、2.大量の教師データ作成、3.深層学習モデルに教師データを与えて学習、4.学習済みモデルで推論、といった工程で行われます。既に国内外で様々な AI 魚種選別システムの研究開発事例がありますが、残課題として、漁港・季節ごとに異なる魚種、教師データ作成の労力、選別精度・速度の向上、供給部・搬送部・排出部の効率、といった課題が複合的に絡み、漁港ごとに再調整しなければならず他拠点へ容易に展開可能な状況には至っておりません。具体的には、漁獲物の画像データは各漁港に応じて異なる分布特徴を持っており、同じ魚種でも各漁港の撮影環境や時間帯によって見え方が大きく異なることがあります。また、各漁港の漁獲物の違いによっても収集される魚種データの分布に大きな偏りが生じることがあります。このような漁獲物の画像データの分布差によって、AI 選別モデルの認識精度が低下することが課題となっています。

 本研究では、データ分布の違いに頑健な魚種・サイズ選別 AI システムの実現に向け、各漁港の漁獲量データの特性を活かした連合学習法とその実証を行います。連合学習は、異なる拠点の有する分散データを扱う機械学習のフレームワークで、各拠点の分布特性を活かした学習法が重要となります。データ保護や通信コストの点にも優れており、最新の連合学習法を導入することで、各漁港の分布特性に基づき高精度かつスケーラブルな魚種・サイズ選別 AI システムを実現できると考えます。

 

※ 本研究は,マリンインフォマティクス研究機構(MI機構)の支援を受けています。MI機構は、静岡市・静岡県が進める「駿河湾・海洋デジタルトランスフォーメーション(海洋DX)先端拠点化計画」の中核組織として2025年4月に設置され、静岡大学や静岡理工科大学、東海大学とも連携して、「マリンインフォマティクス先端研究」の推進や「駿河湾海洋DX基盤システム」の開発・運用を進めています。