富士川を始め興津川や大井川など、主に駿河湾の湾奧から西岸に流入する河川の河口周辺に形成される渦流は、外側の表層水との間の境界であまり混合することなく西岸沿いに南下します。また湾内の表層混合水と湾外を流れる外洋表層水の間でも両者の混合が妨げられて、幼生を湾内に留める働きをしています。Tanakaほか(2011)は数値モデルを用いて卵と幼生に見立てた標識粒子の軌跡を追跡した結果、富士川の出水量が増えた時、サクラエビの主産卵場である湾奧の河口沖に、急峻な海谷からなる海底地形と地球の自転効果の影響で時計回りの渦流ができ、サクラエビの卵・幼生を滞留域に留めることを示しました。一方、湾西部の安倍川沖と大井川沖に配置された粒子の多くは岸沿いにすぐに湾外に流出してしまいました。このような駿河湾の物理的特徴がサクラエビの大集群を維持するメカニズムとして働いていると考えられます。