研究紹介

はじめに

關根研究室(EMCシミュレーション研究室)では,「EMC設計のための効率的な数値シミュレーション技術」の研究を行っています.EMCは「Electromagnetic Compatibility」の略で,「電磁環境両立性」などと訳されます(*1).電子機器やそれを伴う工業製品を設計するためには,製品自身の正常な動作を保証するだけでなく,製品から周囲環境への電磁気的な影響や,周囲環境から製品への影響を考慮することが重要です.製品と周囲環境が電磁気的に両立して機能し,干渉し合わないことを目的とした設計思想を「EMC設計」と呼び,關根研究室ではそれを支える技術の一つである「数値シミュレーション技術」を研究対象としています.

EMCを満たすために必要な3つの基準

開発・設計における数値シミュレーション技術

設計された製品が正常に動作するかどうかを評価し,不具合があれば再設計する場合を考えてみてください.このとき,実際に製品を試作して評価する方法では,製造原価と長い時間を要するため,試作と再設計を繰り返し行うことは現実的ではありません.この経済的・時間的コストを削減することができるのが「数値シミュレーション」です.数値シミュレーションとは,主にコンピュータを用いて何かを模擬することです.実際に試作を行うのではなく,コンピュータ上で製品の動作や性能を評価すれば,繰り返し再設計を行ってもコストを少なくすることができます.コンピュータを用いて製品の設計や評価の支援を行う分野を計算機援用工学(CAE: Computer-Aided Engineering)と呼び,数値シミュレーションはその中核を担う技術であるため,現代の複雑化した工業製品の開発・設計には欠かせない研究分野となっています.

工業製品の生産における計算機援用工学

EMC設計に求められる数値シミュレーション技術

数値シミュレーションは,「モデル化」と「解析」の2つの過程に分けて考えることができます.「モデル化」の過程では,考慮する物理現象の数式モデルを導出したり,対象物の形状をコンピュータ上でどう表すかを決定したりします.「解析」の過程では,モデル化された系に関する初期値・境界値問題を数値解析手法を用いて解き,所望の物理量の近似解を得ます.EMC設計では,電子機器やそれを伴う工業製品と周囲環境を対象とするため,大規模・複雑なモデルになりやすく,近似解を得るためにかかる時間も莫大になります.EMCシミュレーショングループでは,このモデル化と解析の効率化・高速化を行うための理論構築や,従来手法の改良,実問題への応用を目的としています.

数値シミュレーションには,他にも以下のような利点があります.

  • 実測が困難な現象や構造物を扱える.
  • 測定機器を接続することによって生じる,製品の特性変化を無くすことができる.
  • 目に見えない電圧や電流,電磁波を可視化することができる.
  • 理論に基づいたモデル化を通して,未知の現象を解明できる.
  • 条件を変更した解析を複数回実行することが容易なため,その結果を分析することで新たな知見や発見が得られる.

脚注

  1. EMCは他に,電磁両立性,電磁環境適合性,電磁適合性,電磁環境工学,環境電磁工学とも訳されます.