大学文書資料室では、歴代学長等が静岡大学への思いを記された著作物等をこちらのHPに残すことにいたしました。
その第3弾といたしまして豊川卓薾 著『静大法経史おぼえがき』豊川卓薾先生退官記念事業会、1985年を掲載いたします。
※豊川卓薾先生は、静岡大学名誉教授(元人文学部経済学科教授)です。
本書は故豊川卓薾人文学部経済学科名誉教授の定年に際して、記されたご本人から見た静岡大学人文学部法経両学科の歴史をつづったものである。戦後、草創期の地方国立大学、特に旧制高等学校の学の伝統を生かして成立した静岡大学文理学部、そして後身の理学部、人文学部の発展史の中に、潜む政府の高等教育統治政策と現場との格闘の歴史は、ある意味で高等教育の市民化への対応でもある。
本書では、前半を豊川教授の戦時下の大学での学問と人生、戦争への向き合い方の形成を物語、戦後の疾風怒濤の変革期に旧制高等学校から新制大学の移行期、その後の展開期を歩んだ状況をつづると同時に、後半では驚くべき歴史家(アメリカ金融史)の視点からの詳細を極めた年譜を掲載している。
前半は戦時下、苦悶しつつも戦争の卑劣さを感じ取りつつ多感な青春時代と初期研究者というべき学生生活からの生きざまを垣間見させていただけたことを思えば、改めてこうした人たちの苦闘が私たち世代の平和な時代に生きられていることに感謝することが重要に感じさせられる。その豊川教授も草創期から展開期の静岡大学に在職し、その中で学問の発展と教育にかける情熱をもって取り組まれていった状況をこの書物がよく伝えてくれる。この思いを静岡大学文書資料室に残された豊川先生関連資料のいくつもの集積につぶさに見ることができる。そればかりか本書年譜での演習の学生たちの卒業論文テーマと就職先の記録の詳細にも豊川氏の教育にかけた情熱を改めて伝えているだろう。
この後半を見るだけでも戦後新制大学の歴史の一端を知る貴重な資料として有意義だと実感させられる。この年譜部分を読みながら、戦後の新制大学がいかに格差構造と戦い続ける必要性があったことを知ることができる。それとともに、発足時期には教師も学生も大学づくりに熱情を傾け、教授陣を自ら招へいする努力を行っているのは、今や想像もできないほどのエネルギーを感じさせられる。優れた研究者を招くことによってこそ大学は光り輝き若い学生たちに学ぶ喜びを共有させる。
(2020年10月29日)