性能評価実験
モータ出力Hは,回転主軸のトルクTと角速度ωの積である.また,単位重量(あるいは体積)あたりのモータ出力を出力密度ζといい,宇宙ロボットやドローン,産業機械応用には,モータの高出力密度化が望まれている.トルクはモータ直径Dの二乗,長さL,極対数pに比例するため,以下の式が成り立つ.
H=ωT∝ωpD2 L
ζ=H/m∝ωpD2 L/D2 L=ωp=ωe
ここで,ωeは電気角周波数である.したがって,高出力密度化にはモータの高速化が必要であるが,ωeの増加に伴い,鉄損が増大する.鉄損は,渦電流損PEとヒステリシス損PHに分類され,特に渦電流損PEは,以下の式 (1)に示すように,高速化,すなわち電気周波数feの二乗で増大する.
P_E=π2 d2 fe2 Bm2/6ρ
ここで,dは積層鋼板厚さ,Bmは最大磁束密度,ρは抵抗率である.上式より,鋼板厚の薄形化により渦電流損を低減可能であるが,極度の薄形化は,非圧延方向の磁気特性悪化を招き,モータ鉄心には使用できないため,一般的には,板厚は0.35mm~0.5mm程度にとどまっている. 近年,非圧延方向におていも磁気特性の劣化を抑制した新しい極薄鋼板が開発された.本研究では,極薄鋼板を採用した永久磁石モータの性能評価を行った.
新しい駆動方法
ネオジム磁石を使用した永久磁石(Permanent Magnet, PM)モータは,誘導モータやリラクタンスモータと比較して,小形・軽量化,高効率化が可能なため,自動車,家電等の多くの産業分野において利用されている。PMモータのさらなる高パワー密度化のためには,上述のように,高速化が必須である。PMモータの誘導起電力は速度に比例するため,限られた電源電圧下においてPMモータを高速駆動させるには,モータのインダクタンスを低く設計する必要がある。例えば,固定子鉄心の歯部の無いスロットレス鉄心を利用,あるいは巻線のターン数を低減するために,断面積の大きな導体バーを利用,などが提案されている。しかしながら,低インダクタンスモータを一般的なパルス幅変調(Pulse Width Modulation, PWM)方式の電圧形インバータ(Voltage Source Inverter, VSI)で駆動すると,出力電流波形にスイッチングによる大きな電流リプルが残り,その結果,銅損や鉄損が増大する。そこで,静岡大学では,低インダクタンスのPMモータにkHzオーダの正弦波電流を供給するため,以下に示す直流電流源モジュールを用いた三相7レベル電流形インバータ(Current Source Inverter, CSI)を検討している。本回路は,文献[T. Noguchi and Suroso, Review of Novel Multilevel Current-Source Inverters with H-Bridge and Common- Emitter Based Topologies, Proc. 2010 IEEE ECCE, pp. 4006-4011, Atlanta, GA, USA, 2010]で提案されている回路に基づいて,三相PMモータに応用した回路である.