磁気浮上と磁気軸受
磁気浮上とは,電磁石や永久磁石による磁気力を使って,どこにも接触することなく物体を浮上させることを意味します.特に,回転体を磁気力により非接触で支持する機械要素を磁気軸受と言います.一般的な転がり軸受と比較すると,摺動部・機械的摩擦が無いのが最大の特長です.このため,軸受潤滑等のメンテナンスが不要,高寿命,粉塵が発生しない,高速回転が可能などの利点があります.磁気浮上の研究分野は,21世紀になってようやく産業応用が進んできた分野です.例えば,交通システムでは名古屋リニモのHSST(High Speed Surface Transport),上海マグレブ,半導体・液晶産業ではターボ分子ポンプ,ケミカルポンプ,医療分野ではテルモ社の補助人工心臓などがあり,今後ますます応用は広がる方向にあります.本ページでは鉄球の磁気浮上の原理に関して簡単に紹介します.
磁気浮上の原理
下の図で,鉄球磁気浮上の原理を説明します.鉄球の上側に電磁石を配置し,下側に鉄球の位置を検出するセンサを取り付けます.電磁石に電流を流すと,鉄球に吸引力が発生します.反対方向の電流を流しても反発力は発生しません.この吸引力と重力を利用して,鉄球が決められた位置に留まるように制御します.ある一定電流を流すと吸引力と重力が等しくなる位置が存在します.その位置より少し下側に動いたら,鉄球はそのまま落下してしまいます.反対に少し上側に動くと電磁石に吸いつけられます.そこで,下側に動いたら電流を少しだけ多く流して吸引力を増加させます.反対に,上側に動いたら,電流を減らして,重力で鉄球を下側に移動させます.この動作をすばやく繰り返すことにより,鉄球は磁気浮上することができます.
鉄球の磁気浮上実験
下の動画は,鉄球の磁気浮上実験の様子を示しています.はじめ鉄球は,重力により下側に位置しています.また,画面には見えていませんが,鉄球の下側には,鉄球の位置を検出するセンサが取り付けられています.磁気浮上制御を開始すると,鉄球は上昇し,磁気浮上します.鉄球が左右方向に振動していますが,落下はしません.これは中心に戻ろうとする磁石の性質を利用しています.上下方向の位置のみ制御することで,磁気浮上が可能です.また,機械的摩擦が無いため,鉄球が長時間回転する様子が確認できます.