分類:繊毛虫門梁口綱ゾウリムシ目ゾウリムシ科ゾウリムシ属
学名:Paramecium caudatum
英名:paramesia, paramecium
ゾウリムシは、アメーバやミドリムシなどとともに生物の教科書や図説によくでてくる定番の単細胞生物(体長0.2~0.3mm,体幅0.05mm程度)ですが、実は「泳ぐニューロン(神経細胞)」とも称され、様々な分野で活躍する実験動物の逸材です。
ゾウリムシは、単細胞なので、高等多細胞生物がそれぞれ分化した組織・器官で担っているような刺激受容・感覚情報処理・運動制御などの機能をたったひとつの細胞でとりしきらねばなりません。これまでの研究から、ゾウリムシの小さな体の中で起こっている電気的な現象は、我々ヒトを含めた高等多細胞動物の受容細胞、神経、筋肉の中で起こっているものと本質的に同じであることがわかっています。
例えば、ゾウリムシが前に泳いでいて何かにぶつかった(前方から機械的刺激を受けた)とき、細胞膜にあるイオンチャネル(Na+やK+,Ca2+などのイオンを選択的に通す穴)が開いたり閉じたりすることで細胞内外のイオンバランスが変わり、細胞内の電位がマイナスからプラスへと変化(脱分極)します。これは、高等動物の神経細胞や受容細胞が興奮したときとほぼ同じ状態ですが、ゾウリムシの場合は繊毛の打ち方が逆転して後ろ向きに泳ぎだします。逆に、ゾウリムシが捕食者に襲われた(後方から刺激を加えられた)ときなどでは、やはりイオンチャネルが閉じたり開いたりすることによって細胞内がプラスからマイナスあるいはマイナスからより大きなマイナスへと変化(過分極)します。これは、高等動物の神経細胞が抑制されたときとほぼ同じ状態ですが、ゾウリムシの場合は繊毛の打ち方が正常のままで頻度が上がり、前方に勢いよく走り出します。つまり、細胞内電位の変化がそのまま行動の変化に反映されるわけです。したがって、ゾウリムシでは、行動パターンを観察することによって、直接測定しなくても細胞内の電位(細胞の興奮状態)を推定することができるのです。
竹内研究室では、このような特徴を持つ「泳ぐニューロン(神経細胞)」のゾウリムシを利用して、内分泌撹乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)が神経細胞の興奮状態にどのような影響を及ぼすのかを研究しています。