柿田川3

3.柿田川 水生植物に付着した微生物群集

(1)柿田川に生息する水生植物に付着した微生物(顕微鏡観察)

下の写真は、柿田川に生息する水生植物に付着した微生物の顕微鏡写真です。DNAが青白く光っている.赤く光るのは、葉緑体の自家蛍光です。ケイ藻が多く観察され、周りに細菌細胞が確認されます。

 

 

 

柿田川に生息する水生植物に付着した微生物の顕微鏡写真.

 

(2)柿田川清水小学校教材園の水生植物に付着した原核生物(クローン解析)

水生植物ナガエミクリおよびコカナダモに付着した原核生物のリボソームRNA(16S rRNA)遺伝子を対象にクローニングによる遺伝子解析を行いました。

 1) コカナダモに付着した原核生物

柿田川に生息する水生植物コカナダモの表面に付着した原核生物の遺伝子解析の結果、推定される分類群を下表にまとめました。水生植物コカナダモの表面からは、Bacteroidetes Flavobacterialesα-proteobacteriaSphingomonadalesγ-proteobacteriaPseudomonadalesなどの従属栄養細菌が検出されました。また、光合成型独立栄養細菌では、α-proteobacteria のRhodobacteralesが検出されました。

コカナダモに付着した原核生物.

 2) ナガエミクリに付着した原核生物

柿田川に生息する水生植物ナガエミクリの表面に付着した原核生物の遺伝子解析の結果、推定される分類群を下表にまとめました。水生植物ミクリの表面からはFlavobacteria、Sphingobacteria、Cyanobacteria、Bacilli、α-proteobacteria、β- proteobacteria、γ-proteobacteriaに分類される原核生物のクローンが検出されました。最も数が多かったβ-proteobacteriaでは、すべてが従属栄養細菌であるBurkholderialesに属することが推定されました。その他Bacteroidetes のFlavobacteriales、Sphingobacteriales、γ-proteobacteriaXanthomonadales、Firmicutes Lactobacillalesがと多くの分類群から従属栄養細菌が検出されました。また、光合成型独立栄養細菌では、Cyanobacteriaが検出されました。

ナガエミクリに付着した原核生物.

 3) 柿田川に生息する水生植物に付着した原核生物の系統解析結果

柿田川に生息する水生植物コカナダモおよびナガエミクリの表面に付着した原核生物の遺伝子解析結果を下図の系統樹にまとめました。検出されたコカナダモ、ナガエミクリ上の原核生物のクローンはそれぞれ異なっており、葉表面積の大きなミクリがより多様な原核生物群集の生息環境となっていることが示されました。コカナダモとナガエミクリの葉から共通に検出されたのは綱のレベルでFlavobacteria、α-proteobacteria、β- proteobacteria、γ-proteobacteriaであった。水生植物のコカナダモとナガエミクリはその葉の形状が大きく異なります。それぞれ独自の原核生物が生息し、その場での有機物分解などの物質の変換を行っていることが示唆されました。

 KaMBXX:ナガエミクリに付着した原核生物、KaKBXX:コカナダモに付着した原核生物

水生植物に付着した原核生物の系統樹.

 

(3)柿田川 水生植物に付着した原核生物の遺伝子データ(次世代シーケンス解析)

柿田川に生息する水生植物ナガエミクリおよびコカナダモに付着した原核生物のリボソームRNA(16S rRNA)遺伝子を対象に従来の遺伝子解析手法より得られた微生物群集を構成する細菌群をより詳細に解析できる次世代シーケンス解析結果を門レベルでの解析結果を示しました。

柿田川湧水・河川水および水生植物に付着する微生物群集(門レベルの解析).

湧水から1.2kmの流呈を流下した柿田橋で微生物(原核生物)がその多様性を増大させていることがはっきりとわかります。そこでは、いずれの試料においてもProteobacteriaが最も優占していました。湧水中ではBacteroidetes Cyanobacteriaが優占し、柿田橋ではBacteroidetesVerrucomicrobiaParcubacteriaPlanctomycetesActionbacteriaなど多様な門が優占していました。また、コカナダモ付着群集ではBacteroidetesVerrucomicrobia、ミクリ付着群集ではNitrospiraeが優占していました。柿田川湧水と水生植物に付着するバクテリアの群集間で最も異なるのは、Cyanobacteriaでした。

次世代シーケンスによる原核生物の群集構成の門レベルでの解析中で、最も優占した門Proteobacteria について、目レベルでの全体に対する割合を下図に示しました。

柿田川湧水・河川水および水生植物に付着するプロテオバクテリア門が占める割合とその目レベルでの群集構成.

湧水では、Burkholderiales に属する原核生物が優占していましたが、下流の柿田橋では多様な群集が確認されました。コカナダモ付着群集では、メタノールを酸化することができるMethylophilales の割合が大きいことが特徴的でした。メタノールは植物が生産することも知られていますが、嫌気的な環境で細菌が生産することもできます。どのような過程で生産されたメタノールを利用する細菌群なのか、湧水が作り出す単調とも思える課環境の中で何が起こっているのか、興味深いところです。ナガエミクリ付着群集では、湧水、コカナダモ付着群集と異なり、さまざまな有機物の分解や代謝をすることが知られているSphingomonadales が最も優占していました。水生植物による付着原核生物群集が、直接基質となる有機物を得るにせよ、或いはそこに共存する他の細菌群からそれを得るにせよ、対象となった水草の違いが微生物群集の構成に違いをもたらしたと考えられました。また、柿田橋河川水中の原核生物群集の多様性は、これら水生植物に付着する原核生物群集や、土壌などに生息する原核生物の混入により支えられていることが考えられました。

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本研究は、公益財団法人 河川財団の河川整備基金助成事業(25-1215-202, 26-1215-019, 27-1215-014, 28-5211-039)によって実施しました。