第4期中期目標期間(令和4~9年度)中は、以下の重点研究分野の研究を推進してまいります。
光応用分野 |
静岡大学の「光」に関する研究は、1924年に高柳健次郎先生が旧制浜松高等工業学校で電子式テレビジョンの研究を開始し、1926年に「イ」の字の撮像・表示に成功したことに始まります。本学電子工学研究所は、高柳研究室を原点とし、渡辺寧第4代学長の尽力により、1965年に新制大学で唯一の理工系附置研究所として設置されました。その後、2004年に文部科学省21世紀COEプログラム「ナノビジョンサイエンスの拠点創成」を獲得し、「浜松地域知的クラスター(オプトロニクスクラスター)事業」I期・Ⅱ期でも重要な役割を担ってきました。2009年には、高柳教授の電子式テレビジョンの研究とその後の発展に対して、世界最大の電気・電子・情報・通信分野の学会IEEEの電気の技術分野における「ノーベル賞+世界遺産」と言われるマイルストーンを受賞しています。
「ナノビジョンサイエンス」は、従来の画像技術を根本から変革する新学術・技術分野を、ナノテクノロジーを駆使して創出することであり、画像に関する種々の要素技術の革新とその基本となる科学との融合、最新画像技術を利用するユーザとの連携が不可欠です。電子工学研究所では、2008年に開始した公募型の共同利用・共同研究プロジェクトの成果により、2013年4月に共同利用・共同研究拠点「イメージングデバイス研究拠点」に認定されました。
また、「ナノビジョンサイエンス」の有力な応用範囲は、医療分野です。2016年には、東京医科歯科大学、東京工業大学、広島大学との連携ネットワーク型共同利用・共同研究拠点である「生体医歯工学共同研究拠点」に認定されました。第一期は最終評価で「S」評価に判定され、今年度より第二期をスタートさせています。
電子工学研究所の所員が関わっている静岡大学発ベンチャーは4件あり、大学発技術の社会実装と雇用創出にも努力しています。地域から全国へ、全国から全世界へ、産官学の強力な連携体制を築き、「画像科学技術」関連の「知の拠点」の構築を目指しています。
図 電子工学研究所(ナノビジョンサイエンスの創成を目指して) |
グリーン科学分野 |
人口減少と急速な少子高齢化に伴う社会構造の変化が予想されており、更なる社会の発展と豊かで安定かつ持続的な未来につなげるためには、新たな科学技術の構築が急務です。本分野では、環境・エネルギー・バイオ・化学技術を代表とするグリーン科学を新たに創造・体系化します。革新的な物質の創生や基礎科学の解明、及び生命機能の解明と工学や農学、医薬学などへの応用により、高齢化社会においても安全・安心で、再生可能な資源・エネルギーを基盤とする持続可能な循環型社会の実現を目指します。
なお、「グリーン科学」をWeb検索すると、その明確な定義を、現時点で見出すことはできません。つまり、新しい学問分野であり、様々な科学が融合した学際的な超領域分野です。「科学」+「技術」=「科学技術」と考えると、静岡大学グリーン科学技術研究所から「技術」を差し引けば「グリーン科学」となりますが、「科学」と「技術」を分離して考えることは、超領域の理念と一致しません。構成員が限られているグリーン科学技術研究所では、取り扱う分野を「健康・食料・環境」に集中するのに対し、本取組ではより包括的に分野を横断します。また、「グリーン」は「サスティナビリティ」と深く関連することから、持続可能な開発目標であるSDGs科学研究者の参画、そして活躍を期待しています。
カーボンニュートラル科学分野 |
日本政府は、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。カーボンニュートラルの実現のためには、もちろん科学技術の貢献を欠かすことはできません。しかし、技術だけが問題なのではなく、大量生産・大量消費そして大量廃棄という社会を作り出した現代の資本主義経済体制の下で形成された私たち人間の考え方、価値基準、行動などにおいて、大きな変容が求められています。カーボンニュートラルを含む地球環境問題がなぜ重要なのか、それをどのように認識して取り組むことができるのか、そしてカーボンニュートラルな社会とはどんな社会か、私たち一人一人が自分事として考えていくために、学生及び教員・職員に対して、静岡大学はどのような役割を果たすことができるのでしょうか。
例えば、温室効果ガスの吸収源として森林の役割が注目されています。静岡大学は農学部附属施設として天竜(上阿多古)と南アルプス(中川根)に演習林を所有しているだけでなく、静岡キャンパスはそもそも里山二次林の中に立地しています。このような静岡大学が有する既存の自然環境を活かし、カーボンニュートラルな社会を実現するための身近な実践の場を作ることこそ、カーボンニュートラルに限らず、自然と経済、自然資源の保全と利用、自然と人間の結びつきについて、意識や関心を育むために重要であると考えています。
情報応用科学分野 |
科学技術は人間・社会・地球のために存在しています。情報技術の発展によってあらゆる分野の知見の集積が可能となった今日において、文理融合型の高度専門研究・教育を担う機関の重要性が改めて高まっています。情報学・工学・理学・農学・教育学・人文社会科学を基礎として、複眼的な洞察を持って科学技術の方向性を導き、新たな世代を切り拓く科学基盤技術の研究開発、次世代の情報・社会・教育システムの構築、豊かな社会インフラのデザインを推進し、かつ、それを通じて将来を担う人材育成を達成する組織が必要です。
有史以来、人類は物理事象・社会事象・心理事象を解き明かそうとしてきました。それぞれ営みは、物理学・社会学・心理学として個別に進展してきており、数学がそれらの事象を書き下すための共通記述言語として存在していました。しかし、記述対象である事象を共通的に捉える術が存在していませんでした。この課題を克服するための鍵として、重要な貢献を果たしたのが情報学です。デジタル化が、物理事象・社会事象・心理事象を「データ」として共通的に捉えることを可能としました。データという形で共通表現された物理事象・社会事象・心理事象の関係が、数学という共通記述言語で記述されます。これによって、物理学・社会学・心理学の融合が果たされます。
すなわち情報学は、数学とともに、物理学・社会学・心理学をつなぐ共通プラットフォームの役割を果たしているのです。このように情報学とは、世のすべての学問をつなぐための「糊」であり、然るに「情報応用科学」とは、自然科学・人文科学・社会科学を応用先とした情報学の表出と言えるでしょう。このように考えると、境界領域研究・学際研究の系譜を継ぐ「超領域研究」の第4分野として情報応用科学が加わったことは、極めて自然な流れなのです。
図 静岡大学と超領域研究会の研究分野のカバレッジ |