身体に含まれる微量成分の研究
私たちの身体は様々な栄養素により構成され、炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミンやミネラルは5大栄養素として知られています。これらの栄養素は「身体の構成成分やエネルギー源となる」、「生体の恒常性を調製する」などの役割を果たし、私たちはその多くを食品から摂取しています。特に、「生体の恒常性を調製する」成分は食品や私たちの身体に存在する量が微量であるにもかかわらず、生命現象に影響を与えることから生理活性物質と呼ばれています。このような成分には、ビタミンのように健康の維持に必須な成分や、反対に酸化LDLやアミロイドβのように疾患 (動脈硬化や認知症)との関連がある成分も報告されています。
本研究室では、こうした食品や生体内に微量しか存在しない生理活性物質を標的とし、これらの成分の機器による定量分析を基盤とした研究を行っています。これまでに様々な成分の分析法が世界中で確立されてきましたが、栄養素は身体の中で様々に構造を変化させて存在しているため、どんな構造でどのくらいの量があるのか正確にわかっていないことも多いです。機器分析によって栄養素の持つ健康効果の分子レベルでの作用機序を明らかとし、また生体に生じた有害成分が分子レベルでどのように身体に悪さをして病気になるのか、そしてどうすれば予防できるのか、これらを明らかにすることで健康寿命の延伸を目指しています。
※まだ、書けないことも多いので興味のある方は聞きに来てください。
機器分析による微量成分の分析
高速液体クロマトグラフィーや質量分析器を使った分析を研究室の強みとしています。微量成分は、pg (1,000,000,000,000分の1g) やfg (1,000,000,000,000,000分の1g )と検出量が非常に少なく、また構造も様々な要因によって変化するため機器分析がとても有効な手段となります。公定法(国や公的機関が公式に定めた標準的な方法)や論文に報告のある方法を新たに検討することはもちろん、0から方法を立ち上げることもあります。
私たちがこれまでに取り組んできたピロロキノリンキノン(PQQ)という食品成分の分析については、前処理報や精製法、さらにHPLCカラムの選定や、検出器、質量分析を使用した解析まで幅広く検討しています。現在も(一財)日本食品分析センターと共同で進めており、PQQ分析法の公定法としての確立や、食品成分表におけるPQQの表示を目指しています。一方、身体に有害で病気の原因になると考えられている過酸化脂質についても分析やその作用機序を進めています。この研究は東北大学農学部食品機能分析学分野や東海大学医学部と共同で実施しており、過酸化脂質が生体にどのくらい発生するのか、どのように代謝されるのか、どのように身体に悪さをして病気につながるのかを分子レベルで明らかにし、将来的には健康診断の指標として提唱することを目指しています。
微量成分の生体内運命の探索
食品における存在量、食べた際の動態(吸収、分布、代謝、排泄)、動物や細胞レベルでの生理作用、などを評価することで、生理活性物質の持つ健康効果を明らかにすることに取り組んでいます。
新規ビタミンB様物質ピロロキノリンキノン(PQQ)研究
ビタミンに認定されている栄養素はたったの13種類しかございませんが、PQQは新しいビタミンではないか?と言われている成分です。微生物から発見され、酢酸菌ではビタミンB2やナイアシンに次ぐ第3の酸化還元補酵素としてエネルギー代謝に必須な栄養素です。マウスを用いた試験においても、皮膚の脆弱化、脱毛、成長障害、繁殖能の減少や免疫能の低下などの欠乏症状が報告され、哺乳類における重要性が示唆されています。一部では、PQQは母乳に多く含まれ、赤ちゃんの成長や脳の発達を促進するという報告もあります。実は日本の理化学研究所により新しいビタミンではないか?という論文が2003年に提出され、一時期注目を集めていました。しかし、PQQの食品における分布、ヒト体内への消化吸収機構や、臓器への分布、標的部位における存在形態などのPQQ研究における基盤となるデータがそろわず、PQQ研究は衰退していきました。この原因は、正確な定量分析法の構築が困難であったことであり、私たちはこの問題を解決するためにPQQ分析法の構築を進め、世界に先駆けて確立しました。この方法を応用して「PQQの体内動態に関する研究」、「母乳や腸内細菌叢とPQQの関係の解明」、「PQQのビタミンとしての役割に関する研究」を進めており、現在は主にて「PQQの体内動態に関する研究」を進めています

生体成分の分析による健康状態の把握や病気の診断
私たちは、健康診断で様々な指標により自分たちの体の健康状態を判断します。身長や体重からはじまり、血液検査では肝機能の指標となるAST(GOT)やALT(GPT)、腎機能の指標となるクレアチニンや尿酸、脂質検査では中性脂肪(TG)やLDLコレステロール、血糖値や赤血球数など様々な成分が測定されます。このような成分から身体の状態を知ることができるのは、様々な分析法が過去に確立され、多くのデータや成分に関する知見がそろってきたからです。中でもLDLコレステロール(悪玉コレステロール)はアテローム性動脈硬化の原因として提唱されており、この値を見ることで私たちは食生活を改善し、未然に動脈硬化によって引き起こされる循環器系の疾患を防ぐことができます。
しかし、まだまだわかっていない身体の成分も多く存在します。私たちは身体の様々な成分を分析し、こうした成分と身体の病変、疾患と関連を分子レベルで明らかにすることを目指しています。そして、我々が標的としている成分が、将来的にみなさまの健康診断の指標となり、病気の予防、健康寿命の延伸につながることを期待しています。
病期の原因??酸化ストレスと酸化脂質研究
揚げ物を調理するときのように油を高温で加熱し続けると、色や油切れが悪くなり、風味が悪化することはみなさんもご存じと思います。この現象は「酸化」と呼ばれ、油が酸素と結びつくことで様々な化学反応が引き起こされることが原因です。私たちの身体においても「酸化」は日常的に引き起こされ、生活習慣、ストレス、紫外線、放射線、タバコなどの様々な要因によっても誘導されます。こうした酸化によるストレス(「酸化ストレス」) が続くと、脂質だけでなくDNAやタンパク質も酸化され、身体に様々な異常をきたし、最終的に様々な疾病や老化につながると言われています。有名なものでは悪玉コレステロールによるアテローム性動脈硬化症、他にも、糖尿病や繊維症、アルツハイマーやパーキンソン病などの神経変性疾患、さらには各種ガンなどの様々な病気が酸化ストレス関連疾患と考えられています。そのため、酸化ストレス研究は病気の発症メカニズムの解明や、予防・治療法の開発につながる重要な研究です。
フェロトーシス研究
酸化ストレスによって生じる過酸化リン脂質が細胞に対して特殊な細胞死「フェロトーシス」を引き起こすことが近年報告され、フェロトーシスに関する研究は世界中で注目を集めています。フェロトーシスとは、鉄分子と過酸化脂質が関与する非アポトーシス性の制御された細胞死と考えられています。この細胞死が上記に挙げた酸化ストレス性疾患の発症の鍵となると考えられ、世界中でそのメカニズム解析に向けた研究が盛んに進められています。
しかし、フェロトーシスの実行因子と言われている脂質酸化物の分子レベルでの解析は、その合成や分析の困難さから進んでいません。そこで、私たちは脂質酸化物の解析に焦点を当て、「どんな脂質酸化物が」、「どのように生じて」、「細胞内のどこで」、「何を標的とするのか」、さらに「細胞がどのように応答するのか」、を明らかにしたいと考えています。そのため、ゲノム編集技術により作製したフェロトーシスのモデル細胞を用いた生物学的な手法や、質量分析器を使用した脂質酸化物の分子レベルでの分析技術を融合した学際的な研究を進め、東北大学農学部の食品機能分析学分野や東海大学医学部と共同で研究に取り組んでおります。また、フェロトーシスは酸化ストレス疾患の発症に密接にかかわることから、その抑制は酸化ストレス疾患の予防や治療につながると考えられます。そのため、食品由来成分によるフェロトーシスの抑制能を評価しています。
