ブログリレー
生物科学科 成川礼
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。本当は直接、皆さんにお伝えしたかった言葉ですが、このような事態では致し方ありませんね。我々教員も、今回の事案によって、新しいことに挑むことになっています。この経験を今後に活かしていけるように、お互い頑張りましょう。
さて、私は生物科学科に所属し、光合成する生物が光をどうやって認識しているかについて調べています。光合成と聞くと、皆さん何を思い浮かべますか?ほとんどの人が緑の葉っぱを思い浮かべると思います。しかしながら、海の食材に目を向けるとどうでしょう?海藻サラダには赤色のものや茶色のものもありますよね?また、日本人にとって馴染みの深い海藻類である海苔や若芽が皆さんの食卓に上がる時には、鮮やかな緑色をしていると思いますが、生きている時の色は違います。昔は海苔のパリッとした食感を大事にするために焼いていない乾燥海苔として出荷され、食べる直前に火で炙って食べることが多かったのです。しかし、近年では、焼海苔を湿気らせることなく保つ包装技術が発達したため、多くは焼海苔として出荷されている現状です。焼く前の海苔は写真の左側のように赤黒い色をしていますが、ライターなどで炙ることで、写真の右側のように緑色に変化します。若芽もその多くは湯通しして出荷されますが、湯通し前の若芽は写真のように褐色を呈し、湯通しすることで鮮やかな緑色に変化します。つまり、海苔や若芽も緑色ではなく、赤色や褐色をしているわけです。これらの藻類はそれぞれ、その色から紅藻、褐藻と呼ばれています。酸素発生型光合成を行う生物は緑色のクロロフィルを光合成色素として持ちますが、これらの藻類は、クロロフィルに加えて赤色や黄色の色素をたくさん含むことで、多様な色彩となります。実は、これらの色素は、クロロフィルがあまり吸収できない色の光を代わりに吸収して、そのエネルギーをクロロフィルに届けるという役割を担っています。そして、これらの色素は熱に弱いため、焼いたり湯通ししたりすることで色を失ってしまい、クロロフィルの色が残るという仕組みになっているのです。それでは、なぜ海の生物はこのように様々な色素を持っているのでしょうか?実は海の深いところに行けば行くほど、太陽光のうち赤色光がより失われてしまうのです。クロロフィルは赤色光と青色光を主に吸収するので、赤色光が少ない環境では、それ以外の色素が活躍する必要があるわけです。これらのことから、光合成生物といっても、種類によって好みの光の色が異なることが分かると思います。私たちはそのことに着目して、多様な光合成生物が光を感知する仕組みを分子レベルで理解しようとしています。
このように、生物科学という学問分野は、というか、理学領域全般に言えることと思いますが、食卓といった身近な話題から端を発しても、そこから深く話を掘り下げることができる魅力的な学問分野だと思います。是非、皆さんも身近な事象を当たり前と捉えず、なぜだろう?と追及してみましょう。その振る舞いが科学者に直結していきます。科学者というのは職業というよりは振る舞いです。皆さんが将来、科学に直接的には携わらない生活を送ったとしても、理学部での学びを経ることで、科学者としての振る舞いが備わると思います。これからの4年間、理学部での学びを大いに満喫しましょう!
ちょっと堅い話が続いてしまいましたが、最後に僕の趣味について簡単に。読漫画、映画鑑賞(邦画がメイン)、飲麦酒が大好きです。家には漫画が2600冊ほどあります。お勧めの漫画は三宅乱丈さんのイムリです。小説では、上橋菜穂子さんの守人シリーズ、小野不由美さんの十二国記シリーズが大好きです。趣味が合いそうな方は、是非、ご気軽に声をかけてくださいね。