ブログリレー(岡林利明 1)

ブログリレー

化学科 岡林利明

4月も終わり5月になりましたが、キャンパスの中はまるで年末年始のように静まり返っています。違うのは温かい日差しと、無人のキャンパスを我が物顔で闊歩する動物たち。今年は小鳥の鳴き声がやたらと近く感じられます。

1年生の皆さんは知らないかもしれませんが、理学部B棟はつい最近大改修を終え、見違えるようにきれいになりました。私は昨年度、改修に伴う移転作業の責任者となり、大忙しの1年を過ごしました。3月末に仮移転先からの復帰と新規の物品の搬入が終了し、やっと皆さんに使っていただけるかと思ったら、新型コロナウィルス騒ぎで宝の持ち腐れ、残念でなりません。

今回の改修では、中に残っていた物品のことを調べるため昔の記録を遡ることもありました。それによるとB棟の落成は昭和43年(1968年)とのことであり、昭和・平成・令和の三時代に渡って、50年間もの間皆さんの先輩たちとともに歩んできたことになります。B棟は講義棟ですから、理学部生なら必ずお世話になった場所です。これまでに何人くらいの学生がここで学んできたと思いますか?

現在、理学部には5学科1コースで毎年240人ほどの学生が入学してきます。創造理学コースができたのは5年ほど前ですし、その前は学科の数が少なかったこともありますので、仮に平均200人の学生が50年間在籍したとしましょう。すると、これまでに1万人近い先輩たちがB等の講義室で学んだこととなります。では、この1万人の中でもっとも有名な先輩は誰でしょうか?

本当の答えは私にもわかりませんが、私個人としては作家の「乾くるみ」さんではないかと思っています。あまり本を読まれない方は乾さんのお名前をご存じないかもしれませんが、数年前に「イニシエーション・ラブ」という小説が話題となり、映画化もされましたので覚えておられる方もいるでしょう。乾さんは数学科のご出身で現在50代半ばですから、静岡大学に在籍したのは1980年代半ばとなります。私が静岡大学に着任したのは1990年のことなので、乾さんとは入れ違いとなってしまっており直接面識があるわけではありません。当時の教員だった方もいまではほとんどが退職されて、乾さんがどんな学生だったかを知っている方も残っていないのではないかと思います。尤も「乾くるみ」というのはペンネームであり、2005年ころに当時の理学部長が「どなたか乾さんのことをご存じありませんか?」というお知らせを出していましたので、数学科の教員ですらどの学生のことかわかっていなかったのかもしれません。乾さんは静岡大学でどんな学生時代を過ごされたのでしょうね。

さて、乾さんの代表作といっていい「イニシエーション・ラブ」ですが、実はその主人公の「鈴木」君は静岡大学理学部の学生という設定になっています。小説中で描かれる当時の静岡市と静岡大学生の生活の様子は、作者の過ごしたであろう学生時代を彷彿させるものがあります。コロナウィルスによる自粛生活が長引いている今、皆さんもこの小説を読んで、当時の静岡大学生の生活に思いをはせてみてはいかがでしょうか。なお、この小説、一見すると甘い恋愛小説のように描かれているので(特に前半)、そういった描写が苦手な方がおられるかもおられるかもしれません。ただ、それは見せかけで実は小説全体に渡って、読者に挑戦するような壮大なトリックが仕掛けられています。ですので、まだ未見の方はネット等でネタバレ情報を仕入れることなく、作者が各所に散りばめた伏線を拾い上げながらじっくり読まれることをお勧めします。

なお、私はこの小説を2004年ころに最初に拝見しましたが、作品中の静岡市の描写が私が静岡に来た当時を思い起させるものだったために、その描写を懐かしんでいるうちに作者のトリックにすっかり騙されていました。さて、皆さんは大先輩の仕掛けた罠を見破ることができるでしょうか?(もう読み終わった方は、見破ることができたでしょうか?)