ブログリレー(粟井光一郎)

ブログリレー

生物科学科 粟井光一郎

私が大学院の時に受けた講義で,印象に残っている話があります。

皆さんは動く遺伝子(トランスポゾン)をご存じでしょうか。普段は特に活動していないのですが,何かのきっかけで,それまで存在していた場所から抜け出てしまう遺伝子です。例えば,つつじの白い花で,途中から赤くなっているのをたまに見かけますが,それは,それまでトランスポゾンがあることによって分断されていた赤い色素を作ることに関わる遺伝子が,トランスポゾンが抜けたことによって復活したためです。

このトランスポゾンはバーバラ・マクリントック(Barbara McClintock)という人によって発見され,彼女は1983年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

私が受けた講義では,この大発見は,マクリントック博士が子供を産んで子育て期間中の研究時間が取れない時期に,すき間時間を利用して研究の構想を練り,そのアイデアを生かして見事に証明した,と聞きました。私はいたく感銘を受け,自分の置かれている環境や境遇を嘆くのではなく,できることを行うことで自ら切り開くことの重要性を学びました。ここまで読んでくれた方は「あぁ,自粛期間の有効活用の話につなげるんだね」と思ったのではないでしょうか。半分あたりですが,半分違います。

この話を聞いた十数年後,私も大学の教員となり,印象に残っているこの話を講義でしようと思い,調べてみました。まず最初に驚いたのは,マクリントック博士は生涯独身で,子供はいなかったそうです。また,かなり「ファンキー」な人で,近くにいたら,たぶん友達になりたいとは思わなかったと思います。詳しくはWikipedia等で調べてみてください。面白いです。

さて,残り半分のメッセージですが,大学の先生の話は必ずしも正しいとは限らない,ということです。私が大学院生の時に聞いた話も,一部(大部分?)間違っていました。ただ,印象に残った話をしてくれたおかげで,自分で調べるきっかけとなり,もっと深い知識を得ることにつながったのです。大学での学びとは,そういうことだと思っています。