ブログリレー(依岡輝幸)

ブログリレー

数学科 依岡輝幸

僕の友達でおふくろの味はおでんだという人がいます。僕もおでんは大好きです。寒い冬の日の晩ご飯がおでんだったら「今日はご馳走だ」と思いますよね。県外から静岡に来た方々にとって、おでんは冬に家で食べるものだと思っていませんでしたか。ところが、静岡では季節によらずいつでもおでんがあります。葵区役所から少し西へ歩けば、青葉横丁、青葉おでん街と、おでん屋さんがひしめき合っている商店街があり、いつでもおいしいおでんが食べられます。


静岡のおでんは串に刺さっていて、だし粉(鰹節の粉)と青のりをかけて食べます。はじめての人は真っ黒な出汁に驚くでしょうが、全くしょっぱくはありませんのでご安心を。僕がいつも行くお店 幸多路(こうたろう)の目玉は「ぞうり」と呼ばれるたっぷりの出汁を含んだ大きい(広い)薄揚げと、柔らかな歯触りが特徴の「ふわ」と呼ばれる牛の肺です。もちろん静岡定番の黒はんぺんもあります。醤油は少なめで、鰹節と昆布の出汁をふんだんに使っているのがこのお店の特徴です。幸多路はおでんだけでなく、鶏もつ煮、ごぼうきんぴら、ながらみ(ご存知ですか?)などの一品料理もお勧めです。

僕の義父は清水出身で、子供の頃は駄菓子屋さんで串に刺さったおでんに味噌ダレをたっぷりつけて食べていたそうです。「味噌ダレなんてあったっけ?」と思っていたのですが、新井由己『だもんで静岡おでん』(静岡出版社)によりますと、清水地区では味噌ダレと青のりが定番で、静岡地区ではだし粉と青のりが定番と、隣町なのに文化が違うそうです。静岡地区と焼津地区のおでんもまた違いがあるそうです。静岡(しぞ〜か)おでん、奥深し。

さて、前期もいよいよ今月で終わりですね。最後まで諦めず、一つでも多くの科目を合格するように勉強に励んでください。でも勉強ばかりでは息が詰まりますね。そんなときにみなさんはどんな本を読まれますか。印象的なラストシーンが待っている宮部みゆき『火車』、圧倒的な読み応えで満ちている宮部みゆき『模倣犯』、著者の特徴が詰まっている宮部みゆき『ブレイブ・ストーリー』「第一部」をはじめ、宮部みゆき『蒲生邸事件』、宮部みゆき『理由』、宮部みゆき『名もなき毒』など、お薦めしたい本は尽きません。今回は藤田博司『「集合と位相」をなぜ学ぶのか』(技術評論社)をお薦めしたいと思います。

現代数学において「位相」は欠かせません。しかし、微積分のように科学と接点がありイメージしやすい概念と違い、「位相」は抽象度が高く、初学者には取っ付きにくい概念です。学生に嫌われ者扱いされることの多い「位相」の誕生経緯を丁寧に描いた作品が『「集合と位相」をなぜ学ぶのか』です。なるべく読者を選ばないように、ひとつひとつの解説がとても親切です。気の利いた多くの挿絵でイメージを膨らませることもできます。きちんと証明を学ぶのは授業でできますから、初めて本書を読むときは、隅々まで理解することを目標とするのではなく、全体像を知ることを目標に、気楽な気持ちで、まずは読み通すことをお薦めします。

静岡大学理学部数学科では2年生前期に「集合と位相」、後期に「位相数学入門」という授業で「位相」を学びます。特に「位相数学入門」で、「位相」の備わった空間の一般論を学びます。3年生以降の授業に支障をきたさないように、「位相数学入門」では半期の授業いっぱいを使ってたくさんのことを学びます。授業担当者は毎年知恵を絞り、大いに汗をかき、一生懸命になって教えていることでしょう。しかしそれでも毎年不合格者が後を絶ちません。本書は今年度後期から「位相数学入門」をはじめて履修する2年生の予習に最適です。また、ちんぷんかんぷんだった「位相」の学び直しをする3年生以上の方々にもきっと役立ちます。これから「位相」を学ぶ 1, 2年生、「なんで位相なんてせなあかんねん」と思っている3年生以上の方々、「位相」に興味のある3年生以上の方々、夏休みの読書はまず本書から始めましょう。