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生物科学科 岡田令子
理学部・理学専攻の皆様、こんにちは。
生物科学科の岡田です。
私の研究室では、主に両生類を用いて生理学や生化学的な研究を行っています。
両生類には興味深い特徴がたくさんあり非常に奥が深いのですが、今回はカエルの「変態」に関してお話ししようと思います。
ご存じのように、両生類は「変態」という特徴的な過程を経て成長します。
基本的にカエルは水中に卵を産み、そのまま水の中で初期発生が進みます。
幼生(オタマジャクシ)は四肢を持たず水の中を泳いでいますが、やがて後肢が生え、前肢が生え、尾が縮み、成体のカエルになって、陸上を歩き回ったり飛び回ったりするようになります(「リパブリック讃歌」のメロディに乗せて「♪やが〜て手が出る足が出る」と歌いますが、その順番は実際とは違います)。
一般に、オタマジャクシは主として植物性の餌を食べるのに対し、成体は動物性の餌を食べるようになります。この食性に応じて消化器官の大幅な作り替えが起こり、形態、構造、機能も大きく変化します。
幼生と成体では生活空間が異なることに加え、食べるものについても競合しないことが、生存戦略として有利であると言われています。
大幅な作り替えが起こるのは消化器官だけではありません。
呼吸器官(幼生ではえら呼吸→成体では肺呼吸)、中枢神経系、皮膚など全身のほとんどの組織が、変態によって変化するのです。
1匹の個体の一生の中で、外見も中身もここまでダイナミックに変化するというのは明らかに不思議ですから、古くから多くの研究者がカエルの変態のメカニズムに関する研究を行ってきました。
両生類の変態は、甲状腺ホルモンによって促進的に調節されます。
これに関する初めての報告は、1912年まで遡ります。
Gudernatschはアカガエル属のオタマジャクシに哺乳類の色々な臓器を食べさせて、変態の進行具合を観察するという実験を行ったのです。
その結果、甲状腺を食べさせたオタマジャクシでは、肝臓や副腎、生殖腺などのほかの臓器を食べさせたオタマジャクシよりも変態が早く進むということがわかりました(Gudernatsch, 1912)。
甲状腺ホルモン(サイロキシン)が単離されたのは1915年(Kendall, 1915)ですから、それよりも先に、甲状腺に含まれる物質がカエルの変態を促進するはたらきがあることがわかっていたことになります。
Gudernatschの発見から100年以上経ち、研究手法の進歩もあり色々なことがわかりました。
しかし、それでも両生類の変態調節メカニズムの完全な解明まではまだまだ遠い道のりです。
例えば、どのようなタイミングで幼生として成長するのをやめて変態を開始するのか、といった根本的なところさえまだ明らかになっていないのです。
また、最近になって幼生期に特異的に発現する新規のホルモン(プロラクチン1B)が見つかったりもしています(Okada et al., 2019)。
研究のしがいがありますよね。
- Gudernatsch, J.F., 1912. Feeding experiments on tadpoles. Arch. Für Entwicklungsmechanik Org. 35, 457–483. https://doi.org/10.1007/BF02277051
- Kendall, E.C., 1915. The isolation in crystalline form of the compound containing iodin, which occurs in the thyroid: its chemical nature and physiologic activity. J. Am. Med. Assoc. LXIV, 2042–2043. https://doi.org/10.1001/jama.1915.02570510018005
- Okada, R. et al., 2019. A novel type of prolactin expressed in the bullfrog pituitary specifically during the larval period. Gen. Comp. Endocrinol. 276, 77–85. https://doi.org/10.1016/j.ygcen.2019.02.006