大学生の継続経験と「やり抜く力」(2022年1月)

1. 調査の概要

本調査では、主に大学入学前までに最も継続経験のある活動と「やり抜く力」の関係性 について調査し、大学入学後においては、大学生の課外活動として、サークル・部活動や アルバイトと「やり抜く力」の関係性について、静岡大学の学生を対象として調査した。

調査の概要は以下の通りである。

調査名:「大学生の継続経験と『やり抜く力』について」

調査実施者:松下雄哉(情報学部情報科学科4年)

調査対象:静岡大学情報学部学部生 1114名, 大学院情報学専攻修士課程 206名, 工学部248名, 人文社会学生1名。

調査方法:Googleフォームを用いたwebアンケートによる量的調査

調査期間:2021年12月26日(土)14:25~2021年1月4日12:00

調査票の回収状況:1114名に送信,有効回答数145件,有効回答率13 %

2. 調査のまとめ

今回の調査において、まず小学校から大学入学前までの活動においては、「やり抜く力」は「スポーツ」「勉強」「文化活動」などの経験をしたことがある学生と、「特になし」と回答した学生のグリットスコアの平均値に対して有意水準0.05でt検定を行ったところ、それぞれでp値 < 0.05を示したことから、活動の内容に関わらず、長期的に1つのことに取り組んだ経験が、「やり抜く力」の向上につながることがわかった。

図表1  小学校から大学入学までの継続経験と「やり抜く力」

グリットスコアの平均値 人数
特になし 2.34 13
受験勉強 2.95 35
スポーツ系 3.03 50
文化系 2.89 27

 

 

また、その中でも「受験勉強」に注力していたグループと、「文化活動」に注力していたグループの情熱スコアの 平均値に対して、有意水準を0.10としてt検定を行ったところ、片側検定、両側検定ともにp値 < 0.10となり、2つの平均値の間に有意な関係性が見えたことから、今後この 2つの活動との関係性についても調査していく価値があるだろう。

図表2 各種継続経験と「粘り強さスコア」「情熱スコア」

粘り強さスコアの平均値 情熱スコアの平均値
スポーツ 3.108 2.96
受験勉強 2.99 3.18
文化系 3.04 2.72

 

 

また、ダックワースの著書では 2 年以上1つの事柄に取り組んだ経験が、「やり抜く力」の向上に関与し得るという報告がされていた。そして実際に、今回のアンケート調査の結果からも、小学校から大学入学までに最も注力したことにおいては、グリットスコアとの有意 な関係性が見られ、実際に 2 年以上1つのことに注力した経験があるグループの方はグリ ットスコアが高いという結果が示された。 しかし、大学サークルや部活動、アルバイトなど、大学在学中の課外活動においては、 継続した年数や活動の種類とグリットスコアに有意な関係性を確認することができなかった。

このことを考えると、「やり抜く力」はあるが、たとえば目的意 識を持って活動した経験が少なかったことや、情熱を注ぐ場所が見つけられずにいるなど が原因で、十分その能力を発揮しきれていない環境にあるということ、もしくは大学といういわばトレーニング中の環境であるが故に、まだ能力の向上まで到達できていないという2つの点が考えられると考察した。

特に前者においては目的意識の欠如が大きいと考えられる。特に「やり抜く力」においては、自身の活動に対する目的意識を持つことから「情熱」が生まれ、実行する中で壁にぶつかっても明確な理由づけを持つことで継続ができ、その中で「粘り強さ」が鍛えられる。このことから、「やり抜く力」はあるが継続できていない学生は目的に対する理由づけに課題があり、継続はできているが「やり抜く力」が低い学生は、今後社会に出たときに、大学時代の経験が「やり抜く力」に影響があるのかを追跡研究の中で調べる必要があるだろう。

Last updated: 2024-02-16