静岡大学生の就職活動に関する調査(2023年11月~2024年1月)

1. 調査の概要

本調査は2023年度卒業論文において、静岡大学の2024年3月卒業予定者の職業選択の要因について明らかにし、静岡大学生の就職支援の手がかりを探すとともに、地方国立大学として労働という観点から地域社会にどの程度貢献しているかについて検討することを目的として実施された。調査の概要は以下の通りである。

調査名:静岡大学生の就職活動に関するアンケート

調査対象:静岡大学生の学部4年生および修士2年生(24卒)の就職活動終了者

調査方法:Google formsを用いたWebアンケートによる調査

調査期間:2023年11月27日(月)~2024年1月9日(火)

回収状況:学部4年生が104名、修士2年生が47名。計151名の有効回答。

分析方法:単純集計、クロス集計を分析方法とする。また、本研究の先行研究としてマイナビキャリアリサーチLabの「2024年卒大学生就職意識調査」と内閣府の「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査 調査結果 報告書」を用いて、本アンケート結果との比較を踏まえながら研究結果を報告させていただく。

回答者の属性:有効回答数151名のうち、人文社会学部/大学院人文社会科学研究科が18名、教育学部/教育学研究科が5名、理学部/大学院理学専攻が11名、地域創造学環が3名、農学部/大学院農学専攻が11名、情報学部/大学院情報学専攻が54名、工学部/大学院工学専攻が49名。性別は男性105名、女性46名という結果になった。

 

調査項目:

1.学部時代のGPAおよび修士時代のGPA

学部時代のGPAと修士時代のGPAを少数第2に四捨五入して回答してもらった。

2.就職活動の期間

就職活動開始時期と終了時期を22年5月以前から23年11月までの19つの中から就職活動開始時期と就職活動終了時期を1つずつ回答してもらった。

3.企業選択において重視するポイント

マイナビキャリアリサーチLabの「2024年卒大学生就職意識調査」の質問をもとに作成した。

4.就職活動における軸

就職活動において重視した項目を5件法で回答してもらった。項目については、7項目に絞り、「卒研・修士研究との連続性」「勤務地」「待遇」「会社の規模」「通いやすさ」「地元の近さ」「自分の興味関心・やりたいこと」とした。

5.就職予定先業界の項目

日本標準産業分類をもとに14つの業界に分類し、回答してもらった。14つに分類されない場合はその他に回答してもらう形にした。

6.就職予定先の採用職種

「技術職」「研究職」「総合職」「営業職」「教員」「公務員」とその他の7つの項目を設け、回答してもらった。

7.就職予定先の希望部門

「技術」「情報システム」「研究」「企画開発」「広報」「営業」「総務」「人事」「法務」「経理」「公務員」「教員」とその他の13つの項目を設け、回答してもらった。

8.大手志向の度合い

マイナビキャリアリサーチLabの「2024年卒大学生就職意識調査」では「絶対に大手がよい」「自分のやりたい仕事があれば大手企業がよい」「やりがいのある仕事であれば中堅・中小企業でもよい」「中堅・中小企業がよい」「その他」「自分で会社を起こしたい」の6つで構成された質問項目であったが、予備調査時の回答者などのコメントを基に精査し、本調査の5件法を利用し、回答してもらった。以下、5件法の回答である。「大手が良い」「どちらかといえば大手企業が良い」「こだわりはない」「どちらかといえば中堅・中小企業が良い」「中堅・中小企業が良い」

9.就職活動の情報入手手段

「大学のキャリアセンター」「研究室」「友人や先輩」「新聞や書籍などの紙媒体」「就活サイト」「SNS」「企業のホームページ」「説明会」「家族や親戚」「就活エージェント」の10つの項目を設け、回答してもらった。

10.キャリア支援の貢献度

「役に立った」「どちらかといえば役に立った」「どちらかといえば役に立っていない」「役に立っていない」の4件法を用いて回答してもらった。

11.キャリア教育の貢献度

「役に立った」「どちらかといえば役に立った」「どちらかといえば役に立っていない」「役に立っていない」の4件法を用いて回答してもらった。

12.静岡大学のキャリア支援及びキャリア教育で知りたいこと

「他大学の支援事例」「インターンシップに関する情報」「学部1・2年次の就職準備支援」「企業が学生をどのように評価するについて」「自分の特徴を活かした就職活動の仕方」「企業の採用動向に関する情報」「他学生の就職活動の進捗状況」「OB・OGに関する過去の就職支援事例」「OB・OGの就職後の動向」「OB・OGの就職体験記」とその他の11項目を設け、回答した。

13.インターンシップの参加可否および参加状況

インターンシップの参加したのかについて、はい、いいえの2択で回答してもらった。インターンシップの参加企業数を1社から10社以上の10つの項目を設け、回答してもらった。また、「業界・業種への理解を深められるプログラムだから」「就職先として興味・関心を抱いているから」「職業観・就業感を養うできるプログラムだから」「学業に役立つプログラムだから」「学業に支障が出ない時期・プログラムだから」「社会人として必要なスキルや能力が身につくから」「採用選考に繋がるプログラムだから」「給料が出るから」とその他の9つの項目を設け、回答してもらった。

14.出身地および勤務地

静岡県内の出身か就職かについてはい、いいえの2択で回答してもらった。勤務予定地に関しては、*勤務予定地の候補が複数ある場合は配属の可能性が最も高い勤務地について回答してもらう形とした。

15.入社予定先経路

内閣府の「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査 調査結果 報告書」を予備調査時のコメントをもとに「学校推薦」の項目を追加した、「自由応募」「インターンシップに参加していない会社側からの案内」「インターンシップに参加した会社側からの案内」「スカウト型ウェブサイトを通じた会社側の案内」「大学の就職支援担当から」「公的な就職支援機関」「アルバイト先」「新卒エージェントからの紹介」「学校推薦」「大学の教員からの紹介」とその他の11つの項目を設け、回答してもらった。

16.入社予定先の志望度

内閣府の「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査 調査結果 報告書」をもとに、入社予定先の志望度を尋ね、「第一志望先の企業だった」「志望度の高い企業の一つだった」「その時点では強く志望していなかった」「覚えていない」の4択で回答してもらった。

17.静岡大学のキャリア教育およびキャリア支援における自由記述

静岡大学のキャリア支援やキャリア教育をどのように改善すべきかについて尋ね、自由記述方式で回答してもらった。

2. 調査のまとめ

図表1―1 就職活動開始から終了までの期間

内閣府の「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査 調査結果 報告書」を参考に、全国の学生と比較して、『9か月以上』と回答する学生の割合が本学学生の方が多く、長期に及ぶ就職活動を行っていることが分かった。また、本学においても全国的な「就職活動の長期化」の影響が及んでいると考えられる。

図表1―2 7項目の考慮の程度

1を『重視しない』とし、5を『重視する』とした各7項目の考慮の程度について、本学学生が最も考慮する項目は『待遇』であった。次に『自分の興味関心・やりたいこと』であった。これは第3章の図表3―6からも裏付けることができるものである。また、考慮の程度が最も低い項目は『卒研・修士研究との連続性』であるが、これは学生が最も考慮する項目が『自分の興味関心・やりたいこと』であり、研究内容よりも自分の興味関心を持つ分野に対して就職したいと考えられる。

図表1―3 企業選択のポイント

先行調査のマイナビキャリアリサーチLabの「2024年卒大学生就職意識調査」と比較して、最多は先行調査同様に「安定している会社」である。マイナビの調査のそれの回答割合が48.8%なので静岡大学生は全体と比較して安定志向なのではないかと考えられる。先行調査では「給料の良い会社」と「自分のやりたい仕事ができる会社」の順位が逆であったため、静岡大学生は自分のやりたい仕事よりも待遇を考慮する傾向にあると言える。特筆すべき項目は、「有名な会社」と答える割合が多かったという点である。先行調査では全体の2.6%の回答数であったため、それと今回の結果を比較すると多い割合であると言える。その他の回答5件については、「勤務地が地元の会社」「風通しの良い会社」「東京近郊勤務」「勤務地(東海四県)」「勤務地」で、勤務地や会社の内部に関する回答であった。

図表1―4 就職予定先の業界

日本標準産業分類をもとに14つに分けた後、回答があったものをグラフにまとめた。回答がなかった項目は、『農業・林業・漁業』、『鉱業・採石業・砂利採取業』、『不動産業・物品賃貸業』の3項目であった。製造業が最も多く、次いで情報通信産業となっている。浜松キャンパスの工学部・情報学部の回答が多かったため、このような結果となっている可能性がある。同様の調査である内閣府の「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査 調査結果 報告書」においても1位が製造業、2位が情報通信産業となっていたため、静岡大学は全国的な回答と類似している傾向であった。

図表1―5 就職予定先の職種

『技術職』76名『総合職』42名『研究職』10名『営業職』10名『教員』8名『公務員』3名であった。その他の項目には『不明』『技術系総合職』の2件回答があった。理系学部での回答数が多いため、技術職が多くなったと考えられる。

 

図表1―6 大手志向度合い

類似調査であるマイナビキャリアリサーチLabの「2024年卒大学生就職意識調査」では大手企業を好む学生は全国で見ると48.9%であり、東海地方で見ると39.3%であるため、本学学生の大手企業への志向度は高い水準にあることが分かった。

図表1―7 就職活動の情報入手先

大学側からの影響よりも、マイナビやリクナビなどの就活サイトや企業のホームページ、説明会などの企業側から受ける影響が大きいとされている。

 

図表1―8 キャリア支援(右)とキャリア教育(左)の貢献度

7割弱を超える学生が本学のキャリア支援は役に立っていると回答している。本学におけるキャリア支援は一定の効果があった結果であると考えられる一方で、役に立たなかったと回答する学生が8割弱であった。キャリア教育が機能していないことに関しては、懸念されるべき事案である。

 

図表1―9 インターンシップ参加企業数

内閣府の調査では、全体の学生の7割が参加したと回答しているが、本学学生は8割を超える学生が参加したと回答している(先行調査2は72%、本調査は81.5%)。そのうち、複数参加した学生は76%(115名)であり、これも先行調査2よりも高い数値となっている。複数のインターンシップを参加した中で最も回答が多かったのは5社の18.7%(23名)であり、次いで4社の13.8%(17名)であった。また、10社以上参加している学生も11.4%(14名)いた。

図表1―10 インターンシップ選定基準

内閣府の調査と比較すると、『就職先として興味・関心を抱いているから』と回答した割合が最も多く106名で、次いで『業界・業種への理解を深められる プログラムだから』81名、『採用選考につながるプログラムだから』66名の順であった。これは先行研究2の順位と同じであり、静岡大学生のみならず、学生全体の総意であると考えられる。

 

図表1―11 4類型

静岡県内出身者かつ静岡県内就職者を『内内』、静岡県内出身者かつ静岡県外就職者を『内外』、静岡県外出身者かつ静岡県内就職者を『外内』、静岡県外出身者かつ静岡県外就職者を『外外』と定義し、その回答結果が図表1―11である。『外外』が多く、次いで『内外』、『外内』、『内内』であった。このことから、本学は就職を機に静岡県外に人材を流出していることが明らかになったとともに、静岡県という地方の国立大学として、人材という観点からは貢献できていない結果であった。

 

図表1―12 就職先の志望度

『第一志望先の企業だった』84名『志望度の高い企業の一つだった』56名『その時点では強く志望していなかった』10名『覚えていない』1名であった。このことから、本学学生の大半は、就職活動に対して自身が満足のいく結果で終えていることが分かる。

図表1―13 就職予定先経路

内閣府の「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査 調査結果 報告書」と比較すると、『自由応募』を通じて就職予定先への内定を獲得した学生の割合が低く、『インターンシップに参加した企業側からの案内』を通じて就職予定先への内定を獲得した学生の割合が高い結果となっている。また、『学校推薦』の割合も多く、1割弱の学生が利用している。

3. 研究のまとめ

静岡大学生の職業決定要因を調査した結果、安定志向かつ大手志向の高い学生が多くいるということが明らかになった。このような志向から、待遇面を考慮することが主な要因となっている。また、職業決定までの過程では、全国的な就職活動の長期化の影響を本学学生も受けていることが分かった。インターンシップには、8割を超える学生が参加しており、複数社参加している学生が大半であった。インターンシップへの応募の選定基準としては、全国の就職活動生と同じ傾向であった。最終的に入社した会社に関しては、大半の学生が満足しており、本学学生は就職活動に成功していると言えよう。しかしながら、キャリア教育に関しては、学生が満足するものではなく、本学においても議論する余地がある。さらには地方国立大学において、静岡県内に労働力という観点からの貢献を果たすことができておらず、優秀な人材が流出していることも明らかになった。この問題に関して静岡県単位で解決していく必要がある。

Last updated: 2024-02-16