(以下の記事は、情報社会学科が2学科制の際の【私の卒業研究】です。現在の3学科制の情報社会学科とは扱う内容が一部異なりますが、参考までに掲載します)
卒業研究の内容を教えてください。
テーマは「校歌の歌詞に謳われる静岡県の地域イメージと歌詞データベースの作成」です。
この研究のテーマは地域イメージを把握することによって、地域アイデンティティを認識する範囲を特定することが目的です。なぜ地域イメージを把握する必要があるのかは2つの理由があります。

1.現在犯罪の増加や、災害などにおいて地域コミュニティのパワーが見直されています。その際、住民が自分自身が居住している地域を意識することが重要です。
2.また、平成の市町村合併における広域新自治体での地域アイデンティティを共有する範囲のずれが生じている可能性があることから、県内の地域レベルでの地域イメージ・地域アイデンティティが問題となっています。
そこで、静岡県の小学校を対象地域とし、校歌に歌われる景観要素を抽出し、そこから静岡県の地域イメージを把握しようとしました。校歌には教育理念や校風とともに郷土の歴史風土を謳いあげる特性があることから、地域イメージを把握するために、景観要素を抽出する際に用いました。
学校の基本情報(学校名、住所など)とともに、校歌から抽出した景観をデータベースとして作成しました。そして、それぞれの固有地名を校歌に謳う学校をArcGISを用いて地図上に点データとして表示し、地域イメージを分析しました。
この卒業研究を書こうと思った理由は何ですか?
3年生の頃から地域社会と情報演習を学んでいく中で、地域のあり方や地域の人々、地域コミュニティなどに興味を持つようになりました。しかし、具体的にどのような研究をしたいという明確な骨子はなかなか見つけられませんでした。
西原純先生と相談をしていくうちに、校歌を用いて地域の景観から地域のあり方を分析するという研究にたどり着きました。ちょうど現在市町村合併がすすめられていますが、広域名自治体が続々と誕生する中で、地域アイデンティティを異にする地域範囲も想定されると仮定し、地域アイデンティティを認識する範囲にはどのような広がりが見られるのかということを最終的には研究しています。
これまでの研究と比較して、あなたのこの研究の長所はなんだと思いますか?
校歌から景観を研究したものは既存研究でいくつか見られるのですが、今の時代に合わせて、その内容をデータベースとして構築しているところがオリジナル性があると思います。また、データベースから任意の景観要素を抽出させて、その景観を持つ学校をArcGISという地図表示システムを使用して、位置表示させて視覚的に把握できるようにしたところが情報学部らしいのではと思います。

市町村には、シンボルとして、花や鳥が定められていることがあります。それは校歌にはどのように反映していますか?
花はときどき校歌に盛り込まれていることがありますが、それほど影響力はなかったようです。また、動物という要素は校歌にあまり盛り込まれにくいようで、鳥を含めて、ほとんど校歌に反映されていなかったと思います。やはり校歌に盛り込まれる景観には広く地域の人々に認識されやすいもの(視覚的・イメージ的)が採用される傾向にあるようです。
静岡大学の浜松キャンパスに「校歌」を作成するとしたら、あなたはどのような言葉を織り込みますか?
景観要素に限って言えば、浜松に立地しているということで、“遠州灘”という言葉、それから“浜名湖”は織り込みたいと思います。それから浜松城も静岡大学浜松キャンパスに近い場所に立地していてシンボル的要素であると考えられ、織り込みたいと思います。
ただ、”大学”の校歌ということもあり、あまりローカルな要素をとりいれるのではなく、もっと視野を広げた歌詞を取り入れたほうがいいと思います。(とは言っても、すぐに思いつきませんが・・・)小学校・中学・高校・大学に入れるべき景観要素はそれぞれ異なると考えます。
卒業研究作成に当たって、もっとも苦労したことは何ですか?
集めた校歌からデータベースを構築することは大変でした。データベースソフトはMicrosoft社のAccessを使用したのですが、まったく扱ったことのないソフトでしたので、まず慣れることが大切でした。そこから景観抽出システムのプログラムも書いたのですが、“プログラムを書く”という行為を1年生以来していなかったので構造や書き方などもほとんど覚えていなくて試行錯誤の繰り返しでした。
しかもすぐに結果が出るわけではなく、システムエラーを繰り返しているうちは本当にできるのだろうか?という不安で気が滅入りそうになることもしばしばありました。

それから卒業論文として文章を書き上げる際にはなかなか言いたいことが言葉として現れてこなく、自分の文章力のなさに苦労しました。先生にご指導いただき、なんども添削をしていただいて、期限までになんとか仕上げることが出来ました。
卒業研究を進めるに当たって、後輩に何かアドバイスはありますか?
技術的なことは何も言いません。精神的につらくなってくることがあります。なので、辛いときは友達と励ましあう。たまには息抜きもしましょう。だいたい計画をおぼろげに立てながら進めていくといいと思います。それから、わからないことがあったら、とにかく相談する!! 友達然り、先輩然り、先生にもどんどん質問をしにいったほうがいいと思います。
主査・副査の先生からどういう指導・講評をうけましたか?
主査の西原先生には普段のときからほんの些細なことでも相談にのっていただいていました。システムを構築するときに「このようなシステムを作ってみてはどうか?」という助言もいただきました。
私は自分の論文にあまり自信がなく、できるかどうか不安だったのですが、先生には明確なビジョンがあるようで、適時明確なアドバイスをいただいたので、見えざる手によって気がつけば、論文ができていたという感じです。上手く誘導していただいて本当に感謝しています。

質問に訪れた際にはいつでも熱心に相談に乗っていただいたことも本当に感謝しています。
副査の八重樫先生からは、データベース(用語辞書)の基礎知識について学んだほうがいいというアドバイスをいただき、八重樫先生が受け持っていらっしゃるゼミに途中参加させていただき、用語辞書の概念(後に、自身のプログラム作成時に使用する)を学ばせていただきました。
情報社会学科で学んだことは何ですか?
なぜ情報社会学科に入学しようと思ったかというと、”いろいろなことが学べそう”と思ったからです。私は高3の時点で英語に興味がありました。しかし、これからの時代のことも考え、コンピュータにも興味がありました。また、社会で起こる現象を深く研究してみたいとも考え、社会学にも興味がありました。この3つの勉強の興味を一度にかなえてくれそうな学科が情報社会学科でした。
そして、実際にその3つを学ぶことが出来たのです。
英語の授業はコミュニケーションスキルズやリーディングスキルズ・リスニングコンプリヘンションなどで会話・読み・聞き取りをさらに深く学ぶことができました。また、TOEIC対策の授業も選択でき、私もその授業を選択し、TOEICにチャレンジしました。また、ロシア語を選択できたのもよかったです。
コンピュータに関しては、知識と実技を学ぶことができます。実技ではプログラミングに始まり、ExcelやPowerPointなども学びました。さらにはGIS、データベースなどさまざまな分野を学ぶことができます。
そのほかに心理学、都市学、経営情報学、コミュニケーション学などを1~2年のうちに学ぶことができました。
そして、自分の興味を持った分野(私の場合は、人文地理分野)について、さらに卒業演習という形で深く学ぶことができます。情報社会学科では3年から卒業予備演習というゼミ形式の授業が始まりましたが、そのゼミの内容も、1、2年のうちに幅広く学んだ内容から、自分の興味を持った分野を広く学べるよう、さまざまな演習(情報システム系、メディア系、社会学系、国際文化系など他にもいっぱい!)が用意されていて、選ぶのに迷ってしまうぐらいでした。
私が選んだ人文地理系のゼミでは、流行の地域的分散のシミュレーションを行なったり、土地区画整理事業についての住民の視点と行政との関わり方なども学ぶことができ、ソフト的・ハード的にも密度の濃いものとなり、とても充実していました。
このように、情報社会学科では、まず、1~2年で自分の興味ある分野を探すことができ、さらに3~4年ではそこから深く学ぶことができます。
しかも、興味ある分野を探すための窓口(授業内容)が多岐にわたっているため、「まだ何をしたいか具体的に見えていない」人にとっても、自分の視野を広げることができます。
指導教員講評
指導教員:西原純
Mさんの卒業研究は、小学校校歌の歌詞にある地名に焦点をあてて、住民の地域イメージや地域アイデンティティをさぐるという研究です。現在、平成の市町村合併が進み小学校が統合・新設されて、校歌が新しく作られていると聞いています。このように地元の人々にとって、小学校はかけがえのない存在で、校歌は地元地域の象徴です。
Mさんの卒業研究は非常に魅力的なテーマですが、決して新しい研究テーマではありません。しかしながら静岡県を事例地域に選んだことで、富士山を校歌歌詞にもつ小学校が静岡県全体に広がっているという、静岡県の特異性もわかりました。やはり富士山は静岡県全体のイメージだったんですね。また伊豆地方は、天城山と狩野川をもつ小学校に大きく二分されます。天城山に思い入れをもつ地域と狩野川に思い入れをもつ地域が錯綜していて、私の研究室の伊豆地方出身の学生間で、どちらに思い入れが強いかで、激しい議論があったのはほほえましかったです。

Mさんは、実際の校歌作詞者の方々に、どのようなプロセスで校歌の歌詞を考え、作詞していったかについても、インタビュー調査しました。そして校歌歌詞を集める作業で、静岡県内市町村の教育委員会のご協力を得ました。お陰様で、静岡県内全小学校535校の歌詞を集めることができました。
またデータベース作成については、Mさんはマイクロソフト社のアクセスを使用しました。マイクロソフトアクセスは、他のマイクソフト系のアプリケーションソフトに比較して、システム作りが格段に難しいのですが、よく校歌歌詞データベースとして完成させたと思います。
そして富士山でも、「富士の峰」、「不二が峰」、「芙蓉の峰」など表現にはさまざまな形があります。富士山を選ぶだけで、富士山を表している「表現」の全て検索できる「同義語の用語辞書」をもつシステムに完成できたことは、データベース構築の点でも非常に有意義だったと思います。
さらに地理情報システム(GIS)ソフト ArcGIS を使って、データベースとGISを統合し、検索結果を自由自在に地図上に表示するシステムを作ったことも有意義だったと思います。静岡県内市町村教育委員会のご協力を得て完成させた校歌データベースなので、学校現場でも活用して頂けたらと思います。
Mさんは、先行研究の精査、校歌作詞者へのインタビュー調査、校歌歌詞データの収集、データベースシステム作成、テーマ発表・中間発表・卒研発表会でのプレゼンテーションなど、多大な時間をかけ多くの苦労しました。しかし指導教員の私から見ても、Mさんの1年は実りの多い、うらやましい年だったと思います。
取材・編集:N(2005.3.20)