【私の卒業研究】MCさん「青年における携帯電話を用いたコミュニケーションと孤独感の解消の関係」

(以下の記事は、情報社会学科が2学科制の際の【私の卒業研究】です。現在の3学科制の情報社会学科とは扱う内容が一部異なりますが、参考までに掲載します)

卒論の内容を具体的に紹介してください。

 携帯電話を用いた       コミュニケーションが、青年の孤独感の解消とどのように関係しているかを調査しました。青年に関する過去の研究結果より、直接顔と顔を合わせる対面のコミュニケーションと孤独感については、

  1. 単なるおしゃべりより自己開示(自分の状態や考えを誰かにさらけ出すこと-悩み相談や打ち明け話など)をするほど孤独感が解消される、
  2. この傾向は特に女性の特徴である、
  3. 自己開示の相手は、同性の友人の場合が特に孤独感を解消させる、

と言われています。近年急速に普及した携帯電話についても、コミュニケーション手段の1つであることから、対面のコミュニケーションのように孤独感と関係することは十分予測できます。しかしながら、携帯電話を用いたコミュニケーションと孤独感の研究はまだほとんど進んでいません。

 そこでこの卒論では、対面だけでなく、携帯電話や携帯メールでも、孤独感は解消されるのか調査をしました。また、この卒論では、携帯電話を電話やメールという通信手段として捉えるだけではなく、所有物としても捉え、孤独感に与える影響を調査しました。携帯電話を所有していることによって、着信音を聞かせたり写真を撮ったりなど、会話のきっかけや材料が増え、他者との交流が促進され、孤独感が解消されることもあるのではないかと予測したのです。

具体的な調査・分析内容を教えてください。

具体的には、独自の質問項目を設定し、アンケート調査を実施しました。その後、集まったデータを統計的に分析し、結果を考察し、明らかになったことをまとめました。
この卒論の結果明らかになったことは、次の通りです。

  1. 携帯電話の発信回数・着信回数が多いほど、または、通話時間が長いほど、孤独感が解消される。
  2. 携帯電話も携帯メールも、単なるおしゃべりより自己開示の方が、孤独感は解消される。ただし、自己開示による孤独感の解消効果を対面・携帯電話・携帯メールの3つで比べると、対面が圧倒的に高く、対照的に、携帯メールは極端に低い。
  3. 携帯電話における自己開示では、両親やきょうだいなどの身内相手でも孤独感は解消されるが、友人相手の方がより孤独感は解消される。携帯メールにおける自己開示は、相手によって孤独感の解消効果に差が出るようなことはほとんどない。
  4. 過去の研究では、自己開示によって孤独感が解消されるのは女性の特徴と言われていたが、男性も同じように孤独感が解消される。ただし、男女のその中身は異なり、男性は主に身内相手の自己開示が孤独感を解消させるが、女性は友人相手の自己開示が孤独感を解消させる。
  5. 携帯電話を所有していることで、会話のきっかけが増えてコミュニケーションが促進され、孤独感を解消させる効果が生じる。この効果は、特に女性における友人相手の場合に強く表れる。また、カメラ付き携帯電話を使った「写真を撮る」「写真を見せる」という行為は、特に会話の材料になりやすく、孤独感の解消にも繋がっている。

この研究により、今まで調査されることがなかった、携帯電話を用いたコミュニケーションと青年の孤独感との関係が明らかになったと言えます。

この研究では、話の内容によって孤独感の解消効果に差が見られるのか、コミュニケーションを取る相手によって差が見られるのか、男女別で差が見られるのか、対面・携帯電話・携帯メールの3つの手段別で差が見られるのか、など、様々な観点から分析をしています。それにより、青年の孤独感を、より細かく詳しく掘り下げることができたと実感しています。

この卒論を書こうと思った理由は何ですか? あるいは、この研究を通して、何を知りたかったのですか?

 自分自身の生活に密接に関係しているものを題材にしたいと考えていました。その点、携帯電話は今や私たち青年には欠かせないものであり、日常生活と切っても切れない存在であることから、題材として最適だと思いました。

 また、近年急速に普及したコミュニケーション手段であることから、過去の研究例がまだ数少ない点にも注目しました。誰かの二番煎じではなく、自分で新しい分野を開拓したいと思ったのがきっかけです。

 孤独感については、メル友や携帯依存症などの話でよく聞く「常に誰かと繋がっていたい」という気持ちが、携帯電話でコミュニケーションを取ることによって満たされるのかどうか気になったのがきっかけです。携帯電話が普及したことで、人と人が親密な繋がりを持てるようになり、孤独感が癒されるのかどうかを知りたいと思いました。

これまでの研究と比較して、あなたの研究はどんな点が優れていると思いますか?

 対面のコミュニケーションと孤独感についての研究例はいくつか存在していますが、携帯電話を用いたコミュニケーションと孤独感を調査した研究は、まだほとんど存在しません。まだ誰もやったことのない研究をやり遂げたということが、本研究の優れている点だと思います。

 携帯電話は、技術面の進歩だけがどんどん取り上げられ、次々に新しい機種が登場しています。しかしながら、人間の心にどんな影響があるのかについて、利用者の心理面からのアプローチはまだほとんど進んでいません。そのため、携帯電話と人間の心の関係を、科学的に調査した本研究は、大変画期的であると考えています。

 また、よりよい調査ができるよう、質問項目を独自に作成した点にも自信があります。私自身が青年期真っ只中であり、その青年の視点から設定した本研究の質問項目は、より正確に青年の日常生活を捉えていると自負しています。

卒論を作成する過程で苦労したことはなんですか?

 アンケート調査を行い、データを統計的に分析したところ、データに偏りがあったためにうまく結果が見出せなかった点です。予想していたものと全く違う結果になり、大変困惑しました。そこで、ゼミの先生に相談したところ、違う分析方法を教えていただきました。教わった方法で分析したところ、うまく結果を見出すことができました。遠回りして見出せた結果でしたが、違った角度から自分の研究を見直すきっかけとなりました。

 また、分析によって分かった事の量が膨大であったために、書きたいことがたくさんありすぎて苦労しました。分かりやすくまとめることができず、試行錯誤しました。

 ゼミの先生には、何度も何度も添削していただきました。ゼミの先生にメールで論文を送っては、「赤ペン先生」のように添削してコメントをいただく日々が続きました。でもそのおかげで、最終的には、非常に論理的な文章を書くことができたと思っています。

卒論を書くに当たって、後輩に対するアドバイスはなんですか?

 自分が最も興味のあることを探して、楽しんで取り組むことが大切だと思います。楽しんで取り組むことで、卒論は「やらなければいけない事」ではなく、「最も充実した面白い事」になると思います。楽しんで取り組むと、作業もはかどるし、文章も生き生きしてくると思います。

 それから、どんな作業もなるべく早く取り掛かることをお勧めします。締め切りや期限が近づくにつれて、楽しい気持ちは薄くなり、ただの義務感だけになってしまうからです。義務で作業を進めると、自分のやりたい研究ではなく、やらされている研究という気持ちになってしまいます。そうすると、楽しくないから作業が進まず、よけい期限が近づくという悪循環に陥ります。早いうちから手をつけることで、心に余裕ができ、研究を進めて行くことが楽しくなると思います。そのためにも、自分の最も興味のあることを探すのが大切です。自分の興味のあることには、自然と楽しく取り組めるものです。

主査・副査からどのようなコメントをもらいましたか?

 過去の研究の流れを受け、どんな点を明らかにしたいのか、どうしてその点を明らかにしたいのか、どうやったら明らかにできるのか、結果はどうだったのか、が明確に述べられていて分かりやすいとのコメントをいただきました。

 また、多くのことを調査しているわりには、独自に作成した質問項目は、非常にきれいにまとまっていると言っていただきました。新しい分野の研究で、興味深い結果も見出されたことから、調査人数をもっと増やして再調査をすれば、正式な論文として発表することも可能であると言ってくださいました。

携帯電話を単なる通信手段としてではなく、孤独解消の手段としてとらえた点にこの論文のおもしろさがあります。
では、その点に着目すると、今後、携帯電話はどのように使われていくと思いますか?

 携帯電話が日常生活に欠かせない存在になり、携帯電話の機能がどんどん進歩するにつれ、携帯電話による孤独感の解消効果はますます高まると思います。携帯電話を所有していることで、周りの人との会話の材料が増え、コミュニケーションを取るきっかけとなるからです。本研究でも、カメラ付携帯電話による、写真を撮る・写真を見せるという行為は、孤独感の解消へと繋がる結果を見出しました。最近では、動画が送れるようになったり、テレビ電話のような役割を担っている携帯電話も登場しています。携帯電話は、確実にコミュニケーションのきっかけを作り出す存在になっていると言えます。

 携帯電話を利用して、周りの人とコミュニケーションを取ることで、人間関係の形成が助けられ、悩み相談や打ち明け話などをし易い環境が作られているのではないでしょうか。携帯電話が進化することで、会話の材料やきっかけがますます増え、孤独感を解消させる効果も高まると思います。

 しかし、対面よりも携帯電話の方が孤独感が解消される、という状況にはならないと思います。あくまで基本は対面のコミュニケーションなのです。本研究でも、孤独感の解消効果が一番高いのは対面、次が携帯電話、次が携帯メールという結果となっています。対面で話し合いをすることが、一番孤独感を解消させるのは間違いないのです。

 重要なのは、対面のコミュニケーションにどれだけ類似できるか、という点だと思います。対面の状態に類似すればするほど、孤独感の解消効果は高まります。おそらく、ただの携帯メールより、動画や写真付きの携帯メールの方が、対面に類似するため孤独感が解消されるでしょう。また、テレビ電話のような機能を使えば、より一層対面に類似し、孤独感の解消へと繋がることでしょう。携帯電話の機能が増え、対面にどんどん類似することで、孤独感の解消効果もますます高まると考えます。

諸外国と比較して、日本人の携帯電話利用の特徴はなんですか?

 ビジネスのためではなく、娯楽のために携帯電話を利用する人が多い点ではないでしょうか。着信音や待受け画面を提供するサイトが非常に多く存在している点も、娯楽性を象徴しています。携帯電話でゲームをするのも、娯楽のためです。

 また、近年では、携帯電話利用者の低年齢化も特徴だと思います。高校生や中学生はもちろん、小学生までもが携帯電話を所有するようになってきています。友達とのコミュニケーションには、携帯電話が必需品なのでしょう。携帯電話を持っていないと、友達の会話についていけないのかもしれません。

情報社会学科で学んだことは何ですか?

 自分の興味を広げる楽しさを知りました。私は、入学当初から心理学を勉強してみたいと思っていました。心理学のゼミに入って、心理学の勉強をすることが、私の夢でした。しかし私は、心理学に限らず、ありとあらゆる授業を履修し、様々な分野の知識を吸収しました。今まで知らなかったことを知ること、ついこの前までは出来なかったことが出来るようになっていること、自分自身のそんな小さな成長一つ一つが、楽しくて仕方ありませんでした。心理学を勉強したいという夢は、ずっと変わらず持っていましたが、心理学以外の勉強をすることも大変興味深く、自分の糧になっているなとひしひしと感じていました。

 また、様々な授業を履修したことで、やっぱり心理学が自分の一番打ち込めるものだ、という確信へと繋がりました。大学は、自分のことは自分で決める所です。自分がどんな授業を取るのか、どんな方面に進んで行くのかは、自分の自由です。私は、自分の意志で心理学をやろうと決めましたが、情報社会学科は、どんな可能性でも広げられるチャンスがあると思います。自分の興味を探し出し、自分の興味に突き進んでいけるような場所が用意されていると思います。

 私は、最初から心理学がやりたいと思っていましたが、心理学だけを学ぶ学科に行かなくてよかったと心から思います。一つの分野だけにとどまらず、色々な学問が学べ、幅広い視野を持って考えることができるこの情報社会学科を選んで、本当によかったと思っています。実際、私の興味は心理学だけにとどまらず、あらゆる分野へと広がりました。経営に関する授業を受けた経験は、お金の流れや物の動きに対する興味へと繋がり、自分自身の就職を考えるきっかけとなりました。ことばに関する授業を受けた経験は、趣味の読書へと繋がり、日本語やことばづかいに関する本を読むきっかけとなりました。

 情報社会学科は、自分の可能性や自分の興味を広げるチャンスが、ゴロゴロたくさん転がっていると思います。そのチャンスの中から、どれを選んでどれを得ていくかは、自分の自由です。私はたくさんの事を吸収し、自分の関心を広げ、自分が一番興味のあることと出会いました。その過程全てが楽しくて、ワクワクする出来事でした。当初の夢、「心理学の勉強をする」も叶えることができ、この情報社会学科に来て本当によかったと思っています。

指導教員講評
指導教員:漁田武雄

 MCさんの卒論の最大ポイントは、やはりそのテーマです。携帯電話・メールの孤独感低下機能を、対面コミュニケーションと比較して行うという研究は、最前線の心理学研究でも行われていません。情報技術の進歩はすさまじく、その技術が人間とりわけ「こころ」にどのような影響を与えるかの検証を待たないまま、いわば「こころ」を置き去りにして、日々進歩しています。

 情報機器の中でも、携帯電話の普及はすさまじく、特に青年では、携帯がないと生きていけないと感じるほどの定着ぶりです。その普及は、大きな経済効果をもたらしましたが、青年の「こころ」をむしばんではいないのでしょうか。もしそうなら、オトナたちは青年の「こころ」を食い物にしていることになります。もちろん、心理学者たちもこの問題を放置しているわけではありません。心理学のさまざまな学会では、携帯電話関連研究の発表には多くの人が集まります。このように、多くの心理学者の関心を呼んでいるのですが、研究数は、まだ多いとはいえません。科学的な検証には、とてつもないエネルギーと時間がかかるのです。

 そんな中で、MCさんは、携帯電話と孤独感という非常にタイムリーで重要な問題に取り組み、とても明確でおもしろいデータを入手しました。このデータが確実に信頼できる(何度同じ調査を実施しても同じ結果が得られるということ。たくさんのデータを入手することや、同じ調査をもう一度実施して、同じ結果が入手できるかどうかで確認する。)ものなら、日本で一番権威のある心理学会誌に発表できる内容です。このためには、もっと被験者数をふやしたり追試をする必要があります。後輩の皆さん、あるいはこれを読んでいる受験生の皆さん、是非この研究を継承発展させて欲しいと思います。

 MCさんのテーマで、もう一つのポイントは、携帯電話をコミュニケーションツールとしてだけではなく、話題のネタ(着信画面、着メロなど、カメラなど)としてみている点もあげられます。これは、これまでに全くなかった視点であり、非常に独創性の強いテーマといえます。

 MCさんのテーマが優れていることは、偶然ではありません。このテーマに絞るために、莫大な先行研究の調査を行なっています。そして、これまでにどのようなことがどこまで明らかになっているのかを調べています。対人コミュニケーション、電話によるコミュニケーション、携帯によるコミュニケーション、自己開示(自分の心を打ち明けること)、孤独感、自己開示と孤独感低下、などなど、非常に多くの先行研究を調べ、それをレビューし、具体的なテーマに絞っていくのです。単なる思いつきで、携帯が面白そうだからやってみたというのではありません。先行研究調査のない実験・調査は「思いつき」であり、研究とは呼ばないのです。

 MCさんの卒論の優れた点として、質問紙作成における工夫もあげることができます。色々なことを調べるためには、多くの質問を行う必要があります。けれども、質問の数が多すぎると、回答する方が疲れたり飽きたりして、いい加減なデータしか得られなくなってしまいます。MCさんは、質問紙のレイアウトを工夫することで、質問の数が多い割には、疲れず飽きないで回答できる質問紙を作成しました。これは、非常に画期的なことなのです。

 また、MCさんの論文では、当初予定していた相関による分析では明確な結果が出なかったのですが、さらにt検定を用いる分析法を用いることで、非常に明快な結果を出すことに成功しました。とてもねばり強い分析といえます。この他にも、明快な文章、わかりやすい図表のプレゼンテーションなど、数多くの優れた点を持っています。

 MCさんは、早くから、この研究にとても楽しそうに取り組んでいました。追われる仕事は苦痛以外の何ものでもありませんが、追い込むとそれはとても楽しいのです。学問は、本来とても楽しいものです。皆さんも、是非楽しい研究を体験してみてください。

取材・編集:M(2004/03/26)