電子回路I

 

 

〇説明できるようになるべき言葉
〇 講義ノート2018
動作点から小信号回路へ
アンプの入出力抵抗を知りたい訳
ご参考After I
〇エミッタ接地アンプの動作をアニメでみる・DCとACに分解する
授業ビデオ公開(視聴希望の電気電子所属の学生は toru.tanzawa(at-markに変更)shizuoka.ac.jp にメールを送って下さい。アクセス設定をします。)

failure analysis


作家の柳田邦夫氏が新幹線台車の亀裂問題について分析されていた記事(毎日新聞H30.1.27)の中で、英・リーズン教授が提唱した組織事故のモデル「スライスチーズモデル」の解説があった。空洞のあるチーズをスライスしたものを複数枚重ねたものを使う。一枚一枚のスライスチーズに穴の空いた部分がたくさんある場合に、これらを複数枚重ねたものにはこちらから向こうが見える確率が高まり、反対に一枚一枚のスライスチーズに穴が少なければたくさん並べた後にはこちらから向こうは見えないだろう、というものである。大きな組織の各担当部署をスライスチーズ一枚に、担当部署の欠陥をスライスチーズに空いた穴に、多数のスライスチーズを並べたものを組織全体に、多数のスライスチーズを並べたものにこちらから向こうが見える穴が空いているのを表に現れてしまった事故に、それぞれ例えたものである。つまり、事故が表に現れないようにするためには、一枚一枚のスライスチーズに空いている穴をできるだけ小さく数の少ないものにしていくことが必要だ、ということである。それでは各部署でどのようにこれを行えばよいだろうか?自分の部署だけを見ていても、穴がどこに空いているかなかなか分からない。関連部署との関係を見ていくのが近道だろう。相手にはA, B, Cという三つの条件を想定しているけれど、もしAが十分でなかった状態A’になったらどうなるだろうかと仮定してみる。自分の部署のDをD’にしておけばあまりコストがかからずにA’, B, Cでも問題が生じないことが分かれば、自分の部署の微調整をすればいい。
   集積回路(IC)が仕様を満たさない項目があるとき、これをXX不良と名付けて関係部署で対応を図る。製品開発のフェーズでは複数の不良があるのが一般だ。よくあるのがスタンドバイ不良。何人かの不良が立ち話をしている訳ではない。ICが待機時にあるときにでも、想定以上の電流が流れている状態を示す。まず1cm角のチップの中のどのトランジスタで異常電流が流れるかを見つけることから解析が始まる。数10億個の中からどうやって特定できるか。地球のどこかにいる特定の一人を探すような難しい問題だ。トランジスタは指紋を持たないが、トランジスタが流す電流量が小さい場合でもその電流を担っている電子のエネルギーが高いため、弱い光を出していることに注目する。それが特定のトランジスタの持つ指紋だ。その光を検出する装置にいれて場所を特定する。本来あるべき電圧になっているかどうかを調べていって、例えばそのトランジスタを駆動する前段の回路がおかしいことが原因だったとする。回路設計がまずかったのか、回路設計は問題なかったがそのパタンが正常に発生されなかったのか、パタンは正常だがプロセスのマージンが足りなかったのか、などの可能な原因についてひとつずつ分析をしていって究明する。それを修正すれば不良解析修了となる。単に設計の不備という場合もあれば、部署間での認識のミスマッチが原因だったということもある。設計で想定していたパタンの発生方法が実際にプロセスに適用された方法と違っていれば、ほぼ確実に不良が発生する。開発初期に発見できてすぐに対応できればそれは重大問題にはならないが、量産が始まってからなかなか歩留まりが上がらないときに隠れていた問題が見つかった場合は、その製造会社だけでなく製品を使っているお客さんまで影響が及んでしまう。
   部署の境界や担当回路間のインターフェースで起こり得る潜在的ミスマッチ確率をできるだけ下げるには、お互いにオーバーラップする部分を十分に確保しておくことが重要だ。部署の責任者は自分のところの責任範囲を明確にしたいので、他部署との境界は線で引く傾向にある。面一(つらいち)の状態はわずかな隙間を容易に発生し得る。部署の責任者がオーバーラップを取りにくいのは理解できるので、代わりに不良発生をできるだけ抑えたいと考える担当の間でこれを行わないといけない。どの部署にもそのように思っている(と思われる)人たちがいれば、開発の成功確率は高まる。この「のりしろ」の部分が仕事の連続性を確保するためである。どんな職業でも、細切れにされた仕事をうまくつなげるためにお互いに「のりしろ」まで自分の仕事だと考えるようにしたい。
戻る

Grit


What made them achieve their jobs? Well, it’s just because they continued to do their jobs until done. A US writer prof. Duckworth reported how environment could reinforce grid of an individual in her book “Grit”. A shortcut is to join a team whose members have grid. While you work with such persons, you become such a person who takes it for granted. That situation also occurred to me when I joined Toshiba ULSI lab. But, it’s just a coincidence that I luckily joined such a team. In those days, you could realize how workplace was after you joined. But, nowadays, you could have chance to know it during internship. You should take a look not only at what they are doing, but also at how they are doing. If you see the team has grid, it’s very worth selecting that team for your carrier. Thinking of my lab, what can I do to make the lab good one? It’s probably nice that lab members make a habit of having presentation at conferences at least once during senior class so that the lab team members could turn to have grid. The above book also states that one tends to accomplish a new job once you got accustom of achievement. If that statement is true, graduated students should be able to contribute to their society with their achievement.
(Nov. 27, 2017)
return

Give vs. given


   Deal is that what I give is exchanged with what is given as far as both agree. That is possible if one deal is done at the same time and they consider it’s balanced. But, is what I have given well balanced with what I have been given? By the time when I got aware of myself, I became one who understood what was spoken in Japanese. I have been given by others all the languages, foods, drinks, wear, a bed, a house, oxygen, light, a bath room et al. Conversely, all I have given to the others is contribution to semiconductor products and publications on circuit design, which seems to be much less significant than what I have been given. If you are going to make a deal with the society, you would fail because the society shouldn’t agree with it. It is fortune for me that the society does not deal with any individual at all. When I noticed that, I came up with the idea that all I could do is doing my best for what I might be able to contribute to the others and societies.
   One possible definition of myself is (1), i.e., “myself (I) is an integral of the sum of interaction Λij(t) with the teachers, the colleagues, the problems, and what has been read, talked, and learned over time”.

(Aug. 14, 2017)
return

研究室選びをしている学生の方へ


これまでの学校生活を振り返ってみれば、「答えの分かっている問題を解けることができるようになる」訓練をしてきたことに気づきます。それができた程度に応じて、自分や学校に偏差値やGPAという数字が貼り付けられ、他の人や学校との比較をされてきました。最終年次はこれまでとは全く異なった時間を過ごすことになります。
 卒業研究では、誰も答えを知らないような問題を試行錯誤していって、自分で何らかの答えを見つけていくという過程を経験していきます。ここには他との比較としての数字は出てきません。比較対象がないからです。できることは、今の自分を自分の目指す理想像にどれだけ近づけられたか、それを自分で認識することだけです。最初は知らなかった答えを見つけたということとそこまでの行き方を経験したことによって、次にどんな新しい問題が目の前に現れても自分には何とかやっていけるはずだという自信を、卒業論文を提出するときには持つことができているはずです。その後「競争」社会の一員として参加しても、他が決めた基準でなされた評価はそれまでよりずっと気にならなくなっています。むしろ、自分のできることを手を抜かずにやり通したか、が基準になるでしょう。
   ところで、ハードウエア製造メーカーの技術職・研究職は大きく製品技術・製造・設計に分かれています。製品技術は、開発段階にある製品の評価解析をし、その結果を設計や製造にフィードバックを行います。また、製品が量産にある場合は信頼性を保証し製造工程を管理します。製造は信頼性と製造コストを確保する製造工程を構築します。設計はその製造工程で仕様を満たす製品のデザインを行います。
 IC design lab では、集積回路の設計に関わる研究をおこなっています。回路設計の研究は図1に示されています。この「回路」には回路Aと回路Bという形式が知られているけれどこの条件に最適なのは回路Bの方だとか、回路Bを回路B’のように工夫すればもっと低電圧で動作できるとか、回路B’の回路パラメータはこのような理屈でこう決めるべきだとか、そういうことをやっています。「入出力条件が決まればこのように回路を設計すればいいんですよ」という指針を作っていって、その回路を設計しようとする人がこれを見ればいい設計ができてしまうような、そういう設計理論を築いていくのが研究室の目的です。


 自分は将来は必ずしも集積回路の設計の仕事をするとは考えていないけれど、何かハードウエアの設計の仕事をやってみたいとかそういうのに興味があるという学生は歓迎です。アナログ集積回路の大家の一人であるUCLAのProf. Razaviは著書の中で「アナログ設計者は…1) エンジニアとしての才覚と、…2) 数学者としての資質と、…3) 芸術家としての才能を身につけなければならない」」と述べています。図形やパズルが好きなら回路設計の中にそれを感じることができます(私はそれを感じます)。あなたの将来取り組む製品がICではなく別の対象であったとしても、製品設計は図1と同様な図2となります。従って、将来従事する仕事の対象が変わっても、IC design labで一年間(学部で就職する方)~六年間(四年生で研究室に所属してそのまま博士を取る方)取り組んで身につけた研究方法を適用することができるはずです。

〇「数学は式を見るのもイヤだ」という方は不向き。ただし「この一年でそれを克服してやろう」と気合いの入った方歓迎。
〇学部を出て就職することを考えている方には、電子回路設計研究のやり方の基礎を身につけることを目標にします。
〇大学院進学希望の方歓迎。
〇大学院進学を考えている方には、自分が考案した回路・回路設計方法・回路解析を学会で発表することと聴いている方に理解してもらうような発表をすることを目標にします。
    自分には試行錯誤しているほとんどの時間をそれに没頭することができると思ったら、あなたはこの研究室でやっていくことができると考えて間違いありません。自分だけの研究テーマという道なき道を私といっしょに歩んでみましょう。ほんのたまに訪れる、答えが見えたときのつかの間の喜びが報酬です。
 研究室見学はいつでも歓迎です。見学といっても見て楽しいものはありません。今研究室にいるあなたの先輩から取り組んでいる回路の話や研究室での過ごし方の話を聴くことができるという程度なので、聴学というべきかもしれません。私にメールで「いつ見学したい」を送って下さい。toru.tanzawa at-mark shizuoka.ac.jp

〇丹沢研究室を卒業した先輩たちの主な就職先
スズキ
フタバ
ソニーセミコンダクタソリューションズ
ローム
マキタ
JVCケンウッド
プライムアースEVエナジー
アンリツ
竹内製作所
住友電装
日本セラミック
FUJI
浜松ホトニクス

To Virtual Lab Visit (仮想研究室見学会)

戻る

日本のスケーリング則


集積回路はムーアの法則に従って計算のコストを指数関数的に削減してきた。デナードの理想的スケーリング則とは、トランジスタにかかる電界を一定にすることを条件とする。これで素子面積を二年程度で半分にする。例えばトランジスタの縦と横を70%(面積では0.7 x 0.7~50%)にしたときに印加電圧を70%にすれば電界は保存するのでトランジスタの信頼性は保持できる。ゲート酸化膜厚も70%にすることになるので、トランジスタの駆動電流は保持される。一方、ゲート容量は、面積が50%、単位面積当たりの容量が1/0.7~140%なので、0.5 x 1.4~0.7となるため、ゲート当たりの遅延時間は70%となる。このように、電界一定スケーリング則の元では、同じチップサイズに2倍のトランジスタを集積でき、同時に動作周波数を1/0.7~1.4倍にすることができる。結果として、二年でトランジスタのコストを半分にしつつ、計算速度を1.4倍にすることが可能であった。「単位時間当たりに何倍の集積度・計算速度向上」は倍々ゲームであり、これは指数関数的技術発展と呼ばれている。トランジスタをオンさせるために必要な電圧は0Vではなく、有限な値0.3-0.4Vであるため、電源電圧が1Vを切ってからこのスケーリング則は単純な比例関係とすることができなくなることと微細化していくためのプロセスコストが上昇することから、これまでのやり方ではムーアの法則が今後10年程度でストップすると考えられている。無限小までスケーリング則は適用できない。

1880年以降単調増加してきた日本の人口は、2011年に人口減少が始まった(図1:H26年内閣府、http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/0214/shiryou_04.pdf。現在はこのLinkはないようである。最新データでは上限は2060年になっている)。

出生人数と死亡者数の差が負になった時点で人口は減少に転じる。出生率の前提によって減少率の多少の違いはあるが、図1によれば2100年時点の日本の人口は6500万人~3800万人の間と予想されている。どこで飽和するかは図1の予測からは不明であるが、江戸時代後期の3000万人程度で落ち着くのかも知れない。これまで国民総生産GDPは人口増加に伴ってプラス成長してきたが、今後はこれまでのようにGDPを増やしていこうというのは現実的ではない。10年当たり700万人も日本人が減っていくときに一人当たりのGDPをこの人口減少の割合以上に増やしていこうとすれば、「そんなに働けません」と考える人が圧倒的多数になるだろう。現役世代の人たちに負担を押し付けていい道義はない。今の生活でまあ幸せなのでこのままでもやっていけると考える人が多ければ、平均的には一人当たりのGDPをKeepしていこうという目標でいいだろう。人口減少という現象は、私たちや先人たちが日本の社会を設計し実践してきたことの蓄積された結果であるから、他に責任を帰す訳にはいかない。この「一人当たりのGDP一定」はデナードのスケーリング則で見た「電界一定」に相当する条件としてみよう。

次に、一人の年金生活者を何人の現役が支えるかの指標をηとすると、この値も基本的にはKeepしないといけないはずだ。「η一定」もスケーリング則の条件にする。これまで日本の年金のシステムはその時々の現役世代が引退世代を支えてきたので、お互い様の定理からこれも世代間で対立しない条件になるはずだ。図2は現役何人で一人の年金生活者を支えるかを、現役世代と引退世代の線引きをどこにするか三つのケースで見たものである(元のデータは内閣府のhttp://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/zenbun/s1_1_1.html)。

2010年の「二人で一人を支える」を基準にすれば、2030年ごろには70歳までは働いて下さい、2060年には75歳まで働いて下さい、ということになる。これを可能にするための条件は、健康寿命がこのようになるように医療を進化して頂くことである。

負債について忘れてはいけない。これまで国会の決定で国民の負債を貯めてきているので、持続可能なためにはこれも国民一人当たりの額を保持しないといけない。現在国民(0歳児を含めて)一人当たり900万程度でしょうか。人口が四分の一になったときに換算すると、一人当たり3600万円ナリ。自分が死んで負債を残したなどと考えると、心穏やかに死ねない。心穏やかに死ぬためにも相続税のルールは再考が必要だ。国のためとは言え、国の借金を増やしてきた国会議員は亡くなったときに、相続できる資産を高い率で国庫に戻すシステムにしておかないといけない。もちろん国会議員を選んだ選挙民は平均900万を現役世代に支払うようにしないといけないだろう。

現実のデナードのスケーリング則はコストや技術や信頼性の問題で必ずしも電界一定のままでは進行しなかったが、「二年程度で集積度二倍」の業界共通の意識がこの指数関数的技術発展を支えてきたことは事実だ。人口減少の問題はこれとは反対に、「10年で700万人程度の割合で減少」という共通認識があるときに何を保存するかという条件を決定する問題だ。人口単調増加時代の考え方を人口単調減少のものに変化させていく時期は過ぎつつある。

以上まとめると、日本のスケーリング則は、一人当たりのGDPは保存する、健康寿命をηが保存するように延ばす、日本の負債は作った人たちが追う、の三点である(もっと思いついたらそれを追加しよう)。人口3000万人の日本で幸せにやっていけるか?落語を聞いている限り、江戸時代は(飢饉でない年は)衣食住に不足なく、風呂や下水道も充実していたようだし、大岡越前公のような粋な裁判官もいたらしいので、3000万人でも結構幸せにやっていけそうな印象がある。エネルギー源はすべて自然エネルギー、食料自給率は100%になっていて、AIとロボットが活躍している。ケインズが「2030年には一日三時間働けば暮らせる、残りの時間は芸術・文化・形而上学考察など本当に重要なことに時間を費やすことができるようになる」と予言したような世界が、70年遅れで日本にやってくるかもしれない。今よりずっとストレスの少ない芸術家や研究者のような人だけしかいないような日本社会の到来を夢みながら、日本のスケーリング則を考えてみた。

(2018/1/7)
戻る

リセットします

    「リセットします」の言葉を聞いたとき、世の中に現れたときにすぐに買ってもらったファミコンで、野球や麻雀を夜遅くまでやったことを思い出した。ゲームの中の相手が大きくリードしたときには、これ以上やってもこちらの負けは見えているので面白くなくなり、すぐ「リセット」ボタンを押してEvenな初期状態から再スタートしていた。このボタンは恐るべき威力を持ってそれまでの経緯をすべて無効にすることがこちらだけはいつでもできる。立場は反対ではあるが、みんなで積み上げている積木を、何を思ったか小さな子が「わー」と言って積木を壊してしまって、しょうがないなあと言いながらみんなで最初からやり直すのに似ている。
    新しいことを始めようと言って、まずはプランAからやってみたけれどどうも勝手が悪いので、そこまでやったことは無駄になってしまうけれど、とりあえずそれは置いておいてプランBをやってみよう、ということはある。しかし、これまでたくさんの人たちが関わって作り上げてきてしばらくそれでやってきたことがあれば、これを直ちに止めて私が考えたこれを始めることにしたと言って、多数の人たちがそれはいいと言ってやり方を変えることが可能とは思えない。これまでそのような形になってきたには理由がある。ある人には不十分なことでも、全体から見ればいいやり方に思うからそれに従おう、と思えるようなバランスになっていたはずだからだ。
   NANDフラッシュメモリの発明者である舛岡先生は、コストと性能のバランスされたそれまでの製品を出発点にされ、そこから桁違いに性能を落とすことでコストを下げることのできる新しいメモリ構造を追及された。それまでになかったとんがった半導体メモリをアピールされて、新しい情報端末の出現を可能にした。NANDの誕生によってそれまでのメモリのいくつかは駆逐されてしまうという残念な結果となったが、半導体メモリ全体からみると社会にずっと広がっていったという幸運な結果となった。製品を改良していく仕事はもちろん重要である。この場合、性能の向上とコストの削減を同時に果たせる新しい手段を追及することになる。一方、ブレークスルーには最適化指標を変更してそれに最適な手段の誕生が伴う。駆逐されたメモリから見れば結果としてリセットされてしまったことになるが、全体から見れば生まれ変わって成長を続けたと見える。既存の製品開発を続けながらこれとは別に新しい製品を始めた結果である。リセットは結果であって、それから始まった訳ではない。
   社会や制度の問題を解いていくのに、このようなやり方が可能かどうか。既存の制度は残しておいて、別の最適化指標で別の制度を作り上げ、同じ社会で二つの制度を並行して進めることは不可能だ。XX特区のように社会を分けて、その中では新しい制度で試してみる。こちらの方がいいことが明らかになってきたら社会全体にこの制度をじわじわっと適用する。不利益を被る方が多数なら生活の時定数よりゆっくりした変化で。実験のできる社会問題ならこれが可能だ。沖縄や原発の問題など社会を二つに分けて一方で実験してみることができない問題はどうするか。たくさんの人の生活がこれらの問題に絡み合っているから、ここでも1から0への急峻な解決方法~リセット~はあり得ない。理想の社会を夢みて、そちらの方に少しずつ動かしていこうとみんなで努力を積み重ねていくしかない。
    よく言われるように、社会の参加者が自分の属する社会制度の問題は自分の問題であることを認識して、何が正しい答えかを考えて、その答えに向けて自分のできる行動をすることだ。「リセットします」を聞いて、よく言われることの正しさを認識した。
(2017/12/17)
戻る

Grit


「Grit (やり抜く力)、アンジェラ・ダックワース著、ダイヤモンド社」を読んだ。人が何かの仕事を成し遂げたときなぜそれが出来たかを問えば、一義的にはやり抜いたからだという他ない。成し遂げるまで止めなかったからである。それでは、やり抜く力をどのように育むことができるであろうか。著者は環境がどのようにして個人のやり抜く力を鍛えるかについて報告している。やり抜くことが当たり前になっているチームに入ることが一つの方法という。それが習慣になっている人たちに囲まれて仕事をしていると、入った人もやり抜くことを当然のこととしてやるようになる。
   自分が就職したときのことに思い当たる。職場の研究所にいる先輩方は当然のように国際学会で発表をしている。投稿の締め切りはいついつだから、それまでにデータを集めなければならない、などと言って仕事をされている。投稿論文に権利化できる新しいアイデアが含まれている場合は、投稿までに特許出願をしておかなければ投稿は許可されない。企業の研究所では、特許を取って製品の高性能化・高信頼性化・低コスト化に貢献し、それを学会で発表して技術の宣伝を行うことが研究者の仕事となっている。この環境に入った新人は、毎日やるべきことをやっているうちにこれが習慣となってしまう。
   当時は、実際にそこに入って仕事をして初めて、そこがどんな環境か知ることができた。就職する前にどんな環境かを知ることはできない。自分が門をくぐった職場にたくさんのやり抜く人たちがいたことは、単に運が良かったというしかない。最近は在学中に企業で仕事をさせてもらえるインターンシップという制度がある。具体的な仕事を実際にやってみて、楽しさを感じられそうかを体験することが主な目的だと思うが、自分では当たり前には見えないけれど職場の人たちは当たり前にやっているような「何か」を注意深く見ておくことも大事だということになる。
   自分の研究室をいい習慣の場にするにはどうしたらよいだろうか?例えば、卒研生は一度は学外で発表することになっているとか、院生は国際学会で発表をして自分の研究をアピールする習慣がある、となっていればいいように思う。やり抜くことを身につけた人は新しいことにもやり抜ける傾向にある(前掲書)。学生時代にやり抜くことを身につけて社会で自分の足跡を残せるよう、研究室の在り方を工夫していきたい。

戻る