概 要
ベアリングレスモータの回転子を磁気浮上させるには,回転方向θz(Z軸周りの運動)以外の並進運動(X,Y,Z)と回転運動(θx,θy)の5自由度を磁気的に安定させなければなりません.しかし,5自由度運動を全て能動的に制御しようとすると,多くの変位センサ,電磁石・巻線,インバータが必要となります.特にインバータに関しては,5自由度能動制御形の場合,回転用に1台の三相インバータ,磁気浮上用に2台の三相インバータと1台の単相インバータ,合計4台必要です.このため,モータを含めたシステム全体の大形化,消費電力の増加,高コスト化等が問題となります.
当研究室では,ベアリングレスモータシステムのさらなる小形化・低消費電力化・低コスト化を目指し,回転子のZ軸方向の1自由度運動のみ能動的に制御することで磁気浮上が可能な,新しいベアリングレスモータの構造と制御方法を提案しています.残りの4自由度運動は永久磁石の磁気カップリングにより,受動的に拘束されます.さらに,提案する1自由度制御形ベアリングレスモータでは,1種類の巻線のみ使用し,かつ三相インバータ1台のみで磁気浮上と回転を同時に実現します(”シングルドライブベアリングレスモータ”と定義しました).当研究室では,世界で初めて,三相インバータ1台のみでベアリングレスモータの磁気浮上回転を実現しました.
円板回転子を有するシングルドライブベアリングレスモータ
下図に,円板回転子を有するシングルドライブベアリングレスモータの構造を示しています.提案構造は,中央に永久磁石対から構成される反発形受動磁気軸受,その外周に,軸方向着磁の永久磁石とコアレスコイルから構成されるアキシャルギャップモータを配置しています.この受動磁気軸受は,固定子側の永久磁石リングと,回転子側の永久磁石ロッドから構成され,両磁石共に着磁方向は同じ方向です.この受動磁気軸受により,回転子の4自由度(X,Y,θX,θY)は受動的に支持されます.具体的には,図に示すように,回転子が中心位置から半径方向に変位すると,受動磁気軸受部で斥力が働き,中心位置に戻そうとする力が作用します.また,回転子が傾いても同様に斥力が働き,元の位置に戻ろうとするトルクが作用します.しかし,回転子が軸方向に変位すると,受動磁気軸受部での斥力により,変位を拡大する方向に力が作用します.これに対して,モータ部で吸引力と反発力を発生させることで,回転子の軸方向の位置を能動的に制御します.
テスト機製作と磁気浮上回転実験
回転子は,6極アキシャルギャップ表面磁石貼付形モータ構造です.磁石背面には鉄のヨークが取り付けられています.渦電流式変位センサで半径方向と傾き方向の振動を測定するために,アルミカバーを全体に取り付けました.中心には受動磁気軸受用の棒磁石を取り付けました.右側の固定子は,コアレスコイルアレイで,アサヒ電気研究所に製作を依頼しました.ホール素子が内蔵され,回転子角度を検出します.2012年度,当時修士2年の山崎星君が設計・試作および磁気浮上させ,2013年度,当時修士2年の渡邉大祐君が改良,安定化,高速化を実現しました.この動画では,回転子が磁気浮上後,急加速している様子がわかります.2014年度に辻井健太君が支持力とトルクの理論式を導出し,高橋一将君が支持力とトルクの脈動低減を検討しました.