論理立てた文章を記述する能力はすべての人にとって重要なスキルと考えられており,実際に様々なところで必要になります.業務の中で文書をまとめることもありますし,地域の活動で文書を作成することもあります.最近では,テキストベースでAIに対して指示を与え,AIにこちらが意図した通りに仕事をしてもらうことにも注目されています.このような背景から,基礎教育から高等教育,更には生涯教育まで,あらゆる機会に文章記述能力の向上を意図した教育の場があります.
学校教育では,教師が学生にレポートを書く課題を設定する場合が多くあります.これは,その単元の学習成果を確認するという意図の他に,文章を書く能力を高めるという教育的な意図が含まれています.そのため,その単元の学習成果の確認に加えて,書かれた文章について,前提と主張に矛盾はないかなどの論証の構造が適切かどうか,論証の流れに問題はないか,などについても評価しフィードバックを行うことがあります.しかしながら,このフィードバックはその文章から教師が読み取った内容に基づくものであり,学習者側は書けているつもりであったり,文章とフィードバックの内容を対応づけることができない場合があります.これは,同じ文章から,教師が読み取る論証の構造と,学習者側が書けているつもりの論証の構造との間のギャップに原因があり,その結果として,教師が準備したフィードバックが学習者側で有効に活用されないということになります.一方で,レポートの評価は教師に対して学習者数の比率が高いことから,すべてのレポートに対して,その論証構造を示した上でフィードバックを提供することは現実的ではありません.時間をかけて対応することは不可能ではありませんが,学習効果の観点からは文章を書いた時点からフィードバックが得られるまでの時間が重要になります.
本研究では,学習者の書いた文章の論証構造を自動的に可視化する仕組みを提案します.実際には学習者の書いた文章には曖昧性を含む場合が多いため,そこに書かれた論証構造の候補を挙げ,教師が自分が読み取った意図に近い論証構造を選択し,それをベースにフィードバックを作成します.学習者側は,自分が書いた文章・そこから読み取られた論証構造・その論証構造に対する教師のフィードバックを得ることで,教師の指摘内容を把握することができます.その結果,自分の文章に適用することで文章の改善を行うと共に,論理立てた文章の書き方を修得することができます.
References
- Toyama, S., Kogure, S., Noguchi, Y., Yamashita, K., and Konishi, T. (2024.07). Improvement of Argumentation Structure Visualization for Feedback on Students’ Reports, Proceedings of the 16th International Conference on Learning Technologies and Learning Environments (LTLE) (Takamatsu, Japan), 178-185. [査読有]
- 柳瀬 翔, 野口 靖浩, 小暮 悟, 山下 浩一, 小西 達裕 (2021.06). レポートの書き方指導のための 学生レポート論理構造可視化システムの構築, 人工知能学会第35回全国大会, 2Xin5-11, 1-4.