PZT圧電セラミックスの本質的な圧電性を解明-半世紀以上の未解決課題に新たな光-
PZT圧電セラミックスは、その優れた圧電特性から、胎児や心臓病の超音波検査、建築物の内部劣化診断、超音波洗浄、自動車のセンサー技術など、さまざまな分野で利用されている。さらに、MEMSデバイスや単原子レベルでの超精密位置操作を行う次世代技術にも応用されている。
しかし、1952年に初めて報告されて以来、MPB(モルフォトロピック相境界)近傍におけるPZTセラミックスの巨大な圧電応答の正確な起源は未だに解明されていなかった。我々は、SUS基板の熱膨張による圧縮応力とLaNiO₃の安定成長面(100)を活用し、正方晶の分極軸であるc軸方向に配向したMPB組成PZT薄膜の作製に成功した。このc軸配向膜では、ドメイン反転による外因的な圧電効果が存在しないため、結晶の本質的な圧電効果を解明できた。実験の結果、MPB組成のPZT単結晶の圧電定数d33は46.3 ± 4.4 pm/Vであることが判明し、第一原理計算によって予測された室温での圧電定数50~55 pm/Vという数値とも一致した。さらに本研究は、MPB近傍でのドメイン効果が巨大な圧電応答において中心的な役割を果たすことを示唆している。また、薄膜応用におけるドメイン効果の重要性が認識され、MEMSデバイスなどに用いられるPZT薄膜材料の設計に新たな指針が示された。
本研究は、1952年以来の謎であったPZTの巨大な圧電性の起源に対する答えを提示するものであり、圧電材料分野における画期的な成果である。この発見により、圧電材料の設計や新たな応用可能性が大きく広がることが期待される。今後は、この研究で得られた知見を基に、さらなる高性能圧電材料の開発が進むとともに、ドメイン効果を有効に発現できる材料設計によって、MEMSデバイスやセンサー技術など、次世代のエレクトロニクス分野における応用が一層加速すると期待されている。この発見は、強誘電材料の研究において新たなベンチマークを打ち立て、MEMSデバイスなどの分野で圧電薄膜の革新的な応用に繋がる研究への発展が期待されている。
この成果は、米国化学学会の専門誌「ACS Applied Electronic Materials」に受理され、8月28日にオンライン版で公開されている。
論文題目:「Intrinsic piezoelectricity of PZT」
著 者:Desheng Fu, Seiji Sogen, Hisao Suzuki
掲 載 誌:ACS Applied Electronic Materials
DOI: https://doi.org/10.1021/acsaelm.4c00862