推薦図書

高校生~大学1年生向け

大津透『律令制と隋唐文明』(岩波新書、2020年)

世界のなかで「日本」という国家がどのようにして生まれたかを考える上で、古代史への眼差しは欠かせません。6世紀末から9世紀にかけて、東アジアの国際関係の緊張のなかで、日本列島の王権は大陸の文明を選択的に受容しながら、独自の律令国家体制を構築していきました。そうした黎明期の「日本」像を本書は描きます。(日本史分野:貴田潔)

 

藤木久志『戦国の村を行く』(朝日新書、2021年)

戦国時代は、村に生きる人々にとってはサバイバルの時代でした。戦乱や飢饉などのなかで生きた村人たちの生命維持の作法を史料からリアルに描き出します。現代社会の平和はどのようにしてもたらされたのか、それを長い歴史の積み重ねから考える上で読むべき名著といえるでしょう。(日本史分野:貴田潔)

 

白水智『古文書はいかに歴史を描くのか―フィールドワークがつなぐ過去と未来―』(NHK BOOKS、2015年)

現代社会のなかで、文化財としての古文書はなぜ守られるべきなのでしょうか? たくさんの現場で調査経験を積み重ねてきた筆者は、そうした活動の意義を説くとともに、地域社会に根ざした歴史学の魅力、研究の面白さを本書のなかで語ります。(日本史分野:貴田潔)

 

吉田伸之『21世紀の「江戸」』〈日本史リブレット53〉(山川出版社、2004年)

18世紀半ばに人口が100万を超え、世界最大の都市といわれた江戸。そこにはどのような空間が広がり、どのような人々の暮らしが営まれていたのでしょうか? 筆者の分析視角は、名もなき普通の人々の歴史をたどること、そのためには個別の町・集団・人に即して社会構造・空間構造として可能な限り具体的に把握することが肝要であり、それは現代社会の諸問題を根源的に捉え返すことにつながるというものです。これらは近年の近世史研究において、都市に限らず、地域を分析するうえでも必須の視点であり、そのエッセンスが学べる一冊です。(日本史分野:松本和明)

 

塚田孝『近世身分社会の捉え方―山川出版社高校日本史教科書を通して―』(部落問題研究所、2010年)

「士農工商」という用語は過去のものとなりつつありますが、そもそも江戸時代の身分とは誰によりどのように決定されたのでしょうか? 過去と近年の日本史教科書の比較もふまえて平易に解説しています。また、それをふまえて、大坂とその周辺の被差別民の集団に即して、その前の時代(中世)とも後の時代(近代)とも異なり、御用(義務)をつとめて勧進権(権利)を認められ、独自の規律を定める、江戸時代に固有の身分集団として位置づけうることを紹介しています。江戸時代がよかったということではないのですが、高度成長期以降の日本社会への危惧もこめられています。(日本史分野:松本和明)

 

松沢裕作『生きづらい明治社会』(岩波ジュニア新書、2018年)

一般的に明るい時代というイメージがある明治時代の社会の実態について、「通俗道徳」を手がかりに紐解いていきます。「通俗道徳」とは、人々が深い根拠もなく「良い行い」と考える行為のことで、失敗・貧困も良い行いをしていないからだとして自己の努力不足に帰せられます。こうして、競争に敗れ、貧困に陥る人々について、政府が手を差し伸べることも救いあげることもせず(それにより政府が非難されることなく)、ただ人々の冷たい視線が向けられていく社会ができあがります。なんだか現在の「自己責任」社会に似ていませんか? 日々の活計に追われ、諸々のことを深く考えることもなくあたりまえのこととしてなんとなく受容し、生活している現在の社会について、一歩引いた視点から見直すきっかけになると思います。(日本史分野:松本和明)

 

小田中直樹『歴史学ってなんだ?』(PHP新書、2004年)

歴史学とはどのような学問でしょうか? 歴史学の研究と歴史小説とは何が違うのでしょうか? 歴史はなぜ学ぶ必要があるのでしょうか? 歴史を学ぶことは社会にとってどのような役に立つのでしょうか? これらの疑問をわかりやすい文章で説き明かしてくれる、大学で歴史学を学ぼうと考えている人にお薦めの歴史学入門書です。(世界史分野:藤井真生)

 

阿部謹也『刑吏の社会史』(中公新書、1978年)

中世から近代にかけてのヨーロッパ社会では、不名誉なものとされた職業がいくつかありました。刑吏もそのひとつです。死、罪、穢れと共同体の関係が変化していくなかで、かつて聖性を認められていた処刑という行為が、忌むべき行為として貶められていきます。少し難しいですが、民俗学の成果も援用しながら都市社会の陰を描き出した、社会史研究の金字塔です。(世界史分野:藤井真生)

 

松井良明『近代スポーツの誕生』(講談社現代新書、2000年)

日頃、スポーツに打ち込んだり、観戦して楽しんだりする人は多いと思います。我われが慣れ親しんだスポーツのなかには、中世に起源をもつものも少なくありません。「野蛮な」民衆の娯楽であったものが、近代以降どのようにして組織化、競技化、商業化していったのか。いかにしてスポーツとなったのかを解き明かしてくれます。(世界史分野:藤井真生)

 

柿沼陽平『古代中国の24時間―秦漢時代の衣食住から性愛まで―』(中公新書、2021年)

かつては『史記』や『漢書』などからしか見ることができなかった古代中国のありようですが、近年では竹簡や木簡などといった出土資料の発掘・解析が進み、かなり細かいところまで分かるようになってきました。本書はそうした成果に基づいて古代中国の一日を具体的に、かつ面白く描いています。(世界史分野:戸部健)

 

上田信『死体は誰のものか―比較文化史の視点から―』(ちくま新書、2019年)

ちょっとギョッとする題名の本ですが、死体をどのように認識するのかは時代・地域によって大きく異なり、それぞれの社会・文化のあり方にも大きく影響しました。本書ではそれを中国本土、チベット、キリスト教世界、日本での情況を比較史的に検討することで明らかにしています。高齢化社会の先に見えてくる「多死社会」、および国際化が進む日本社会のこれからを考える上で必読の一冊です。(世界史分野:戸部健)

 

平賀緑『食べものから学ぶ世界史―人も自然も壊さない経済とは?―』(岩波ジュニア新書、2021年)

今夜食べる料理の材料はどこから来たのだろう? 飽食の時代と言われているのに、飢えている人が多いってどういうこと? その背後には食物をめぐるこれまでの世界史の流れがありました。本書はそこからさらに資本主義の暗部にも目を向けています。歴史学者による本ではありませんが、これからの私たちの暮らしや政治を考える上でぜひ読んでいただきたい一冊です。(世界史分野:戸部健)

 

西田正規『人類史の中の定住革命』(講談社学術文庫、2007年)

現代社会に生きている私たちは、家に住んで一か所に留まって生活することを当たり前のことだと思っています。しかし、人類の長い歴史の中では、一か所に住み続ける定住生活は、新しい生活スタイルで、頻繁に移動して一か所に留まり続けない遊動生活こそが本来の生活スタイルでした。筆者は定住の開始こそが人類史の中での一大画期であるとしてその意義について論じています。それとともに、遊動生活の様々な利点を説明するとともに、人類が定住生活を始めたことで生じた様々な問題についても説明しています。常識からは想像できないことですが、言われてみればそうだなと思うことが多々あり、常識がひっくり返されるような面白い本です。(考古学分野:山岡拓也)

 

海部陽介『人間らしさとは何か―生きる意味をさぐる人類学講義―』(河出新書、2022年)

この本の中では人類進化の過程をたどりながら、人間らしさがどのように獲得されてきたのか、生物人類学、霊長類学、文化人類学、先史考古学の研究成果を統合してわかりやすく説明されています。大昔のことではありますが、その中には現在につながることが多くあり、人間の未来を考える上で参考になることが含まれていることに気づくことができます。(考古学分野:山岡拓也)

 

小野昭『ビジュアル版 考古学ガイドブック』〈シリーズ「遺跡を学ぶ」別冊05〉(新泉社、2020年)

考古学がどのような学問であるのかわかりやすく説明されている入門書です。文章は簡潔にまとめられており、カラーの写真や図がたくさん掲載されていてるのでとても読みやすいと思います。考古学研究の様々な今日的課題についても紹介されており、モノから人間の歴史を研究するということはどのようなことなのか、そしてどのような意義があるのかについて、自分なりに考えるきっかけが得られるので、読みごたえのある本であるとも思います。(考古学分野:山岡拓也)

 

石川日出志『農耕社会の成立』(岩波新書、2010年)

西日本の稲作農耕や青銅器文化の直接の伝来を中心に語られることの多い弥生文化を、東日本にも重点をおいて汎列島的な視点でその形成と展開を描く。教科書には書ききれない、地域性と多様性が交錯する弥生文化の成立と変容の実像を知ることができる一冊。(考古学分野・篠原和大)

 

和田晴吾『古墳と埴輪』(岩波新書、2024年)

古墳がもつ政治的・宗教的な装備の一つひとつを考古学の技術的な視点から分析してきた著者が、その本質を新書にまとめ上げた待望の一冊。古墳時代の複雑かつ高度な技術の粋を集めて表現された「古墳」。そこから考古学的方法を駆使して他界観や宗教、その社会的意味にせまる。技術の考古学の真髄を垣間見ることができます。(考古学分野・篠原和大)

 

■ 岡村渉 『弥生集落像の原点を見直す・登呂遺跡』〈シリーズ「遺跡を学ぶ」 99 〉(新泉社、2014年)

静岡が誇る著名な登呂遺跡。遺跡の学際的・総合的な調査の原点でもあり、国の特別史跡として最初期の整備と数奇な運命の中での再調査・再整備を経験した遺跡でもある。今なお、弥生集落の全貌を示す遺跡としてその価値を再確認される登呂遺跡。ぜひ本書を片手に登呂遺跡の現地を体感してほしい。(考古学分野・篠原和大)