Electrodeless hydrogen production from seawater using femtosecond laser pulses
RSC Adv., 2022,12, 9304-9309
First published: 24 Mar 2022
脱炭素社会の切り札として期待される「水素」。しかし、その製造プロセスには、私たちが直視しなければならない「不都合な真実」が隠されています。現在、世界の水素供給の95%以上は化石燃料を用いた「水蒸気メタン改質(SMR法)」に依存しており、製造過程で大量の二酸化炭素(CO2)を排出しているのが実情です。
では、水を電気分解して水素を作る「グリーン水素」はどうでしょうか。実は、地球上に無尽蔵に存在する「海水」をそのまま利用しようとすると、電極の腐食や、猛毒の塩素ガス(Cl2)が発生するという高い「海水の壁」が立ちはだかります。
この難題を、物理学の力で鮮やかに突破しようとしているのが、名古屋大学や静岡大学の研究チームです。彼らが武器に選んだのは、1000兆分の1秒という、ナノ秒すら永遠に感じられるほど極短時間にエネルギーを凝縮した「フェムト秒レーザー」。この光のメスを用いて、海水を直接エネルギーへと変える革新的な手法「多光子電離水素製造(MPI-WS)」の全貌に迫ります。
【驚きその1】純水よりも「海水」の方が水素がよく出るという逆転現象
科学の常識では、不純物(塩分)が多い海水は、反応を阻害する厄介者とされてきました。しかし、MPI-WS法を用いた実験では、この常識を覆すエキサイティングなデータが得られました。
研究チームの報告によると、同じ装置条件下において、海水の水素生成率は超純水と比較して約1.3倍に向上。さらに、先行研究のデータ(Pawlak氏らによる矩形セルでの純水実験)と比較した場合には、最大で約3.3倍(生成速度 70 mmol h⁻¹)という驚異的な効率を記録したのです。
なぜ海水の方が効率的なのでしょうか。その鍵は、液体そのものがレンズのように振る舞う「非線形光学効果(カー効果)」にあります。海水は純水よりも非線形屈折率(n_2)が高いため、レーザー光が液中で自ら絞り込まれる「自己収束」が強まります。これにより光の密度が極限まで高まり、水素生成のトリガーとなる「多光子電離」が促進されるのです。
ただし、何でも多ければ良いわけではありません。塩分濃度が7%を超える過度な状態になると、今度は金属イオンが反応を妨げる「イオン抑制」が始まります。つまり、私たちの海こそが、この反応に最適な「ゴールドリックス(ちょうど良い)」な燃料だったのです。
この発見について、論文では以下のように結論づけられています。
“この知見は、海水中の塩分成分によって水素生成が減少することはないということを示している。”
【驚きその2】有毒な塩素ガスを「4桁」もカットできる安全性
従来の海水電解における最大の懸念は、陽極で発生する有害な塩素ガス(Cl2)でした。最新の電解研究でも、生成ガスの約13%を塩素が占めると報告されており、装置の腐食防止やガス処理に多大なコストがかかっていました。
しかし、レーザーによるMPI-WS法は、この問題を根本から解決します。この手法は電極を介さない「電極レス(非接触)」なプロセスです。光が水分子(H2O)に直接作用して分解するため、従来の電気化学反応で塩素ガスを生成していた反応経路をバイパスできるのです。
分析の結果、塩素ガスの発生は従来比で約1万分の1(4桁の抑制)という、検出限界に近いレベルまで抑え込まれていることが判明しました。有害なCl2の代わりに、ごく微量の塩化水素(HCl)が検出される程度(体積分率で約 7 \times 10^{-4}%)に留まっており、水素と共にクリーンな酸素(O2)が生成される、極めて安全なプロセスであることが証明されました。
【驚きその3】「容器の形」を変えるだけで効率が跳ね上がる不思議
研究の過程で見つかったもう一つのユニークな発見は、実験に使う「容器の形」という物理的な制約が、光学的な武器に変わるという点です。
チームが「四角い容器(矩形セル)」と「丸い容器(円筒セル)」で比較実験を行ったところ、丸い容器の方が水素の生産量が劇的に向上しました。これは、容器の壁面の「曲率」が第2のレンズとして機能し、レーザーの焦点(開口数:NA)をさらに最適化したためです。
高度な化学触媒に頼るのではなく、容器の幾何学的な形状という「ローテク」な工夫によってエネルギー効率を最大化できるという事実は、将来の装置設計において極めて実用的なメリットとなります。
【驚きその4】「ろ過」も「脱塩」もいらない、究極のシンプル構成
この技術の真に画期的な点は、既存の水素プラントの概念を覆すほどのシンプルさにあります。
- 高価な部材が不要: 従来の電解法で必須だった高価なイオン交換膜や希少金属の触媒、そして海水を淡水化するための巨大な脱塩設備が一切必要ありません。
- メンテナンス性の解放: 電極が存在しないため、塩分による電極の腐食や劣化という宿命的な悩みから解放されます。
現在、このシステムによる水素生産能力は 0.3 g kW h⁻¹ と推定されています。これは先行するコロナ放電法(2 g kW h⁻¹)などのトップクラスのプラズマ法には一歩譲るものの、開発初期段階としては十分に匹敵するオーダーです。何より、膜や触媒の交換コストがかからないという経済的優位性は、実用化に向けた強力な追い風となります。装置自体も非常にコンパクトなため、「水タンクさえあればその場で水素を作る」オンサイト生産の可能性を切り拓いています。
結論:私たちの海が「ガソリンスタンド」になる日
名古屋大学と静岡大学によるこの研究は、海水から水素を取り出すための「光学的なブレイクスルー」を示しました。
- 海水の方が純水よりも水素を効率よく生成できる
- 電極レスの手法により、有害な塩素ガスを事実上ゼロにできる
- 複雑な脱塩設備や触媒を必要としない、究極にシンプルな構成
この技術が最適化され、社会に実装される日が来れば、エネルギーの輸送や貯蔵のあり方は根底から覆るでしょう。四方を海に囲まれた日本にとって、これはまさに「海の水をエネルギーに変える」という、かつての錬金術のような夢を現実にする一歩なのです。
もし、目の前の海がそのままクリーンなエネルギー源になるとしたら、私たちのエネルギー問題は過去のものになるのでしょうか?
本稿は、掲載論文に基づき生成AIを用いて要約・表現を作成しています。内容の正確性には配慮していますが、解釈や表現の過程で不正確な記載が含まれる可能性があります。特に構造式については不正確です。正式な情報は原論文をご確認ください。
