Research

研究概要

「化学者は多くの命を救える」という志を実現するために、「from mg to ton」を可能にする化学技術を追究しています。しかし、世界中の人々の手元に開発した物質を届けるには、「必要な時に、必要な量を供給できるシステム」の構築が必要になります。さらに、グリーンケミストリーに基づいたものづくり、すなわち「物質を設計し、合成し、応用するときに有害物を使わない・出さない化学」が不可欠であることは言うまでもありません。しかし、その概念を具現化するには、物質の製造法に焦点を当てたプロセス化学の実践が肝要であります。例えば、物質合成において「A (1 mol) + B (1 mol) → C (1 mol)」のような反応は限られており、実際の合成では過剰な試薬・副生成物・共生成物など多種多様な副産物が生成します。特に生理活性物質や機能性物質の合成において汎用される直線型合成では、大量の副産物を生じ、その廃棄は常に問題となります。近年では、グリーンケミストリーだけでなく、持続可能な開発目標であるSDGsに基づいた「つくる責任」も同時に果たさなければなりません。そのため優れた工業的合成法を確立することをゴールとするプロセス化学が必要であり、基礎研究の段階から取り入れることが21世紀型のものづくりにつながります。特に、既存の技術を踏まえた新規・新奇な技術・方法論を確立していくことが望まれます。
以上の背景より、独自に研究・開発しているファインバブル、マイクロ波、フロー反応、機械学習を駆使して、E-Factor(廃棄物指標)・エネルギー・コストを最小化して、安全性・再現性・生産性・選択性を最大化にする「グリーンものづくり」について研究しています。

メッセージ

グリーンケミストリーを表現するスローガンから「なるべく」を削除した「物質を設計し、合成し応用するときに有害物を使わない、出さない化学」を実践していかなければなりません。しかし、その難易度は格段に上がります。この難題に挑戦・解決するために、①当量反応、100%収率による完全合成(マイクロ波化学)、②気相が関与するグリーン多相系反応(ファインバブル化学)、③自動フロー合成装置開発(フロー化学)に取り組んでいます。これには、基礎学力・好奇心・探求心・俯瞰力に秀でた学生さんとの協働が不可欠であり、「レシピを作れるプロセスケミスト」人財育成に取り組んでいます。医薬品・農薬などのファインケミカルズ、機能性繊維・塗料などのスペシャリティーケミカルズを対象として、産学官連携を推進することにより、生活・文化の発展に国際的に貢献していきます。まずは共感できるところから一緒に飛び抜けませんか?

研究テーマ

1.ファインバブル(FB)を用いた新規有機合成手法の開発
~ 発想の転換による常圧気相-液相反応 ~
Organic Synthesis Using Fine Bubble (FB) ~ Atmospheric Gas-Liquid Phase Reaction

2.連続フロー合成によるファインケミカルズ合成(実験計画法と機械学習)
~ 研究室におけるデスクトッププラントの構築 ~
Continuous Flow Synthesis of Fine Chemicals ~ Desktop Plant in the Laboratory

3.超臨界二酸化炭素と有機分子触媒を利用したポリ乳酸の高純度合成技術
~ 安全性と反応性を両立する合成手法の開発 ~
Organocatalytic synthesis of polylactic acid in supercritical carbon dioxide

4.バイオインスパイアード有機分子触媒による環境調和型物質合成
~ 水中でも不斉有機合成反応を実現する触媒 ~
Green Synthesis Using Bio-inspired Organocatalysts ~ Asymmetric Catalytic Organic Synthesis in Water

5.OFF-ON型蛍光センサーによる新規触媒探索法の開発
~ 反応すると光るセンサーによるスクリーニング ~
Screening method for superior catalyst using an OFF-ON type fluorescent sensor

6.内緒
Secret

キーワード

有機合成・不斉合成・グリーンケミストリー・ファインバブル・フロー合成、マイクロ波、機械学習、酵素・香料・酵素阻害剤・有機分子触媒・環境調和型触媒・超臨界流体

 

1.ファインバブル(FB)を用いた新規有機合成手法の開発
~ 発想の転換による常圧気相-液相反応 ~
Organic Synthesis Using Fine Bubble (FB) ~ Atmospheric Gas-Liquid Phase Reaction

有機合成反応において気相-液相反応の効率性を向上させることは、合成化学だけでなく環境関連化学の面からも重要であります。従来の気相-液相反応では、気体の溶存濃度および反応性を高く維持するため、高温・高圧下、耐圧容器を用いて激しく撹拌しながら反応させる方法が一般的でありました。しかし、効率性だけでなく安全性も求められる現代において、安全性の低い従来法の改善が強く求められています。我々は通常の気泡とは異なる性質を持つマイクロバブル・ナノバブルに着目し、常温・常圧下、耐圧容器を必要としない気相-液相反応プロセスの開発に成功しました。

 

2.連続フロー合成によるファインケミカルズ合成(実験計画法と機械学習)
~ 研究室におけるデスクトッププラントの構築 ~
Continuous Flow Synthesis of Fine Chemicals ~ Desktop Plant in the Laboratory

 

3.超臨界二酸化炭素と有機分子触媒を利用したポリ乳酸の高純度合成技術
~ 安全性と反応性を両立する合成手法の開発 ~
Organocatalytic synthesis of polylactic acid in supercritical carbon dioxide

とうもろこし等の原料から作られるポリ乳酸はカーボンニュートラルな材料であり、近年の環境問題に対する意識の高まりにより、筐体やフィルムとして実生活において利用されています。これまでの合成法は、スズ等の金属触媒下、200℃付近でのラクチドの開環重合が一般的でありました。一方、我々は有機分子触媒と超臨界二酸化炭素
(scCO2)を用いることによって、低温・短時間での重合反応を可能にしました。さらに、scCO2抽出による触媒の除去、界面活性剤による直接粒子化も達成しました。これらの成果は、金属・有機溶媒・残モノマー・触媒フリーの高純度ポリ乳酸合成プロセスへの工業的応用が期待されます。

 

4.バイオインスパイアード有機分子触媒による環境調和型物質合成
~ 水中でも不斉有機合成反応を実現する触媒 ~
Green Synthesis Using Bio-inspired Organocatalysts ~ Asymmetric Catalytic Organic Synthesis in Water

生体内の反応では酵素が化学結合形成・開裂反応に深く関与しており、その特異的な反応特性により生命活動を維持しています。我々は理想的な触媒である酵素を追究することにより優れた触媒システムが構築できると考え、特に金属原子を含有しない酵素のモデル化について研究してきました。その結果、反応活性中心部位と疎水性部位を同一分子内に有する新たな有機分子触媒をデザイン・合成し、水存在下でも反応性が低下することなく、直接的アルドール反応が進行することを明らかにしました。さらに、原料の混合比1:1で反応を円滑に進行させることに成功しました。これらの現象は疎水性相互作用、水素結合、塩析効果を利用したものであり、天然アルドラーゼ酵素の特性を人工的に構築した結果であります。

 

5.OFF-ON型蛍光センサーによる新規触媒探索法の開発
~ 反応すると光るセンサーによるスクリーニング ~
Screening method for superior catalyst using an OFF-ON type fluorescent sensor

モノづくりにおいて最適触媒・反応条件の探索は極めて重要であります。しかし、人海戦術的スクリーニングに依存する従来型探索法では、時間、労力、エネルギー、コストの点で限界があります。我々は炭素-炭素結合形成後に蛍光強度が増加するOFF-ON型蛍光分子を新たにデザインし、迅速な触媒・反応条件探索を可能にする化学結合検出用蛍光センサーを開発しました。その結果、分注装置とプレートリーダーを用いて、一度に96サンプルをマイクロスケール、短時間 (32分間)で評価でき、一日で1000以上の多検体サンプルの反応挙動のリアルタイムモニタリングを可能としました。さらに、この手法を用いて特定された触媒系をテンプレートとし、ファインチューニングすることにより、高活性な触媒を見いだしました。