研究概要

豊かな生活を持続する上でグリーンケミストリーの概念、すなわち「物質を設計し、合成し、応用するときに有害物を使わない・出さない化学」が不可欠であることは言うまでもありません。しかし、その概念を具現化するには、物質の製造法に焦点を当てたプロセス化学の実践が肝要であります。例えば、物質合成において「A
(1 mol) + B (1 mol) → C (1 mol)」のような反応は限られており、実際の合成では過剰な試薬・副生成物・共生成物など多種多様な副産物が生成します。特に生理活性物質や機能性物質の合成において汎用される直線型合成では、大量の副産物を生じ、その廃棄は常に問題となります。そのため優れた工業的合成法を設定することをゴールとするプロセス化学が必要であり、基礎研究の段階から取り入れることが21世紀型のモノづくりにつながります。以上の背景より、私はグリーンケミストリーとプロセス化学に基づいた有機化学における反応・合成手法の開発と応用について研究しており、触媒化学の力によって解決困難な課題を克服することを目指しております。

研究テーマ

スペシャリティーケミカルズの合成を、キラルテクノロジー(光学活性物質工学)により確立

  1. バイオインスパイアード有機分子触媒による環境調和型物質合成Green synthesis by use of bio-inspired organocatalysts
  2. OFF-ON型蛍光センサーによる新規触媒探索法の開発Development of screening method for superior catalyst utilizing OFF-ON fluorescent sensor
  3. 超臨界二酸化炭素と有機分子触媒を利用したポリ乳酸の高純度合成技術Organocatalytic synthesis of highly pure polylactic acid in supercritical carbon dioxide
  4. マイクロバブル・ナノバブルを用いた新規有機合成手法の開発Development of novel organic synthetic method with micro and nanobubbles

キーワード

有機合成・不斉合成・グリーンケミストリー・酵素・香料・酵素阻害剤・有機分子触媒・環境調和型触媒・超臨界流体

今後の抱負

日本では化成品・石油製品・製薬・農薬・香料などの化学産業が古くから発展しています。しかしながら、日本の化学産業が生き残りをかけていくために、クリーンで安全な環境調和型合成プロセスへシフトしていくことが強く望まれています。そのためには、既存の技術を踏まえた新規な技術・方法論が必要となります。これまで私はグリーンケミストリー、プロセス化学、触媒化学の力を結集することにより、有機化学における反応・合成手法の開発と応用を研究してきました。本研究成果が化学産業の持続的発展に貢献できることを信じ、今後も研究を続けていきたいと思っております。

グリーンケミストリーとプロセス化学に基づいた有機化学における反応・合成手法の開発と応用

豊かな生活を持続する上でグリーンケミストリーの概念、すなわち「物質を設計し、合成し、応用するときに有害物を使わない・出さない化学」が不可欠であります。この課題を実現するために、物質の製造法に焦点を当てることが肝要であり、優れた工業的合成法を設定することをゴールとするプロセス化学を、基礎研究の段階から取り入れることが21世紀型のモノづくりにつながります。以上の背景より、我々はグリーンケミストリーとプロセス化学に基づいた有機化学における反応・合成手法の開発と応用について研究しており、触媒化学の力によって解決困難な課題を克服することを目指しています。

バイオインスパイアード有機分子触媒による環境調和型物質合成

生体内の反応では酵素が化学結合形成・開裂反応に深く関与しており、その特異的な反応特性により生命活動を維持しています。我々は理想的な触媒である酵素を追究することにより優れた触媒システムが構築できると考え、特に金属原子を含有しない酵素のモデル化について研究してきました。その結果、反応活性中心部位と疎水性部位を同一分子内に有する新たな有機分子触媒をデザイン・合成し、水存在下でも反応性が低下することなく、直接的アルドール反応が進行することを明らかにしました。さらに、原料の混合比1:1で反応を円滑に進行させることに成功しました。これらの現象は疎水性相互作用、水素結合、塩析効果を利用したものであり、天然アルドラーゼ酵素の特性を人工的に構築した結果であります。

 

OFF-ON型蛍光センサーによる新規触媒探索法の開発

モノづくりにおいて最適触媒・反応条件の探索は極めて重要であります。しかし、人海戦術的スクリーニングに依存する従来型探索法では、時間、労力、エネルギー、コストの点で限界があります。我々は炭素-炭素結合形成後に蛍光強度が増加するOFF-ON型蛍光分子を新たにデザインし、迅速な触媒・反応条件探索を可能にする化学結合検出用蛍光センサーを開発しました。その結果、分注装置とプレートリーダーを用いて、一度に96サンプルをマイクロスケール、短時間 (32分間)で評価でき、一日で1000以上の多検体サンプルの反応挙動のリアルタイムモニタリングを可能としました。さらに、この手法を用いて特定された触媒系をテンプレートとし、ファインチューニングすることにより、高活性な触媒を見いだしました。

超臨界二酸化炭素と有機分子触媒を利用したポリ乳酸の高純度合成技術

とうもろこし等の原料から作られるポリ乳酸はカーボンニュートラルな材料であり、近年の環境問題に対する意識の高まりにより、筐体やフィルムとして実生活において利用されています。これまでの合成法は、スズ等の金属触媒下、200℃付近でのラクチドの開環重合が一般的でありました。一方、我々は有機分子触媒と超臨界二酸化炭素
(scCO2)を用いることによって、低温・短時間での重合反応を可能にしました。さらに、scCO2抽出による触媒の除去、界面活性剤による直接粒子化も達成しました。これらの成果は、金属・有機溶媒・残モノマー・触媒フリーの高純度ポリ乳酸合成プロセスへの工業的応用が期待されます。

MNB (micro and nano bubble)を用いた新規有機合成手法の開発

有機合成反応において気相-液相反応の効率性を向上させることは、合成化学だけでなく環境関連化学の面からも重要であります。従来の気相-液相反応では、気体の溶存濃度および反応性を高く維持するため、高温・高圧下、耐圧容器を用いて激しく撹拌しながら反応させる方法が一般的でありました。しかし、効率性だけでなく安全性も求められる現代において、安全性の低い従来法の改善が強く求められています。我々は通常の気泡とは異なる性質を持つマイクロバブル・ナノバブルに着目し、常温・常圧下、耐圧容器を必要としない気相-液相反応プロセスの開発に成功しました。