多様な特性を持つチャ品種,遺伝資源に関する研究

現在,日本全国の茶の栽培面積の大半は,エリート品種である「やぶきた」が大半を占めています.この「やぶきた」は,高品質・多収性・広域栽培適応性といった優良品質を兼ね備えていたため,茶産業に多大な貢献をしてきましたが,一つのエリート品種に依存した栽培・育種体系には様々な諸問題が指摘されています.

例えば・・・
・摘採期の集中による過剰労働
・摘み遅れによる品質低下
・工場の大型による稼働率の低下
・気象災害のリスク拡大
・品質の画一化

その一方で,茶は多様な形態 (例えば緑茶,紅茶,烏龍茶など) をとり世界各地で飲用されています.また,その遺伝的来歴は幅広く,様々な特性を持った遺伝資源が世界中に存在します.さらに,日本国内においても様々な地域に茶産地があるように,国内にも多くの在来系統が存在します.

そこで,私たちは様々なチャの遺伝資源の特性を明らかにするため,様々な表現型を調査し,さらにはDNAレベルで解析することで新しい特性を持ったチャ品種作出への応用を目指しています.

① チャ遺伝資源を用いた各種特性のナチュラルバリエーション解析と次世代育種への応用
チャ (Camellia sinensis L.) は木本植物であり,そのライフサイクルや育種にかかる年月は非常に長いです.現在の多様かつ高度化している茶の消費者ニーズに対応するためにも,チャの育種をより効率的に行っていく必要があります.そこで私たちは,チャ遺伝資源の網羅的な形質評価を通して,有用な特性を持つ品種・系統をスクリーニングするとともに,その形質を制御するゲノム領域を明らかにすることで,ゲノム育種による効率的なチャの育種基盤の構築を試みています.

下写真は,品種毎 (各畝) に早晩性 (新芽を出す時期) が異なるため,茶園の色がまだらな様子です.

 

② 白葉茶品種に関する研究
日本のみならず,世界中の茶園では,一般的に緑色を呈すチャ新芽の中に,ごく稀に白色または黄白色に変色した新芽が観察されることがあります.その原因については種々考えられていますが,おそらくこれまでにこのような白色個体については,その詳しい特性や化学成分的な付加価値が見出されてこなかったため,単なる”変異”としてしか扱われず,その個体が育種・選抜され,栽培されることはありませんでした.
農林水産省生産局知的財産課の品種登録HPをみると,日本において新芽が黄白色になる品種として1981年に「星野緑」,2006年に「きら香」が登録されています.このうち,「星野緑」は福岡県八女郡星野村 (現 八女市) で栽培されており,育成者により自家茶園の在来種より発見されました.また,「きら香」は静岡県袋井市で栽培されており,育成者の圃場から「やぶきた」の枝変わりとして発見されました.また品種登録されていませんが,「さやまかおり」の枝変わりとされる「黄金みどり」や,「やぶきた」の実生から得られたとされる「やまぶき」が静岡県内において小規模ながらも栽培されています.

私たちは新芽の色が黄白色を呈す「白葉茶」が個性的な特性を有していることを見出してきました.例えば,4つの白葉品種「きら香」,「星野緑」,「やまぶき」,「黄金みどり」の成分特性について,エリート緑葉品種「やぶきた」と比較したところ,白葉品種は「やぶきた」よりも遊離アミノ酸含量が高く,特にその組成において,アルギニンが占める割合が非常に高いことがわかっています.また,「やぶきた」以外の他の緑葉品種と比較しても,同様の結果を示しことから,高い遊離アミノ酸を含有することが白葉茶の特性の一つであると言われています.

白葉茶は,色や見た目,味が独自的であることから,新世代の茶飲料として期待されています.そのため,チャの新芽の白葉化機構を解明することで,その応用性を高めることを目指しています.

※ 私たちが着目している「白葉茶」は,世界各国で販売・認知されている「白茶」とは全く異なる茶です.現在,「白茶」として販売されている茶は数年前から欧米各国での需要が急増し,「美白」や「アンチエイジング」などといったキーワードと共に取り上げられることも多く,その範囲は飲料のみならず,化粧品の材料としての注目度も高いです.ただし,これらの茶葉の大部分は,中国の福建省北部で生産され輸出されている「白茶 (White tea)」であり,形態的には新芽が白い産毛で覆われている茶で,私たちが着目する新芽が黄白色を呈すチャ樹とは,全く異なるものです.