チャの特異な土壌栄養応答機構に関する研究

「茶 (チャ) は土を選ばず」と言われていますが,,,
そのユニークな土壌栄養応答に着目しています.

① 酸性土壌適応

植物にとって,土壌の栄養環境を左右する重要な因子の一つにpHがあります.

一般的に土壌pHが5.5を下回ると「酸性土壌」と言われ,作物栽培に不適とされています.
また,その多くは食糧増産を急務とする発展途上国に分布することから,酸性土壌での作物生産向上は喫緊の課題とされています.

酸性土壌では,土壌の酸性化に伴い,複数のストレス要因が発現し,植物の生育が阻害されます.酸そのもののプロトン (H+) 過剰害に加え,酸性条件で可溶化するアルミニウムイオン (Al3+) 毒性やマンガン過剰害,およびそれに伴うリン酸欠乏が複合的に発現しています.その中でも,最大の植物生育阻害因子と考えられているのが,Al3+毒性による根の伸長阻害です.

ところが,興味深いことに,チャはAl3+存在下で良好な生育を示し,多量のAlを葉内に蓄積する (Al集積植物) という,他の植物種にはみられない特異な生理応答が起こります.

下図に示した図は,Alを含む (右) または含まない (左) の条件で
約1ヶ月間水耕栽培したチャ幼植物体 (品種はやぶきた) の様子です.
写真をみても分かるように,お茶はAl存在下で良好に生育していることが一目瞭然です.

このチャ独自のAl応答機構を解明し,分子改良により酸性土壌耐性植物を作出することで,
世界各地で起こる食糧問題の解決に貢献することを目指しています.

 

② 窒素栄養特性
お茶の成分のうち,タンパク質・遊離アミノ酸・カフェインなどに含まれる窒素の総量が全窒素です.そのため,良品質のお茶は,全窒素が多く含まれます.このことから,茶葉中の全窒素含量が品質評価上の重要な指標として扱われてます.

一般的に,チャは好アンモニア性植物であり窒素過剰害に強い特性を有します.そのため,多くの生産者はチャ葉中の遊離アミノ酸含量を高めることを目的に,アンモニウム態窒素 (例えば硫酸アンモニウムなど) を多量に施肥していました.しかし,茶園土壌に過剰に施されたアンモニア態の窒素は,速やかに硝酸態窒素に変化してしまい,降雨とともに溶脱し,地下水や湖沼の汚染源となることが懸念されてきました.そのため,全国の茶産地では,茶園由来の硝酸負荷量の低減に取り組み,肥効調節型肥料や硝酸化成抑制剤入り肥料の使用など肥料管理系が見直しされ,徐々に窒素施肥量を削減してきています.しかし,窒素施肥量が少なくなるに従い,茶の品質低下を訴える声が増えているのが現状です.

好アンモニア性であるチャは,アンモニア態窒素に比べて,硝酸態窒素の吸収が非常に遅いことが知られています.このため,茶園での窒素吸収利用効率を向上させ,品質や生産性を維持しながら,硝酸による環境負荷を解決する最も有効な方法の一つは,チャの硝酸吸収同化活性を高めることが考えられます.

そこで私たちは,チャの窒素利用効率の向上を目的に,硝酸吸収・同化の制御機構を明らかにし,少肥適応型品種の開発を目指しています.