【大学院】2026日大・静大交流戦(日本中世史)

貴田研究室の活動報告です。この度、日本大学で教鞭をとる田中大喜先生の研究室のみなさまにお越しいただき、私たち静岡大学との「交流戦」として、大学院レベルでの学術交流がおこなわれました。主に日本大学と静岡大学に所属している現役院生や他大学での修了生が参加し、共通の専門領域である日本中世史をめぐって、互いに研鑽を深めました。

初日の8月3日(月)には、それぞれが報告をおこない、自らが積み重ねてきた研究の成果を披露しました。質疑応答では史料の解釈やそこから組み立てられた歴史像をめぐり、いくらかの疑問も相互に出されました。こうした討論のなかで各人の抱える課題もおぼろげながら見えてきましたが、今後それぞれの自己批判のなかで解決され、やがて論文化へつながっていくことが期待されます。

研究報告の場では、双方向的な討論を通じて、史料読解の精度を高めるため建設的な批判を交わすとともに、そこから歴史像を導く論証・叙述の手法を鍛えあう

  • 佐野侑香(静岡大学大学院修士課程)「鎌倉期における陰陽道の展開―京都から鎌倉への伝播を中心に―」
  • 柴幸太郎(日本大学大学院博士前期課程)「初期鎌倉幕府における北条氏権力に関する研究の現状と課題」
  • 沼尾和輝(早稲田大学大学院修士課程修了)「陸奥国府における軍隊の形成過程―南部師行の事例から―」
  • 藤原大志(静岡大学卒業、早稲田大学大学院修士課程修了)「桶狭間合戦以降の今川氏の三河支配」
  • 稲川裕己(日本大学大学院博士後期課程、同大学助手)「鎌倉期足利氏所領支配の志向性」

続いて、翌日の8月4日(火)には、大学院交流のエクスカーションとして、駿河国上野郷故地に訪れました。現在の静岡県富士宮市に位置しており、中世には台地の上で畠作の村々が展開していたと推測しています。2019年以来、貴田が現地調査を続けているフィールドになりますが、田中先生をはじめ、参加者のみなさまからは中世的な農耕空間のイメージについて貴重な助言をいただきました。

現代では美しい水田が眼前に展開するが、17世紀の検地帳の分析によれば、近世の段階まではむしろ畠作が広く営まれていた

鎌倉時代の領主であった南条氏の伝承が色濃く残る小字「堀之内」の景観

なお、こちらの上野郷故地については、2023年度に採択された科学研究費・基盤研究(C)「排他的なナワバリを伴う村共同体の形成―生業論と景観論の融合から―」の一環として、現在も調査・研究を遂行しています。

中世西日比較経済史勉強会 A study session on the comparative economic history of medieval Spain and Japan

日本史分野の貴田の研究活動報告です。言語文化学科の大原志麻先生の紹介で、来日中のスペイン・バリャドリッド大学のダビ・カルバハル・デ・ラ・ベガ先生をお招きし、スペイン・日本の比較史的観点から中世経済史に関する、小さな勉強会を開催しました。

まず、ダビ・カルバハル・デ・ラ・ベガ先生には、中世スペインの社会経済に関するご自身の研究を紹介いただきました。主に15~17世紀のカスティーリャ地域をフィールドとされていますが、今回の勉強会では銀行家の日記を用いた金融ネットワークの復原や、村の徴税簿を利用した不平等と社会的流動性の分析について平易に解説いただきました。

15世紀のスペインで作成された徴税簿に関する史料的性格の解説と、これを用いた研究手法の説明

次に、日本中世史を専門とする貴田の研究報告に移りました。現在、数千件ほど知られる14~16世紀の土地売買証文を活用しながら、主に畿内近国の不動産市場の実態について定量的な分析を進めています。今回の勉強会では、室町・戦国時代の災害・飢饉・徳政といった自然・社会現象との関わりのなかで、市場の盛況と停滞を論じようとしました。

15世紀の京都近郊で作成された土地売買証文の解説と、定量的な分析方法の提示

大学院生も含めて4人だけの小さな勉強会でしたが、中世のスペイン社会と日本社会の間にある共通点や相違点にも議論が及び、文明史的な視野からそれぞれの社会のあり方を理解するに貴重な機会となりました。そして、日本史側のメンバーはカタコトの拙い英語を用いながらでしたが、スペイン史側の先生方からは鋭い質問をいただき、学問的にとても刺激的な時間となりました。

報告をご準備くださいましたダビ・カルバハル・デ・ラ・ベガ先生と、ご仲介いただいた大原志麻先生には改めてお礼を申し上げます。

学位記授与式(3月24日)

今年度は学部生22名、大学院生3名が卒業・修了しました。おめでとうございます。

大学院生は、専門的な学修の成果を活かして、2名が自治体の文化財関係、1名が高校教員に採用されました。社会に出てからも一層の活躍を期待しています。なお、昨年度は記載しませんでしたが、修了生2名が同じく自治体の文化財関係、1名の留学生が県内企業に就職しました。

学部生は、民間企業7名、公務員8名(うち文化財関係1名)、中高教員4名(非常勤講師を含む)、進学1名、その他2名となっています。近年は公務員が比較的多いようです。全員が歴史学・考古学と関連した職業に就くわけではありませんが、卒業論文を執筆する過程で培った汎用的な能力を十全に生かして、それぞれの進路で頑張ってくれるものと思います。

日本史(10名):民間4名、公務員3名、教員2名、その他1名
世界史(10名):民間1名、公務員5名、教員2名、進学1名、その他1名
考古学(2名):民間2名

【授業紹介】日本史学史料講読

今年度の日本史学史料講読では、室町時代の皇族である貞成親王(1372~1456)が記した『看聞日記』を読んでいます。この日記は政治・社会・文化の諸相に関わる多くの情報を含んでいて、この時代の人々のあり方を知る上で重要な史料とされています。

宮内庁書陵部編『図書寮叢刊』看聞日記第1巻~第7巻(同所・明治書院、2002~2014)が刊行されており、こちらをもとに日本史分野のゼミでは輪読しています。今年度は応永23年(1416)の記事を読み進めていますが、父である栄仁親王の死が大きなトピックとなりました。

文献史料を対象とする歴史学では、研究したい時代の文体に慣れ、その文意を正しく捉えることが分析の重要な鍵になります。また、単に語句や人名を調べるだけでなく、虚偽・誇張や、文字として書かれなかった情報をも批判的に意識して、史料が作成された意図や歴史的な背景に深く迫ります。こうした作業を根気強くおこなうことは、事実を正しく認識できる力をつける訓練になるでしょう。

史料講読の教材である『看聞日記』

なお、この季節になると、3年生がゼミ報告の準備に取り組むだけなく、4年生も卒業論文の執筆にいよいよ追い詰められ、私たちの研究室はにぎわいを見せます。論理的な思考を導くための訓練を重ね、大学生のうちにしっかりと知的な能力を身につけることは、とても大切なことです。

学生たちの共同スペースである研究室の日常(机の上がいつも片付かないのはご容赦ください!)

【開催案内】2024古文書展・考古展

来たる11月2日(土)・3日(日)に静岡大学でキャンパスフェスタが開催されます。

https://wwp.shizuoka.ac.jp/festa/shizuoka/shizu_outline/

日本史分野と考古学分野でも、それぞれの研究室で「古文書展」と「考古展」を開きます。
大学生たちによる共同研究の成果をお楽しみください。

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古文書展「安倍郡周辺における地方神職の実情」
考古展「静岡・清水平野の前方後円墳~丸子沢川古墳の調査から~」

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なお、大学祭・キャンパスフェスタの期間中は、一般車両による入構が制限されます。お越しの際は公共交通機関をご利用ください。

新3年生歓迎遠足

日本史学研究室では、新しく配属した新3年生の歓迎行事として、蒲原宿の巡見をおこないました。

蒲原宿の木屋渡邊家では、19世紀前半に建てられた3階建ての土蔵(文書蔵)と、そこに収められた多数の文化財を大切にされています。現在、この土蔵は「木屋江戸資料館」となっていますが、今回の巡見では同家に伝来した古文書を実見させていただきました。

渡邊家は蒲原宿の経営に関わりましたが、そのなかで近世社会の実情も同家の史料に詳細に記されました。とりわけ、幕末には異国船来航、安政東海地震、コレラ流行などの多くの事件がありましたが、それらの出来事は地域に生きた人々の視点から記録されています。なお、渡邊家文書は『蒲原町史』資料編近世1~3(蒲原町、1983~1996)などでもその多くが紹介されていますが、一方で未翻刻のままとなっている史料も少なくないそうです。

ところで、静岡大学の実習では古文書を扱いますが、しかし文化財が伝えられてきた現場を教室のなかの授業で直接に知る機会はさほど多くありません。「百聞は一見にしかず」といいますが、今回、渡邊家の土蔵を訪問し、そこで多数の古文書が守られている様子を拝見し、現代における文化財継承のあり方を体感的に学ぶことができました。

木屋渡邊家の土蔵(文書蔵)

多くの古文書を守り伝えてきた土蔵の様子

渡邊家訪問の後、旧五十嵐歯科医院(旧五十嵐邸、国登録有形文化財)も見学しました。そして、最後に近所のコンビニエンスストアでアイスクリームを買って、食べて、解散しました。

【2023調査報告】遠江国原田荘のフィールドワーク

日本史分野の貴田潔研究室では、現在の静岡県掛川市に存在した遠江国原田荘という中世の荘園について、2021年度から現地調査を継続しています。これまで地域の文化財に関わる方々と連携しながら、また有志の卒業生・現役生たちとともに作業を進めてきました。

さて、2023年度は主に居尻地区・萩間地区で近世・近代史料の調査を実施しました。この地域は中世後期(南北朝~戦国期)の古文書にも登場し、およそ500年以上にもわたる村落の歴史を誇っています。中世から現代にいたる長い時間軸のなかで、生業や景観などに関わる多様な情報を史料から析出し、数世紀におよぶ地域社会の変遷を把握することを研究の目的としています。

また、今後は文献史料の調査だけでなく、灌漑体系の踏査や古老の方々からの聞き書きを含む野外調査も平行して実施していきたいと考えています。

現代の日本列島において多くの地域では、少子化・過疎化・限界集落化などの問題を抱えています。私たちの時代に残された歴史・文化資源を記録・保存し、次世代の社会に伝えるということは、ますます切実な課題になっていくでしょう。一方、調査を通じて、中世から連綿と続いてきた村落の歴史を解明し、そこに生きた人々の姿をより鮮明に描き出せるだろうことは、これからの研究上の楽しみです。

未整理の段階における近世史料

公民館での史料調査

現地調査中の昼食(差し入れていただいた季節のものをみんなで食べることも共同調査ならではの楽しみ)

中世的景観を復原するために今後も継続していきたい灌漑体系の踏査

なお、2023年度に採択された科学研究費・基盤研究(C)「排他的なナワバリを伴う村共同体の形成―生業論と景観論の融合から―」の一環として、今後も本研究を遂行していきます。

卒業論文の季節と、静岡大学の研究環境

秋も終わりに近づき、日本史学研究室でも、4年生たちが卒業論文の執筆に専念する季節となってきました。彼ら・彼女らにとって、卒業論文を提出するまでは、大学附属図書館にも足しげく通わなければならない日々がしばらく続くことでしょう。

文字を介して過去を研究する歴史学(文献史学)では、当然のことながら、史料と先行研究の両方に向き合い、専門書とも格闘しなければなりません。したがって、学ぶべき環境として大学にどのような図書が揃っているかは、歴史学を専攻する学生にとって大切なことになります。

さて、静岡・浜松両キャンパスを併せた静岡大学の蔵書は約120万冊を誇り、そのなかでも十進法で「歴史」に分類された蔵書数は10万冊を超えます(2023年3月31日現在)。

静岡大学附属図書館の閲覧席

附属図書館の書庫

まず、静岡キャンパスの附属図書館に入ると、手に取った開架の図書を閲覧したり、自習したりできる閲覧席があります。

さらに、書庫のなかに入ると、そこには専門書がずらりと並べられています。これらの膨大な蔵書は静岡大学が長年の研究・教育活動を通じて収集したもので、地方国立大学として他の大学にも見劣りしないコレクションともいえます。

書庫のなかに並べられた日本史関係の専門書

静岡大学に限らず、これから大学で歴史学を学ぼうとする人にとって、自らの知的な関心に応えられる研究環境がしっかり整えられているかは、その大学を知る上で重要な情報になってくるでしょう。そして、知的な能力を培う訓練として、文章を読み、論理的な思考を導き出すことは、これからの世界のなかで大学生や社会人にも求め続けられていきます。

附属図書館から望む、秋の終わりの大学キャンパス

2023読書会

日本史分野・考古学分野では、11月4日(土)に、それぞれの地域で文化財の保存と活用に携わる卒業生の先輩方をお招きする「読書会」を実施しました。今年度は「まちづくりと文化財の活用」という共通テーマを立て、各報告のもと、卒業生・在学生・教員が議論を交わしました。世代を超えて両研究室のつながりをつくり、相互に知見を広げ、学び合う場となっています。

・菊池吉修:
「文化財を活かした地域づくり~静岡県での取組~」
・恩田知美:
「国史跡船来山古墳群を活かしたまちづくり~小さな本巣市だからできること~」
・山本邦一:
「基礎自治体の文化財行政職員に求められること~掛川市の事例~」