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発酵とサステナブルな地域社会研究所

Institute of Fermentation in Sustainable society and Glocal community

所長

大原志麻(静岡大学/人文社会科学部/教授)


発酵食品・飲料に関わる人文科学的・社会科学的・自然科学的な知を融合させ、異業界間の協働、さらに社会・地球環境変化の下での産官学連携・相乗効果創出を図ります。

人類は発酵を通して摂取できる食物の幅を広げ、栄養を摂取し、危機に備えて長期保存を可能としてきました。また、発酵飲料は、水の安全性が確保できなかった時代に、安全に水分を摂取することを可能としました。さらに、発酵飲料は人を誘引・凝集する力があることから、地域固有の「酵母」は歴史貫通的に地域社会の形成に多大な役割を果たしてきました。しかし歴史の中の発酵飲料の多くは主原料が絶滅したり、醸造方法が失われたりしたため、今日、過去の発酵飲料を復刻することは非常に困難です。

発酵とサステナブルな地域社会研究所では、日本とヨーロッパで築き上げられてきた酒文化を精緻に洗い出し、歴史史料から酒造方法を特定し、中世グルートビール(ホップの代用品として複数のハーブを利用したビール)など、中近世の酒造レシピの再現を試行するなど、発酵飲料の高付加価値化をおこなっています。また、中世グルートビールの主原料であり、現在絶滅危惧IAであるヤチヤナギを本学でAIを用いて栽培し、ビールやアロマ、ハーブティーとして利活用する地域固有の資源としてのリポジショニングを行っています。

またビールや日本酒に使う酵母については、南アルプスの花酵母の単離研究により地産酵母を用い、地域社会に適応させたイノベーティブな発酵飲料開発を促進していきます。このような静岡市地産の酵母とそのストーリー性はクラフトビール文化の活性化にもつながります。この地産酵母は地域のコモンズとして地域社会への還元を検討しています。

2010年代に入り日本の人口減少が本格化し、とりわけ農村地域を含む地方圏では過疎化やコミュニティの荒廃が進行しています。高齢社会の進展とともに高齢者単身世帯の孤立が進む一方で、ひきこもりなどメンタルケアを必要とする人々が若年層も含めて増加しています。その対応策としてコミュニティによるケアの有効性が論じられています。研究所では、ビールの人と人をつなげる力をもとに、サステナビリティの観点から地域をブランディングし、孤立を防ぐことで、健康増進や「まちづくり」を目指します。