2024年12月14日、15日に南アルプスユネスコエコパーク10周年記念大会「未来につなげ!ライチョウの生きる山々、南アルプス」が開催されます。12月14日に増澤先生が開会あいさつ、「南アルプスユネスコエコパークに学ぶ」と題して講演されます。12月15日は丑丸先生が「南アルプスの酵母からお酒を造る」講演でご登壇されます。IV部では増澤先生のご進行でパネルディスカッションがあります。南アルプスの恵みから生まれたウイスキー、ジビエやクッキーといったおいしい食べ物やライチョウのミニチュア販売もあります。ユネスコエコパーク10周年記念の一連のイベントのなかでもとりわけ重要な発信の場となりますので、ぜひとも足をお運びください。
カテゴリー: セミナー
2024年11月9日 テクノフェスタでの公開講演会の報告
2024年11月9日に浜松キャンパスで開催されたテクノフェスタにおいて公開講演会を行いました。
第一報告はふじのくに地球環境史ミュージアムの佐藤洋一郎館長「三遠南信の食文化」でした。浜松の伝統食を考えるにあたって、発酵大豆文化圏である三遠南信の地理と、それが南アルプスを通る三州街道(塩の道)と秋葉街道(塩の道)形成したとの説明がありました。イギリス人外交官アーネスト・サトウは水窪の塩の道を歩き、巡礼路としての役割を果たしていることを指摘しているそうです。
水窪には縄文時代の遺跡があり、南北朝時代の城があり、また戦国武士たちの活動の場で兵站でもありました。この地域は水田稲作文化と対極にあり、焼畑で得る低収量のオオムギやトウモロコシやソバなどの雑穀文化で、オランドやジャガタと呼ばれるサトイモやジャガイモが南方経由で渡来し、また採取文化の残滓としてトチが食されたそうです。 県の東西には弥次喜多甘味道中があり、柏餅、饅頭、蕨餅、子育飴、安倍川餅、うさぎ餅、追分羊羹、富士見餅、亀鶴餅といった甘味が東海道を歩む人々を支えていました。三遠南信の発酵食文化は武家と旅人の食文化であると言えるようです。
第二報告は十山株式会社の平井岳志さんでした。今回の報告は2024年11月3日の同じ題目「南アルプス高山植物由来酵母によるウイスキー」です。詳細はこちらをご覧ください。
第三報告は静岡県ガストロノミーツーリズムフォーラム統括コーディネーターの岩澤敏幸氏「浜松から広がる静岡ガストロノミーツーリズム」でした。まず静岡県そして静岡市が進めているガストロノミーツーリズムの定義が紹介され、対象となるジオガストロノミー、地域食材、料理法、食を取り巻く歴史文化伝統について説かれました。観光地ブランドに影響を与える要因として明確なイメージ、接客、歴史文化などを挙げ、浜松市が鰻、徳川家康など明確なのと対照的に静岡市には明確なイメージが不在であることが指摘されました。ガストロノミーツーリズムは地域の全体が関わり、他人事から自分事への転換が重要で、今後関心をもってもらいたいと浜松ガストロノミーツーリズムツアーを創ってみませんか<日帰りコース・お泊りコースは問いません>として、提案を募り、最優秀ツアー案を商品化し、3月に実施予定であるとの呼びかけがありました。
当日のプログラムはこちらをご覧ください。
テクノフェスタでも午前から発酵研の展示を行いました。多くの方にご来場いただき、盛況でした。
2024年11月3日<公開講演会 vol.2>『グローカルな発酵文化と観光』の報告
2024年11月3日に南アルプスユネスコエコパーク登録10周年記念連続シンポジウム第5回<公開講演会 vol.2>『グローカルな発酵文化と観光』が開催されました。
第一報告は静岡大学文人社会科学部言語文化学科長で発酵とサステナブルな地域社会研究所のメンバーである鈴木実佳教授による“Current Beer Tourism and the 18th century beer caricatures in the UK”と題した発表で、ご専門であるビール文化を代表するイギリスの事例について講じられました。まずイギリスにおけるビールとエールの違いやビールが用いられた風刺画を紐解き、文化的な表象について紹介されました。またwalking in LondonということでSambrook’s Breweryという実際の醸造所にも言及がありました。
続いてオックスフォードからバスの運転手さんでも停留所の存在を忘れるほど大変アクセスの難しいHook Norton Breweryへの視察について紹介されました。Hook NortonはThe most popular beer & cider brandsとしては121位ですが、Trip Advisorでは1位とのことで、ビアツーリズムの成功の理由を求めて視察されたとのことです。背の高い建物で醸造過程が上から下に降りてくるおもしろいブルワリーです。2階では歴史について語られており、18世紀のbrewersついて詳しく説明されました。
第二報告は十山株式会社代表取締役社長鈴木康平氏による「南アルプス高山植物由来酵母によるウイスキー」です。国立公園は国内に34か所あり、南アルプス国立公園は静岡、長野、山梨にまたがる、今なお隆起し続ける重厚な山岳地です。ユネスコエコパークは国内に10か所あり、南アルプスは2014年6月12日にエコパークに登録されています。井川社有林は南アルプスの南部一帯で日本の1/1000の森林面積を占めており、井川山林は現在「自然共生サイト」に登録されています。国内最大の一団地で、県内10か所のうち静岡市内は麻機遊水地が登録されています。登壇者の鈴木康平氏は1991年4月に入社されてから社有林に四半世紀携わっており、南アルプスの環境保全、持続的な地域活性化の基盤を構築してきました。なぜ南アルプスでウイスキーを醸造するのかについて、井川山林の“価値づくり”に半世紀以上悩み続けた過程があります。既存需要である登山者以外に刺さる南アルプスを詰め込んだ価値とはなにかを模索してきました。
当初Natural Mineral Waterとして水源を利用しようとしていたが、不向きであったため、ウイスキー醸造に方向転換した経緯があります。まず「日本一行くのが大変な蒸溜所」と巷で評される標高1200mの熟成環境、水質、自社材のミズナラはウイスキー発祥の地とされるスコットランドを想起させます。南アルプス・井川の野生酵母によるウイスキー造りについてもお話頂きました。発酵研との高山植物酵母(ワイルド酵母)を通した協働として、井川の白木蓮から単離した酵母による香りが華やかなウイスキー造りが紹介されました。また2024年に井川蒸留所からリリースされるFloraのラベルにデザインされている高山帯の植物タカネマンテマの利活用もしたいとのことです。南アルプスと井川で地域や他社との協業でフィールドをSharingして持続的な環境保護保全とアップサイクルによる地域振興の試みを行っています。南アルプスは大井川で流域市町とつながっており、より多くの方、特に地元、流域の方には南アルプスをもってして頂きたいとのことです。
第三報告は、研究所副所長である人文社会科学部法学科の横濱竜也教授が、「静岡におけるクラフトビールツーリズムの可能性を考える」というタイトルで、クラフトビールの地域的性格とそれを活かしたツーリズムの可能性について話されました。昨年、私たちの研究所は「家康公CRAFT」を製造・販売するプロジェクトに、主に酵母開発とPRの面で関わりました。その背景のひとつには、静岡市と静岡県のクラフトビールブームがありました。講演では、より視野を広げて、日本とアメリカのクラフトビールブームのありようを確認し、海外のクラフトビールツーリズムに関する先行研究に触れるとともに、クラフトビールの地域的性格を、地域ブランディング、またテロワールの視角から整理することを試みました。
当日のプログラムはこちらをご覧ください。
2024年11月2日 南アルプスユネスコエコパーク登録10周年記念連続シンポジウム第5回『静岡の自然と利活用』
2024年11月2日に南アルプスユネスコエコパーク登録10周年記念連続シンポジウム第5回『静岡の自然と利活用』が開催されました。
第一報告は静岡大学理学部客員教授の増澤武弘先生による「南アルプスの自然の保全と利活用」です。
増澤先生は南アルプスがユネスコエコパークに登録されるための委員会のメンバーで、登録にご尽力されました。ユネスコエコパークは、厳格に保護をしていく核心地域、核心地域のバッファーとしての機能を果たし研究と教育の利活用を行う緩衝地域、核心地域及び緩衝地域の周囲または隣接し居住が可能な移行地域の3地域にゾーニングされています。増澤先生は特に移行地域の重要性を説かれていました。
南アルプスの静岡市側には大井川水系のはじまりがあります。増澤先生の講演はその源泉から下流に下りながら順に説明されました。大井川流域に生息・生育している貴重な動植物を多くの写真をもとに説明されました。特に今回はミズナラに関する説明に重点が置かれていました。静岡市に生育しているミズナラは大変貴重であり保護すべきだそうです。ミズナラはウイスキー樽に利用されます。ミズナラを利用するために伐採し、さらにミズナラの苗を植えることで、ミズナラ林の循環利用を目指しているとのお話がありました。
第二報告は北海道立総合研究機構林業試験場森林環境部長の脇田陽一先生による「静岡を南限とする植物の利活用」です。
脇田先生には絶滅危惧植物であり、静岡にはもともとは自生していたかもしれないけれども現在はみられないヤチヤナギやカラハナソウを北海道から持ってきていただき、静岡市駿河区、清水区、梅ヶ島、富士宮市、御前崎市で栽培が試みられています。ヤチヤナギは中世ヨーロッパのビール文化圏である北ヨーロッパに主に自生しており、ホップ以前のビールの副原料として用いられてきました。暖かく日差しが強い静岡での栽培の試行錯誤が続けられていますが、これからヤチヤナギをさらに増やすことができれば、チーズの香りづけ、ビール、化粧品、キャンドル、アロマへの利活用の可能性があります。
同じく静岡県で絶滅危惧種に指定されているカラハナソウについては、静大で奇跡的に栽培に成功し、一年目からたくさんの実をつけました。来年以降、カラハナソウを用いた新たなクラフトビールができるかもしれません。
ほかにもオオバスノキ(ブルーベリー)、ツルコケモモ、チョウセンゴミシ(五味子)、ミヤマタタビ(キウイフルーツの仲間)など、まだまだ静岡県を含む中部以北から北海道にかけて自生している未利用の植物にも新たな利活用の可能性があるようです。
各講演が終了してから質疑応答が行われました。
当日のプログラムはこちらをご覧ください。
2024年11月20日(水)「お茶の明日を考える“画一から多様へ”」第5回ガストロノミーツーリズム研究会
2024年11月20日(水)に静岡県が推進し、静大・発酵研がメンバーとなっているガストロノミーツーリズム研究会、今年度第5回「お茶の明日を考える“画一から多様へ”」が開催されます。
静岡産業大学学長の堀川知廣氏が登壇され、横濱副所長がパネルディスカッションにて、消費量が減少傾向にあるなか、静岡のお茶を世界中で飲んでもらうためにはどうすればよいのか考えます。
参加申込の締切は11月11日となっています。おはやめにこちらからお申込みください。
2024年10月23日、24日「発酵食品ワールド出展」報告
2024年10月23日、24日にAichi Sky Expo(愛知国際展示場)で発酵食品ワールドが開催され、静大・発酵研からも出展しました。発酵研が取り組んでいるプロジェクトを紹介し、より広い連携関係の構築を目指す目的です。 展示では、井川の野生酵母と農学部藤枝フィールドの柑橘でつくった発酵シロップの試飲をはじめ、家康公CRAFT、フジヤマハンターズビールからは発酵研との共同で製造したNew Gruit Beer in Progressとヤチヤナギ、丸徳商事からは廃棄物を発酵させた肥料で栽培した大生姜、これを用いたビールとジェラートをご覧いただきました。ブースを訪れた多くの方々が私たちの説明に耳を傾けてくださいました。
2日間で8000人を超える来場者があり、開幕から閉幕まで発酵研にも多くの方が訪れてくださいました。発酵研の展示には訴求力があるとAmazonさんにお褒め頂きました。
丑丸先生、木村先生がご作成くださった資料をもとに横濱先生が二日にわたり発酵カレッジセミナーでお話されましたが、巧みなプレゼンに立ち見が出て立錐の余地なしの人気でした。
ヤチヤナギによるグルートビールのプロジェクトには他大学の理系の先生方が感じ入っておられ、これは文理融合でなければとてもできないことと、こちらとしては背中をみてお手本としてきた他大学の研究者の方たちに励まされ元気が出ました。また野生酵母にこだわってビールをつくっておられる伊勢角屋麦酒の鈴木社長もお見えになり、酵母開発についてご教示くださいました。 厳しいながらもためになるご意見も頂くことができ、連携の輪も広がりそうでとても有意義でした。
2024年10月23日、24日 Food style 発酵食品ワールド
Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)で開催されるFood style 発酵食品ワールドが10/23、24に開催されます。 静大・発酵研もフジヤマハンターズビールさん、丸徳商事さんと一緒に出展します(発酵研出展詳細)。
Expo では 10/23(水)14:20-14:50に発酵カレッジセミナー「発酵飲料・食品で静岡を盛り上げる」と題して横濱副所長が登壇されます。
ご参加頂ければ幸いです。
2024年8月27日 ふじのくに学(魅力ある食と地域づくり)
8月27日(火)に静岡県立大学一般教育棟1階2109室にて、ふじのくに地域・大学コンソーシアムが主催するふじのくに学(魅力ある食と地域づくり)の授業を大原所長が担当しました。当日は大雨で鉄道が一部区間で不通になるなどしましたが、参加された皆さんは熱心に受講してくださいました。
静岡県が推進するガストロノミーツーリズムの世界の先進事例として、スペインの取り組みをいくつか紹介しました。第一に取りあげたのは、有数の観光地であるバルセロナです。アシャンプラ地区(ショッピング)、ゴシック地区(歴史文化)、カンプノウスタジアム(サッカー)、地中海リゾート、近郊のジローナ、フィゲラス、シッチェス、タラゴナ、カダケスなど、魅力的な観光地が何段にも連なっていて、観光客が長期で連泊したくなるだけの観光資源が備わっています。あわせて、バルセロナの地産地消のガストロノミーツーリズムの最新情報を提供しました。静岡も港町やサッカー文化などで、バルセロナと重なるところが少なくなく、参考になるところがかなりあるように思います。
また、ガストロノミーツーリズムで世界で随一の地域となったバスク地方についても、あらためて報告しました。観光スポットに恵まれていないなかで、食を通じて観光誘致を行うことに成功したバスクの事例から静岡が学ぶべきことは多くありそうです。あわせて、世界遺産サンティアゴ巡礼路の整備・誘客は、たとえば伊豆修験など、歴史的に宗教と結びついてきた道を再発見・再構築することが、観光人口さらに交流人口・関係人口を増やしていくうえで有望であることを物語っているでしょう。
人口減少に歯止めをかけるために何ができるか。地域で、企業と行政、大学が連携しながら、試行を繰り返していきたいと思っています。
2024年10月13日 南アルプスユネスコエコパーク登録10周年記念連続シンポジウム「南アルプスの水と酒造り」報告
2024年10月13日に南アルプスユネスコエコパーク登録10周年記念連続シンポジウム「南アルプスの水と酒造り」が開催されました。司会は静岡大学人文社会科学部の藤井真生先生です。
第一報告は大村屋酒造場の杜氏の日比野哲さんによる「大井川の水と酒造り」です。日比野さんは静岡大学大学院農学研究科を終了されており、「静大そだち」を造ってくださっていることから、静大ととても関係の深い杜氏さんです。南アルプスから流下する大井川の水で酒造りをされており、報告はまず島田と大井川の江戸時代・明治以降における関係史からお話され、とりわけ酒は「洗いに始まり洗いに終わる」の言葉通り、多くの水を使い、アルコール分を除く80%が水で、南アルプスの水がダメになってしまうと酒造りは終わりになってしまいます。タンクローリーで他所から水を運んでくるよりも、その地の水をそのまま使うのが理想的です。
大井川の水で造られたお酒は16か国に輸出されており、大井川の水は世界を移動しています。個性輝く地酒作りと南アルプスの水の旅が今後もずっと続いていくことを願ってやみません。
第二報告は静岡大学人文社会科学部の貴田潔先生による「室町時代における酒造業と社会」について、いわゆる文安の麹騒動を中心にお話頂きました。室町時代の京都における酒造は桂川、賀茂川、木津川といった3つの河川の水で行われ、この時代は342もの醸造酒屋が記録されています。酒造業に対する課税は貞治年間に成立し、足利義満執政期に課税が恒常化します。明徳4年(1393)洛中辺土散在土倉幷酒屋役条々において「全て課税の対象とするので一律に徴収せよ」と規定され、税の徴収が厳しいものとなっていきます。
義満・義持期の室町幕府の京都支配にありかたから、酒麹を生産するなかでも北野社優遇政策がとられ独占され、延暦寺の支配に属する東京(左京)の麹造りが禁止されたことから、北野社と延暦寺の間で酒麹業をめぐる相論となるのが文安の麹騒動です。西京神人は北野社に閉籠りストライキをおこし、幕府から軍勢が派遣され合戦に発展します。結果、北野社の勢力は衰微し、酒麹業の独占的特権は解体へ向かいます。お酒と政治勢力の関係についての興味深い発表でした。
第三報告は引き続き麹についてで、静岡県工業技術研究所沼津工業技術支援センターの鈴木雅博さんに、清酒造りには富士山や南アルプスからの伏流水や流水に加えて、麹菌と酵母が必要であり、それら微生物の働きと複雑な関係についての説明がありました。静岡酵母、河津桜酵母といった静岡県のオリジナルの清酒酵母についてご紹介頂き、麹についても静岡の新しい麹米の開発について教えて頂きました。
報告が終わったあとは、静大・発酵研副所長の横濱竜也先生をファシリテーターとして、3人の先生方とパネルディスカッションを行いました。多くの質問が寄せられ、大幅に時間超過しましたが、内容が大変おもしろくあっという間に時間が過ぎてしまいました。
最後に、鈴木さんのご報告にもあった新しい麹をつかったお酒、旧来の麹をつかったお酒の飲み比べがありました。また南アルプスの高山植物の低発酵の酵母と在来植物を用いた大変おいしい発酵シロップの試飲もありました。 懇親会には静岡大学浜松キャンパスから工学部の戸田先生がかけつけてくださり、天竜川河川敷のトノサマバッタのむしむしケーキそして浜名湖のハゼの佃煮を試食させて頂きました。どちらも大変おいしく、水辺の生物多様性を改めて感じることができました。