2024年11月2日に南アルプスユネスコエコパーク登録10周年記念連続シンポジウム第5回『静岡の自然と利活用』が開催されました。
第一報告は静岡大学理学部客員教授の増澤武弘先生による「南アルプスの自然の保全と利活用」です。
増澤先生は南アルプスがユネスコエコパークに登録されるための委員会のメンバーで、登録にご尽力されました。ユネスコエコパークは、厳格に保護をしていく核心地域、核心地域のバッファーとしての機能を果たし研究と教育の利活用を行う緩衝地域、核心地域及び緩衝地域の周囲または隣接し居住が可能な移行地域の3地域にゾーニングされています。増澤先生は特に移行地域の重要性を説かれていました。
南アルプスの静岡市側には大井川水系のはじまりがあります。増澤先生の講演はその源泉から下流に下りながら順に説明されました。大井川流域に生息・生育している貴重な動植物を多くの写真をもとに説明されました。特に今回はミズナラに関する説明に重点が置かれていました。静岡市に生育しているミズナラは大変貴重であり保護すべきだそうです。ミズナラはウイスキー樽に利用されます。ミズナラを利用するために伐採し、さらにミズナラの苗を植えることで、ミズナラ林の循環利用を目指しているとのお話がありました。
第二報告は北海道立総合研究機構林業試験場森林環境部長の脇田陽一先生による「静岡を南限とする植物の利活用」です。
脇田先生には絶滅危惧植物であり、静岡にはもともとは自生していたかもしれないけれども現在はみられないヤチヤナギやカラハナソウを北海道から持ってきていただき、静岡市駿河区、清水区、梅ヶ島、富士宮市、御前崎市で栽培が試みられています。ヤチヤナギは中世ヨーロッパのビール文化圏である北ヨーロッパに主に自生しており、ホップ以前のビールの副原料として用いられてきました。暖かく日差しが強い静岡での栽培の試行錯誤が続けられていますが、これからヤチヤナギをさらに増やすことができれば、チーズの香りづけ、ビール、化粧品、キャンドル、アロマへの利活用の可能性があります。
同じく静岡県で絶滅危惧種に指定されているカラハナソウについては、静大で奇跡的に栽培に成功し、一年目からたくさんの実をつけました。来年以降、カラハナソウを用いた新たなクラフトビールができるかもしれません。
ほかにもオオバスノキ(ブルーベリー)、ツルコケモモ、チョウセンゴミシ(五味子)、ミヤマタタビ(キウイフルーツの仲間)など、まだまだ静岡県を含む中部以北から北海道にかけて自生している未利用の植物にも新たな利活用の可能性があるようです。
各講演が終了してから質疑応答が行われました。
当日のプログラムはこちらをご覧ください。