読売新聞で2024年10月23日と24日に発酵研が参加した「発酵食品ワールド出展」の報道がなされました。ぜひご覧ください。
カテゴリー: 発酵シロップ
2024年11月9日 テクノフェスタでの公開講演会の報告
2024年11月9日に浜松キャンパスで開催されたテクノフェスタにおいて公開講演会を行いました。
第一報告はふじのくに地球環境史ミュージアムの佐藤洋一郎館長「三遠南信の食文化」でした。浜松の伝統食を考えるにあたって、発酵大豆文化圏である三遠南信の地理と、それが南アルプスを通る三州街道(塩の道)と秋葉街道(塩の道)形成したとの説明がありました。イギリス人外交官アーネスト・サトウは水窪の塩の道を歩き、巡礼路としての役割を果たしていることを指摘しているそうです。
水窪には縄文時代の遺跡があり、南北朝時代の城があり、また戦国武士たちの活動の場で兵站でもありました。この地域は水田稲作文化と対極にあり、焼畑で得る低収量のオオムギやトウモロコシやソバなどの雑穀文化で、オランドやジャガタと呼ばれるサトイモやジャガイモが南方経由で渡来し、また採取文化の残滓としてトチが食されたそうです。 県の東西には弥次喜多甘味道中があり、柏餅、饅頭、蕨餅、子育飴、安倍川餅、うさぎ餅、追分羊羹、富士見餅、亀鶴餅といった甘味が東海道を歩む人々を支えていました。三遠南信の発酵食文化は武家と旅人の食文化であると言えるようです。
第二報告は十山株式会社の平井岳志さんでした。今回の報告は2024年11月3日の同じ題目「南アルプス高山植物由来酵母によるウイスキー」です。詳細はこちらをご覧ください。
第三報告は静岡県ガストロノミーツーリズムフォーラム統括コーディネーターの岩澤敏幸氏「浜松から広がる静岡ガストロノミーツーリズム」でした。まず静岡県そして静岡市が進めているガストロノミーツーリズムの定義が紹介され、対象となるジオガストロノミー、地域食材、料理法、食を取り巻く歴史文化伝統について説かれました。観光地ブランドに影響を与える要因として明確なイメージ、接客、歴史文化などを挙げ、浜松市が鰻、徳川家康など明確なのと対照的に静岡市には明確なイメージが不在であることが指摘されました。ガストロノミーツーリズムは地域の全体が関わり、他人事から自分事への転換が重要で、今後関心をもってもらいたいと浜松ガストロノミーツーリズムツアーを創ってみませんか<日帰りコース・お泊りコースは問いません>として、提案を募り、最優秀ツアー案を商品化し、3月に実施予定であるとの呼びかけがありました。
当日のプログラムはこちらをご覧ください。
テクノフェスタでも午前から発酵研の展示を行いました。多くの方にご来場いただき、盛況でした。
2024年10月23日、24日「発酵食品ワールド出展」報告
2024年10月23日、24日にAichi Sky Expo(愛知国際展示場)で発酵食品ワールドが開催され、静大・発酵研からも出展しました。発酵研が取り組んでいるプロジェクトを紹介し、より広い連携関係の構築を目指す目的です。 展示では、井川の野生酵母と農学部藤枝フィールドの柑橘でつくった発酵シロップの試飲をはじめ、家康公CRAFT、フジヤマハンターズビールからは発酵研との共同で製造したNew Gruit Beer in Progressとヤチヤナギ、丸徳商事からは廃棄物を発酵させた肥料で栽培した大生姜、これを用いたビールとジェラートをご覧いただきました。ブースを訪れた多くの方々が私たちの説明に耳を傾けてくださいました。
2日間で8000人を超える来場者があり、開幕から閉幕まで発酵研にも多くの方が訪れてくださいました。発酵研の展示には訴求力があるとAmazonさんにお褒め頂きました。
丑丸先生、木村先生がご作成くださった資料をもとに横濱先生が二日にわたり発酵カレッジセミナーでお話されましたが、巧みなプレゼンに立ち見が出て立錐の余地なしの人気でした。
ヤチヤナギによるグルートビールのプロジェクトには他大学の理系の先生方が感じ入っておられ、これは文理融合でなければとてもできないことと、こちらとしては背中をみてお手本としてきた他大学の研究者の方たちに励まされ元気が出ました。また野生酵母にこだわってビールをつくっておられる伊勢角屋麦酒の鈴木社長もお見えになり、酵母開発についてご教示くださいました。 厳しいながらもためになるご意見も頂くことができ、連携の輪も広がりそうでとても有意義でした。
2024年10月13日 南アルプスユネスコエコパーク登録10周年記念連続シンポジウム「南アルプスの水と酒造り」報告
2024年10月13日に南アルプスユネスコエコパーク登録10周年記念連続シンポジウム「南アルプスの水と酒造り」が開催されました。司会は静岡大学人文社会科学部の藤井真生先生です。
第一報告は大村屋酒造場の杜氏の日比野哲さんによる「大井川の水と酒造り」です。日比野さんは静岡大学大学院農学研究科を終了されており、「静大そだち」を造ってくださっていることから、静大ととても関係の深い杜氏さんです。南アルプスから流下する大井川の水で酒造りをされており、報告はまず島田と大井川の江戸時代・明治以降における関係史からお話され、とりわけ酒は「洗いに始まり洗いに終わる」の言葉通り、多くの水を使い、アルコール分を除く80%が水で、南アルプスの水がダメになってしまうと酒造りは終わりになってしまいます。タンクローリーで他所から水を運んでくるよりも、その地の水をそのまま使うのが理想的です。
大井川の水で造られたお酒は16か国に輸出されており、大井川の水は世界を移動しています。個性輝く地酒作りと南アルプスの水の旅が今後もずっと続いていくことを願ってやみません。
第二報告は静岡大学人文社会科学部の貴田潔先生による「室町時代における酒造業と社会」について、いわゆる文安の麹騒動を中心にお話頂きました。室町時代の京都における酒造は桂川、賀茂川、木津川といった3つの河川の水で行われ、この時代は342もの醸造酒屋が記録されています。酒造業に対する課税は貞治年間に成立し、足利義満執政期に課税が恒常化します。明徳4年(1393)洛中辺土散在土倉幷酒屋役条々において「全て課税の対象とするので一律に徴収せよ」と規定され、税の徴収が厳しいものとなっていきます。
義満・義持期の室町幕府の京都支配にありかたから、酒麹を生産するなかでも北野社優遇政策がとられ独占され、延暦寺の支配に属する東京(左京)の麹造りが禁止されたことから、北野社と延暦寺の間で酒麹業をめぐる相論となるのが文安の麹騒動です。西京神人は北野社に閉籠りストライキをおこし、幕府から軍勢が派遣され合戦に発展します。結果、北野社の勢力は衰微し、酒麹業の独占的特権は解体へ向かいます。お酒と政治勢力の関係についての興味深い発表でした。
第三報告は引き続き麹についてで、静岡県工業技術研究所沼津工業技術支援センターの鈴木雅博さんに、清酒造りには富士山や南アルプスからの伏流水や流水に加えて、麹菌と酵母が必要であり、それら微生物の働きと複雑な関係についての説明がありました。静岡酵母、河津桜酵母といった静岡県のオリジナルの清酒酵母についてご紹介頂き、麹についても静岡の新しい麹米の開発について教えて頂きました。
報告が終わったあとは、静大・発酵研副所長の横濱竜也先生をファシリテーターとして、3人の先生方とパネルディスカッションを行いました。多くの質問が寄せられ、大幅に時間超過しましたが、内容が大変おもしろくあっという間に時間が過ぎてしまいました。
最後に、鈴木さんのご報告にもあった新しい麹をつかったお酒、旧来の麹をつかったお酒の飲み比べがありました。また南アルプスの高山植物の低発酵の酵母と在来植物を用いた大変おいしい発酵シロップの試飲もありました。 懇親会には静岡大学浜松キャンパスから工学部の戸田先生がかけつけてくださり、天竜川河川敷のトノサマバッタのむしむしケーキそして浜名湖のハゼの佃煮を試食させて頂きました。どちらも大変おいしく、水辺の生物多様性を改めて感じることができました。
2024年10月5日 静岡朝日テレビカルチャー「静岡に根付く発酵文化」
2024年10月5日に横濱竜也副所長が静岡朝日テレビカルチャー「地酒ライター鈴木真弓の日本酒講座 しずおか 酒と人」において,「発酵飲料による地域活性化の試み」と題した発表をされました。
静大発酵研のこれまでの成果や、取り組んでいる野生酵母による発酵飲料開発、今後も継続して展開していきたい登呂遺跡との酒づくり、ヤチヤナギを使ったグルートビールであるNew Gruit Beer in Progressシリーズ、カラハナソウを使ったビール造り、発酵シロップ開発への展望や大きな課題についてのお話があり、凄くおもしろかったとの声がきかれました。
発酵研関連では、ナラノヤエザクラ酵母の春鹿の八重桜、北海道林業試験場の脇田先生から頂いたヤチヤナギを使った香りがすばらしいジンのオホロ(ニセコ蒸留所)、聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラの聖ヤコブの墓への巡礼の案内書でもあったカリクストゥス写本第5書『巡礼案内記』に登場するリオハのワインが試飲されました。
2024年11月9日 テクノフェスタ 発酵研企画
2024年11月9日(土)静岡大学浜松キャンパスで開催されるテクノフェスタで発酵研企画が行われます。参加登録はありません。ぜひご参加ください。
日時: | 2024年11月9日(土)14時00分~16時30分 |
場所: | 静岡大学浜松キャンパス 情報学部2号館1階 情13教室 |
「浜松の伝統食」
「南アルプス高山植物由来酵母によるウイスキー」
「浜松から広がる静岡ガストロノミーツーリズム」
展示 樋口美由紀さん(静岡大学農学部)
当日の様子はこちらをご覧ください。
オープンキャンパスで展示と酵母発酵シロップの提供
毎年8月の上旬に静大の各学部でオープンキャンパスが開催され、静岡県内外から多くの高校生や保護者がキャンパスを訪れます。今年の農学部のオープンキャンパスは8/1に農学総合棟で行われ、1000人以上の参加者が、各学科についての説明を聞いてから、公開された研究室を見て回っていました。今回、この日に休憩室の一角を使わせてもらい、発酵研および発酵についての展示と、酵母発酵シロップの試飲提供をしました。
農学部のオープンキャンパスですので、微生物や発酵、食品に興味がある高校生が来る可能性があります。そこで発酵研の活動内容に加えて、「発酵食品と微生物」についてのポスターを展示しました。
また、今回提供した酵母発酵シロップは、酵母で糖分を発酵させて香りやうま味をだし、これに、農学部藤枝フィールドで作られたスルガエレガントと橙(だいだい)の果汁でフレーバーをつけ、さらに糖分を足してシロップにしたものです。これまでに理学部の丑丸研と農学部の木村研は、共同で静岡各地の植物から酵母を多数単離し、その中から、静岡市内のクラフトビール醸造所に「家康公クラフト」用の酵母、南アルプスの井川蒸留所にはウイスキー用の酵母を提供してきました。今回の発酵シロップは、これらの酒類の製造には使われず不要になった酵母の中から、南アルプス地区の酵母の1株を活用したものです。研究補佐員の樋口さんが試作を重ね完成させた逸品です。
展示ブースには、多くの高校生や保護者が立ち寄ってくれました。展示の内容だけでなく、農学部、大学での生活、静岡についても聞かれました。またシロップの評判は上々でした。販売されたらぜひ買いたい!静岡土産にしたい、という声も聞かれました。
今回の展示・試飲には、木村研の学生たちと樋口さんが、事前打ち合わせから、前日の設営、当日の準備、高校生・保護者への対応、試飲の提供、そして後片付けまでの各所で参加しました。また、スルガエレガントと橙は、1月の下旬に研究室のメンバーと藤枝フィールドに行き、収穫させて頂いたものです。皆さま、ありがとうございました!
2024年6月8日 南アルプスユネスコエコパーク登録10周年オープニングセレモニー 報告
南アルプスがユネスコエコパークに登録されて10年ということで、2024年6月8日に静岡市葵区の井川ビジターセンターで静岡地域の関係市町・団体などでつくる連携協議会による南アルプスユネスコエコパーク登録10周年セレモニーが開催されました。
セレモニーは静岡市の難波市長、川根本町の薗田町長、井上市議会副議長、安竹市議会議員、栗下井川自治会連合会長のご挨拶から始まりました。
ご列席者ご紹介のあと、川根本町の赤石太鼓の演奏会が行われました。聴衆全員が圧倒されるほどの迫力のある演奏でした。その後、理学部の増澤先生のご講演がありました。自然の利活用を考慮したサステナブルなエコパークについて、日本で理解を得て長い時間をかけて登録を実現した歴史と未来に向けて持続可能にする展望についてお話しいただきました。続いて、十山株式会社の鈴木取締役から、南アルプスのなかでの豊かな経験と特種東海製紙の社有林は会社だけのものではなくsharingするものだということばを画期とした取り組みについてのご講演がありました。
セレモニーの最後に、樽詰めする前の貴重な原酒ニューポットと発酵研で開発した井川産の柚と南アルプスの酵母を用いた発酵シロップ飲料で乾杯しました。乾杯の際、理学部の丑丸先生と十山株式会社の平井岳志総務部課長から南アルプスの恵みである優秀な酵母たち、その中の一つであるハクモクレンから単離された酵母により十山と発酵研でコラボしてウイスキー造りを開始したことについてご説明がありました。お天気に恵まれたことも相まって柚の香りの爽やかな発酵シロップは大好評で、ウイスキーもとても華やかな香りがしました。
駿河軍鶏の焼き鳥、燻製、クッキー、お茶など井川の人気の食品の出店もありました。 井川や川根地域のおいしいものは6月15日の葵スクエアでの南アルプスユネスコエコパーク 登録10周年記念イベントでもずらっと並びます。
セレモニーの後は十山さんの社有林に行き、花酵母やリターを採取しました。
その後、家康の茶壺屋敷に念願の御礼参りをしました。家康公クラフトを醸してくれた躑躅に感謝です。