2024年11月3日に南アルプスユネスコエコパーク登録10周年記念連続シンポジウム第5回<公開講演会 vol.2>『グローカルな発酵文化と観光』が開催されました。
第一報告は静岡大学文人社会科学部言語文化学科長で発酵とサステナブルな地域社会研究所のメンバーである鈴木実佳教授による“Current Beer Tourism and the 18th century beer caricatures in the UK”と題した発表で、ご専門であるビール文化を代表するイギリスの事例について講じられました。まずイギリスにおけるビールとエールの違いやビールが用いられた風刺画を紐解き、文化的な表象について紹介されました。またwalking in LondonということでSambrook’s Breweryという実際の醸造所にも言及がありました。
続いてオックスフォードからバスの運転手さんでも停留所の存在を忘れるほど大変アクセスの難しいHook Norton Breweryへの視察について紹介されました。Hook NortonはThe most popular beer & cider brandsとしては121位ですが、Trip Advisorでは1位とのことで、ビアツーリズムの成功の理由を求めて視察されたとのことです。背の高い建物で醸造過程が上から下に降りてくるおもしろいブルワリーです。2階では歴史について語られており、18世紀のbrewersついて詳しく説明されました。
第二報告は十山株式会社代表取締役社長鈴木康平氏による「南アルプス高山植物由来酵母によるウイスキー」です。国立公園は国内に34か所あり、南アルプス国立公園は静岡、長野、山梨にまたがる、今なお隆起し続ける重厚な山岳地です。ユネスコエコパークは国内に10か所あり、南アルプスは2014年6月12日にエコパークに登録されています。井川社有林は南アルプスの南部一帯で日本の1/1000の森林面積を占めており、井川山林は現在「自然共生サイト」に登録されています。国内最大の一団地で、県内10か所のうち静岡市内は麻機遊水地が登録されています。登壇者の鈴木康平氏は1991年4月に入社されてから社有林に四半世紀携わっており、南アルプスの環境保全、持続的な地域活性化の基盤を構築してきました。なぜ南アルプスでウイスキーを醸造するのかについて、井川山林の“価値づくり”に半世紀以上悩み続けた過程があります。既存需要である登山者以外に刺さる南アルプスを詰め込んだ価値とはなにかを模索してきました。
当初Natural Mineral Waterとして水源を利用しようとしていたが、不向きであったため、ウイスキー醸造に方向転換した経緯があります。まず「日本一行くのが大変な蒸溜所」と巷で評される標高1200mの熟成環境、水質、自社材のミズナラはウイスキー発祥の地とされるスコットランドを想起させます。南アルプス・井川の野生酵母によるウイスキー造りについてもお話頂きました。発酵研との高山植物酵母(ワイルド酵母)を通した協働として、井川の白木蓮から単離した酵母による香りが華やかなウイスキー造りが紹介されました。また2024年に井川蒸留所からリリースされるFloraのラベルにデザインされている高山帯の植物タカネマンテマの利活用もしたいとのことです。南アルプスと井川で地域や他社との協業でフィールドをSharingして持続的な環境保護保全とアップサイクルによる地域振興の試みを行っています。南アルプスは大井川で流域市町とつながっており、より多くの方、特に地元、流域の方には南アルプスをもってして頂きたいとのことです。
第三報告は、研究所副所長である人文社会科学部法学科の横濱竜也教授が、「静岡におけるクラフトビールツーリズムの可能性を考える」というタイトルで、クラフトビールの地域的性格とそれを活かしたツーリズムの可能性について話されました。昨年、私たちの研究所は「家康公CRAFT」を製造・販売するプロジェクトに、主に酵母開発とPRの面で関わりました。その背景のひとつには、静岡市と静岡県のクラフトビールブームがありました。講演では、より視野を広げて、日本とアメリカのクラフトビールブームのありようを確認し、海外のクラフトビールツーリズムに関する先行研究に触れるとともに、クラフトビールの地域的性格を、地域ブランディング、またテロワールの視角から整理することを試みました。
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