2026年8月15日(土)掛川東病院の宮地院長 S-wave『Saturday Nature ~Shangri-La(シャングリ・ラ)~』

静岡市でもユニークな病院長として知られる掛川東病院の宮地院長が日に焼けた姿で登場されました。日焼けしたのは島根県隠岐郡海士町で、離島での医療を支える取り組みをされていたからです。人口がきわめて少ない離島は医師看護師不足の課題最先端の場所です。この課題は、しかし5年程度のうちに掛川の問題となり、さらに5年程度で首都圏の問題となっていきます。

宮地院長は高齢化の進むアジア諸国でも活動をされています。宮地院長の目からすると、国民皆保険に支えられた日本の医療は他国に比べてかなり恵まれており、しかし恵まれすぎているがゆえに、社会保障まかせになるところがある、ということです。これに対して、他のアジアの国々では状況が全く異なり、自分たちの力でなんとかしないとという意識が強い。

宮地院長と発酵研をつなぐミッションであるビールについても話がありました。アルコールを一滴でも飲むと寿命が縮むとされ、医者が「ビールを飲みましょう」とはなかなかいえません。

しかし、他方で高齢者の健康を害する大きな要因は、社会的孤立であり、つながりを保つために、ビールの効用はとても大きいことを、宮地院長は指摘しています。ここ10年、孤独な人ははやくに亡くなってしまう、人とのかかわりがないと病気になってしまうといわれており、孤独と孤立は寿命と健康に悪い影響を及ぼすとされています。

かたやビールは、人類の歴史のなかで、コミュニティと結びついた飲み物であり続けてきました。古代エジプト、メソポタミア、中世以降のパブ文化、修道院におけるアルコール醸造など、ビールはコミュニティの中で造られ、楽しまれ、消費されてきています。掛川東病院では、カケガワビールとひまわりビールのコラボをしており、ひまわりの種から配り、育て、花を使ってビールをつくる過程で、参加者のつながりを生み出す活動をしています。

この活動を始めた5年前は、なかなか意義を理解されず、向かい風ばかりだったと宮地院長はいっています。しかし、この3年で大きく流れが変わり、自分たちも何か医療に関われる、医療と関わらなくともコミュニティを自分たちで生み出せる、自分たちらしいイベントを行えるという意識が高まりました。コミュニティづくりの動きが広がり、地域の力が盛り上がってきました。

ビールとコミュニティのつながりや、ビールへの地域性、地域文化の反映を話題にするなかで、最後に宮地院長が触れたのが、「お伊勢さん」の伊勢市にある伊勢角屋麦酒と発酵研のコラボで生まれた、特別なクラフトビール、KADOLABO 038 Accidental Terroir(アクシデンタル・テロワール)です。

Accidental Terroirは、静大家康公酵母(仮)3種類を使って醸されたビールです。「Accidental」という言葉は、酵母による発酵がいまだ人間が制御しきれているわけではなく、偶然による部分があるところ、また伊勢角屋麦酒の鈴木成宗社長(兼 静岡大学人文社会科学部客員教授)と静大発酵研との偶然の出会いが生み出したクラフトビールであること、に由来しています。

「Terroir」は、ワインでもっぱら用いられてきた言葉で、畑のテロワールとしてワインと土地と結びつけるものです。これに対してAccidental Terroirがアピールしようとするのは、「酵母のテロワール」です。家康公酵母もそうであるように、天然(野生)酵母が採取した土地との結びつきが意識され、ローカルな性格をもちます。地元の酵母とそれで醸したクラフトビールが、コミュニティの一体感を生み出す。それは、高校野球で地元の代表チームを応援したくなる気持ちと重なりあっているかもしれません。

Accidental Terroirは、香味がお花畑のように華やかで、次から次に色々なフレーバーが押し寄せてきます。樽で醸造されているので、樽由来の香りもします。瓶内二次発酵が進むためでしょうか、時間が経つとともに、グレープフルーツからマンゴーそしてバナナへと香りが移り変わっていきます。今後入手する機会があれば、何本か買って楽しんでいただきたいところです。ラベルも、かわいらしい色合いで、静大のロゴも入っているので、あわせて御覧いただければありがたいです。

ただし、大変申し訳ないのですが、このビールはすでに売り切れています。今月8日、第4回ISEKADO×おかげ横丁Beer Gardenが伊勢神宮参道にあるおかげ横丁にて開催されました。そこでAccidental Terroirが提供されるという話もあったのですが、製造担当者から売り切れである旨ききました。
しかし、静岡大学で保管しているものを、来年2月20日にグランシップで開催される、日本の酒シンポジウムの試飲会にて提供する予定です。日本の酒シンポジウムは、これまで山梨大学ワイン科学研究センター、新潟大学日本酒学センター、鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センターにより開催されてきましたが、第6回となる今年度は、発酵研も加わり、山梨大学ワイン科学研究センターと共催で行います。基調講演では、Accidental Terroirを手掛けた伊勢角屋麦酒の鈴木成宗社長が登壇されます。

また、近い将来もう一度Accidental Terroirをつくっていただく機会があるかもしれません。その際は、ぜひ迷わずお買い求めください。