法律家でもなんでもないし、こういうの慣れていないのですが、「減災情報学」や「米国アマチュア無線」に関心を持つ身として黙って観ていることができず、後述するように私案をまとめてみました
参考→電波法施行規則の一部を改正する省令案等に係る意見募集-アマチュア無線の社会貢献活動での活用、小中学生のアマチュア無線の体験機会の拡大
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000473.html
※なお、鈴木個人の意見であって、勤務先や加盟団体等の公式見解を述べているものではありません。
<私案ここから>
一 アマチュア無線の社会貢献活動での活用
今回提案されている改正は、以下の理由から反対であります。
Ⅰ.国際法と矛盾する(即ち憲法違反となる)「アマチュア業務」定義の変更
今回は改正によって、(広義の)社会貢献活動をアマチュア業務の定義内に明示しようとされておられると思量するが、この従来の定義は国際法(ITU-RR)をベースとしたものであり、国内法でそれを超越する定義づけを新たに行う事は法論理上不可能である。そもそも論としてこの部分に手を付けてはいけない。
今回の改正案は「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。(日本国憲法 第九十八条2項)」に従っていると言えるのか、いかがか?
(参考 ここから>>)
Radio Regulations
Section III – Radio services
1.56 amateur service: A radiocommunication service for the purpose of self-training, intercommunication and technical investigations carried out by amateurs, that is, by duly
authorized persons interested in radio technique solely with a personal aim and without pecuniary interest.
(機械翻訳: アマチュアサービス:アマチュア、つまり、個人的な目的のみで金銭的利害関係のない無線技術に関心のある正式に許可された人によって行われる、自己訓練、相互通信、および技術的調査を目的とした無線通信サービス。)
(<<ここまで)
社会貢献活動を行う事は人として尊いものであり、これを行おうとするに異を挟まない。しかし、アマチュア業務は「金銭上の利益のためでなく、もっぱら個人的な無線技術の興味によって行う」ものであり、「(もっぱら個人的な無線技術の興味と紐づかない範囲の)社会貢献活動」の手段として行うものではない。
他方、現行のアマチュア業務の定義内で社会貢献活動は十分に可能である。言い換えれば「憲法違反を犯してまで(国際条約を尊重せず)、法令などの改正を行なわなければアマチュア無線家が社会貢献することはできない」ということはない。具体的な例を以下3点示す。また一般的なボランィア活動に関する見解は次のⅡ項で、アメリカの事例についての見解はⅢ項でそれぞれ詳述する。
①非常通信:
総務省電波利用ホームページ「アマチュア局による非常通信の考え方(https://www.tele.soumu.go.jp/j/ref/material/amahijyo/index.htm )」に示されているように現状認識としては肯定的に纏められており、ことのほか法を改正しないとアマチュアが非常通信業務に参加できない、と思われる点はない。もし問題点があるとすれば、アマチュア業務を改変して対応するのではなく、「非常通信を円滑に実施するために必要な体制が整備されていない」ことを意味するので、電波法第七十四条の2に基づき「非常通信規約」や「非常通信運用細則」の改正で事足りる。
②アマチュア無線コミュニティの中の社会福祉活動:
アマチュア無線技士の資格は、身体等に障がいを持つ方々でも取得可能であり、多くの障がいを持つアマチュア無線家が活躍している。健常者側も彼らを分け隔てなく温かく受け入れ、共生の道を共に歩んでいる。このような活動について問題点があるのであればその点を改善していく、という事が公共の福祉につながる。
御省でそのような取り組みを行っていない、とは言わない。例えば平成 31 年 1 月 18 日まで行われた「無線従事者規則の一部を改正する省令案に対する意見募集」においても、御省のこの件に関する積極的な方向が示されている。そのNo.9の個人のご意見の御省の回答(考え方)に「実際の運用上の問題については、今後の参考とさせていただきます」とあるが、こういった当事者に寄り添った視点で不足点を省令改正等で手当てすることのほうが遥かに重要である。
③体験臨時局:
アマチュア無線における非常に身近な社会貢献活動の一つであり、ノーベル賞受賞者の名古屋大学天野教授が中学高校生の時活発なアマチュア無線家だったことも一つの例に挙げられるが、特に若年層において、その時期における無線通信技術への接触は、将来の科学技術立国日本を背負って立ってもらうためにも非常に重要である。
今般もう一つの改正案で、体験臨時局に関して更に敷居が下がり社会貢献活動がやりやすくなっている。体験臨時局に関する意見は後述する。
以上のように、現行法内でも十分に多様な社会貢献活動は可能であるので、国際法を無視してまで新たな定義を設けることはないという結論となるがいかがか。
Ⅱ「ボランティア活動」の捉え方の間違い
今回の改正案では「アマチュア無線従事者が“(広義な)ボランティア活動”を行うための障壁をなくす」という規制緩和の方向付けをしている印象がある。しかし、改正案に示される「ボランティア活動」そのものの範囲についてあまりにマクロ的であり、「もっぱら個人で行う活動」に限定できない。
ボランティア活動の法的根拠は平成 4年の社会福祉事業法(現 社会福祉法)の一部改正において、「国民の社会福祉に関する活動への参加の促進を図るための措置に関する基本的な指針」の策定とともに、国及び地方公共団体がそのために必要な措置を講ずることを規定(第89条)。あわせて社会福祉協議会の事業に「社会福祉に関する活動への住民参加のための援助」を規定(第109条2)した、こととされる。これによれば、ボランティア活動とは一般的には「自発的な意志に基づき他人や社会に貢献する行為」を指してボランティア活動と言われており、活動の性格として、「自主性(主体性)」、「社会性(連帯性)」、「無償性(無給性)」等があげられる。
参考:「ボランティアについて」(厚生労働省 社会・援護局 地域福祉課 2007)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/12/dl/s1203-5e_0001.pdf
即ち少なくとも「ボランティアとは、自主的に活動するものである」、言い換えれば「自発的な意思による活動とは考え難いものはボランティアではない」ともする事ができる。
その観点では、アマチュア業務は「金銭上の利益のためでなく、もっぱら個人的に」の定義があり、本質的にここで言うボランティア活動とは親和性が高いものといえる。
同時に、危険性の高い業務はこの活動に向かないと言える。ボランティア活動において最も重要なのは、「自分の命を守ることはもちろん、他者の安心安全への配慮」であることは間違いなく、個人でボランティア活動をする際においてそのために、各地の社会福祉協議会を窓口に「ボランティア活動保険(または組織が加入するボランティア行事保険)」に加入することが求められている(保険に加入していないと、少なくとも災害ボランティアセンターで活動登録ができない)。
参考までに「ボランティア保険」の対象になる活動、対象にならない活動を以下に示す。
このボランティア保険の対象となる活動は「自発的な意思により他人や社会に貢献する無償のボランティア活動」で、次のいずれかに該当するものである。
〇グループの会則に則り、立案された活動であること。
〇社会福祉協議会に届け出た活動であること。
〇社会福祉協議会に委嘱された活動であること。
また、対象とならない活動の主なものは次のとおりである。
▼自発的な意思による活動とは考え難いもの
(例)学校管理下にある先生、生徒のボランティア活動
(例)免許、資格、単位取得やインターンシップを目的としたボランティア活動
(例)道路交通法違反者による行政処分としてのボランティア活動 など
▼PTA、自治会、町内会、老人クラブなどボランティア活動以外の目的でつくられた団体・グループが行う組織運営や団体構成員の親睦のための活動
▼有償のボランティア活動(交通費、昼食代、活動のための原材料費などの実費弁償としての支給については無償とみなす)
▼保険上対象外となっている活動
(例)海難救助または山岳救助ボランティア活動
(例)銃器を使用する獣害駆除ボランティア活動
(例)野焼き・山焼きをおこなうまたはチェーンソーを使用する森林ボランティア活動
以上のことから、今回の改正案のポンチ絵に示されている「ボランティア活動の例」は、個人が加入できるボランティア保険で充当できない活動(=即ち「自発的な意思による活動とは考え難いもの」)も含まれており、適切性を欠いていると言わざるを得ない。「ボランティア保険」で充当されない活動を行った場合に事故が起きた際、総務省は補償できるのだろうか、そんな時だけ「個人の資格、個人の判断で」と言い逃れるのだろうか、いかがか。
本年10月に日本アマチュア無線連盟が「ボランティア活動推進」の要望書を総務省に提出した、と伺っているがこちらサイドばかりでなく、例えばボランティア活動を司っている「厚生労働省」およにその下部組織でボランティア活動の現場推進役である「社会福祉協議会」や、防災対策を司っている内閣府から、また防災の関係では「防災情報学会」等から、等広い利害関係者からの意見聴取が必要と考えるがいかがか。
今回総務省は「ボランティア活動」につき、厚生労働省の定義とは別の定義を定めようとしている(ダブルスタンダード化、縦割り行政の濫用、でもある)。これは、国民市民に不要の混乱をもたらすだけものであり、公共の福祉に反することになるがいかがか。
Ⅲ. アメリカのアマチュア無線制度のつまみ食い間違い
本改正案の説明には、アメリカのアマチュア無線制度を模倣しているように記述があるが、アメリカFCCの規定では。§97.3 Definitionsの(2) に「Amateur radio services. The amateur service, the amateur-satellite service and the radio amateur civil emergency service.(意訳:アマチュア無線業務とは、アマチュア業務・アマチュア人工衛星業務・アマチュア無線市民緊急業務の3つの業務の集合である)」と定義し、同§97.3 Definitions (3)では、アマチュア業務について「A radiocommunication service for the purpose of self-training, intercommunication and technical investigations carried out by amateurs, that is, duly authorized persons interested in radio technique solely with a personal aim and without pecuniary interest.」と、日本の(あるいは国際条約)と同一の表現をしている。すなわち、「アマチュア業務」の拡大解釈などはしていない。
今般の改正案で総務省が目指しているものは前述アメリカ同§97.3 Definitions (2)に定義づけされている「The radio amateur civil emergency service」的なものを日本に取り入れようとしているものなのかもしれない。
これはアメリカの同規定の サブパートE「緊急通信の提供」として§97.407 Radio amateur civil emergency service.に定義されているように
①「民間防衛組織」に登録され、毎年決まった研修を受け(受けないと登録が抹消される)、
②アマチュア無線に認められた周波数帯のうちわずかにスポットとして決められたセグメントのみが使用できるなど、の制約があるとされ、
③また同97.403や405において「アマチュア局が自由に使える無線通信手段の使用を妨げるものではありません」として二次業務的な取り扱いをしている。
以上の事から、アメリカ規則に示されるいわゆるボランティア業務は、「アマチュア業務と別業務であり、言い換えればアマチュア無線家の一部特殊群をアマチュア業務の周波数を二次的に使用する中で活用している」にすぎず、他方、日本の改正案は、アマチュア業務の中にアマチュア無線市民緊急業務を同列に溶かし込むというものであり、これらは建て付けからして全く異なっており、「アメリカでは」と例を引くにも比較の対象にもならないありさまである、再考(憲法違反にならずにアメリカ方式を取り入れる方法はある、実際にアメリカは国際条約違反とならないように工夫をしている)を強く促したい。
今回の改正案とは直接無関係であるが、もし日本にアメリカの制度を取り入れるのであれば、資格別コールサイン制度・従事者免許と局免許の同一化と包括化、あるいは「試験合格からコールサイン付与まで一週間」という効率運用など日本の無線行政体系を根本から見直さざるを得ないことも当然にして行わなければならないだろう。
今回改正案はただ都合の良いところだけを安易につまみ食いしているだけなのか、明確にされたい。
Ⅳ.消防無線・行政防災無線業務をアマチュア無線でやらせるのか問題から
今回の改正案では、公務員やNPO関係者たる「特定の目的に紐づけられた身分を持つ」者がアマチュア業務を行う事とされる。この部分に関してはⅠ項で指摘した通り国際条約上の「個人的な目的のみで金銭的利害関係のない無線技術に関心のある」者、とする根幹部分を逸脱しているため、違法であり、言語道断。
またアマチュア業務をもってアマチュア無線技士が消防団業務を援用することを可とする、とも読み取れる。これは、消防法および関連法令との整合に課題が残る。以下、具体的に例示する。
①身分の定義が不明:
消防組織法では、消防団員の身分について、その二十三条において、「常勤のものは地方公務員法、非常勤の者は条例により定める」とされているが、今回のアマチュア業務定義の改正において消防事務に従事する民間人の身分が定義されていない。また民間人の活動が消防組織法で認められていない。
②「金銭上の利益のため」なのかどうか:
正規の消防団員に正当に賃金等報酬が支払われているかどうか、という次元の話はさておいて、「金銭上の利益のためでなく」行う活動に限定されるかについてがどこにも示されていない。
③「もっぱら個人の興味」によって行われる活動かどうか:
消防組織法を援用するまでも無く、「消防職員は、上司の指揮監督を受け、消防事務に従事する」のであるから、当然「もっぱら個人の興味」でのみ活動するわけではなく、アマチュア業務の一環とすることはできない。
※消防団員等消防職員の方が、業務以外の場でもっぱら個人的な興味の中、金銭上の利益を求めずアマチュア業務をやることについては歓迎こそすれ排除するものではないこと、念のため。
また、一部の地域では、各級陸上特殊無線技士の取得者が消防関係あるいは行政防災無線で少なく、その業務に深刻な悪影響を与えている、という問題意識があるのは承知している(直近の例では11月14日の報道で総務大臣殿が地方の消防職員の処遇改善を訴えるなど)。今回の改正の目的は、これら充足しないプロの無線従事者の業務を一部アマチュアに肩代わりさせるということだろうか。だとすれば「行政の怠慢」との誹りを避けられない。
仮に前述のような無線従事者不足があるとしたら、アマチュア業務の定義を変更するのではなく、無線従事者規則を変更するなど、プロ側の世界の中で対策を取るべきと考える。一例は以下の通り。
① アマチュア無線技士の免許所持者に、第三級陸上特殊無線技士の免許範囲の操作を許す
② アマチュア無線技士の免許所持者に、第二級陸上特殊無線技士試験の工学の学科免除
③ 消防防災以外の職をリタイアした陸上系無線技士を総務省が嘱託で雇用し各地の従事者不足の地域に送るという仕組みを作る
等。アマチュア側の改正をしなければ日本が回らなくなる、という状態ではない。
また、これら業務波の一部をアマチュア波帯の中に仮にスポットでも持ってくるのであれば実質的なバンド削減であるので、憲法に保障されている公平性を確保する意味でも、例えば144MHz帯を拡張する、あるいはアナログテレビ周波数の空きチャンネルをアマチュアに開放するなど、それなりの代案が求められる(それを避けるためアメリカでは、前Ⅲ項に示したように、それら業務は二次的に使う旨、明確に定義している)。
二 小中学生のアマチュア無線の体験機会の拡大
改正案に賛成いたします。積極的に推進をお願いします。
<私案ここまで>
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