鈴木実佳教授、宮地紘樹掛川東病院院長、および発酵研広報の依岡で二軒茶屋餅角屋本店に伺いました。伊勢角屋麦酒鈴木成宗社長にひとつひとつ説明を伺いながら見学することができました。順を追ってご報告します。
二軒茶屋餅
鈴木社長は天正年間(1575年)創業の二軒茶屋餅21代目社長でもあります。見学は二軒茶屋餅から始まりました。
二軒茶屋餅の「二軒」は現存するお餅屋の「角屋」とお料理を提供していた「湊屋」が向かい合って二軒あったことから名付けられました。現在湊屋はなく、角屋でお餅が提供されています。角屋の建物は底上げして90度回転させて、現在の向きになりました。
二軒茶屋餅のお餅はきなこをまぶしたあんこ餅。柔らかくて歯切れが良いお餅でした。
味噌蔵(醤油・味噌醸造場)
二軒茶屋餅は大正12年(1923年)から味噌・醤油の醸造業を始めています。二軒茶屋餅から歩いて数十歩のところに位置する味噌蔵をご案内いただきました。
二軒茶屋餅では赤味噌と醤油を創業時から変わらぬ製法で作っていること、鈴木社長は子供の頃から味噌蔵で遊んでいて酵母と親しまれていたことを伺いました。伊勢角屋麦酒の原点はこの味噌蔵にあるようです。
伊勢では一年中しめ縄を飾るそうです。味噌蔵の裏にあるまっすぐな道は路面電車の線路の名残であることも伺いました。
麦酒蔵(神久工場)
1994年に酒税法が改正され、第一次地ビールブームが起こりました。伊勢角屋麦酒は1997年に二軒茶屋餅向かいにビール醸造所と併設レストランを作りました。
現在ビール醸造は下野工場で行っており、ここではビールを作っていないようですが、当時のままの設備を残しています。ここに醸造所を構えた当初のお話を伺いました。「ビール作りの8割は清掃」という格言は印象深かったです。
現在「びやぐら」では二軒茶屋餅の醤油やポン酢、伊勢角屋麦酒のビールとグッズが販売されております。二階ではビールを飲むこともできます。この店舗ではバレルエイジドビールなどの実験的ビールも販売しています。
民具館
二軒茶屋餅の隣、川沿いに蔵が建っており、そこでは民具や道具などの古物が所蔵されています。昔はここが舟着場で、舟を降りた乗客が角屋と湊屋で休憩を取ったそうです。
角屋と湊屋にまつわるものもあれば、伊勢および三重など地域の骨董品・貴重品なども所蔵してありました。古い灰色のレジスターはおよそ10年前までお店で活躍していたようです。
下野工場
伊勢角屋麦酒が軌道に乗るまで、幾多の試練がありました。詳細は鈴木社長の著書『発酵野郎!―世界一のビールを野生酵母でつくる―』をご覧ください。ビール販売が好調になり神久工場が狭くなりつつあった2018年に下野工場が誕生しました。現在伊勢角屋麦酒のビールはここで製造・出荷されています。現在下野工場の見学は有料で受け付けられています。
工場の中の設備をくまなくご紹介いただきました。ここで紹介している写真はその一部です。撮影が許されない研究室も備えており、20種類ほどの野生酵母が保管されていることを伺いました。研究室では酵母の培養も可能で、野生酵母を使ったビールも製造されます。伊勢角屋麦酒定番ビールのひとつ「ヒメホワイト」は鈴木社長が採取した野生酵母 KADOYA1 を使ったビールです。東京駅110周年記念「TOKYO STATION JR PALE ALE」は日本初の鉄道の起点であった新橋駅に咲いていたボケの花から採取した酵母を使っています。
最後に二階の社長室を見学させていただきました。ビアコンテストで受賞した数々のメダルや盾が飾ってありました。世界各地の醸造所、特に発酵研で過去に調査したビアツーリズムに関する意見交換を行ったほか、会社経営や地域コミュニティ形成など、ビール・発酵食品以外のお話もたくさん伺いました。鈴木社長は毎朝社員の日報を読んでいること、鈴木社長が選定した書籍の読書感想文に鈴木社長がコメントを付記することなど、社員とのコミュニケーションの取り方のノウハウも印象に残りました。
二軒茶屋餅は来年で450周年を迎えます。それに合わせるのはおこがましいですが、伊勢角屋麦酒とのコラボ商品製造を目指し、これからも発酵研は研鑽を続きていきます。
伊勢角屋麦酒外宮店と内宮店
製造されたビールを自社店舗で販売するノウハウを調査するため、伊勢市内にある伊勢角屋の外宮店と内宮店を視察してきました。現在伊勢角屋麦酒のタップを飲めるお店は東京と伊勢にあります。
外宮店
外宮店は4タップが設置されており、プラカップでビールが提供されます。この店舗では缶と瓶も買え、発送もしてもらえます。また、二軒茶屋餅のお持ち帰りのお餅も販売されています。
内宮店
内宮店は6タップが設置されています。また、牡蠣串などの食べ歩き商品もあります。奥には食事を提供するレストランも設置されています。