S-Waveで土曜朝8時半から10時まで放送しているShangri-La、毎月第3週は発酵研と発酵研がお世話になっている方々が出演して、それぞれが取り組んでいることなどをお話ししています。10月17日は、横濱副所長と大原所長が、登呂遺跡の田んぼでの赤米栽培と、収穫した赤米を使った、萩錦酒造でのお酒づくりについて話しました。
なお、11月7日(土)・8日(日)は登呂遺跡の田んぼで朝9時から、稲刈りとはざ掛けをします。ぜひ参加してください。参加申込は静大発酵研のHPの特設コーナーからお願いします。
登呂遺跡の田んぼでの赤米栽培は、このホームページでお伝えしているとおりですが、登呂遺跡での水田復元、またそこで赤米が栽培されることになった経緯に少し触れました。赤米酒のほうは、その特徴や、酒造の際の萩錦酒造での工夫や苦労が話題になりました。思えば、登呂遺跡の田んぼで赤米をつくることができているのも、萩錦酒造で赤米酒を造っていただいているのも、なまじっかなことではなくありがたいことで、人の縁(えにし)と恩があってこそです。その点でいえば、萩錦酒造の萩原さんがおっしゃっていることを借りると、登呂の赤米や赤米酒は、作っている人の顔や作っている場所の風景が見えるお米でありお酒です。
横濱副所長は、赤米と赤米酒がつくられるこういった環境を言い表すために、あえてテロワールという言葉を使ってみてはどうか、と述べて、以下のような話をしました。
テロワールは、ワインの原産地と結びついたブドウの生産やワインの製造に関わる環境、習慣、歴史、知識といったものを指す、というのが公式の定義で、ワインとその原料となるブドウが生産される畑をつつむ、気候・地形・土壌および人々の営みが生み出す特徴というふうにもいわれています。
ワインは、基本的にぶどうだけを原材料にして、果汁、赤ワインの場合は果皮と種も入りますが、これを発酵させ、樽で貯蔵し熟成させて造ります。ですから、ぶどうのもつ性質がワインの味を大きく左右します。これに対して日本酒の場合、お米の酒類や産地、製造する場所は、お酒の風味にとってワインほど決定的とはいえません。日本酒に使うお米は、地元のものもありますが、全国各地から買い集めることが多いです。麹も、麹の種菌をつくっているところは全国で5~6ヶ所しかなく、種麹の産地が地元でないというのがふつうです。水は蔵の近くのものを使うことが大半です。となると、日本酒で蔵の場所を結びついているのは、たいていは水だけということになります。ウイスキーでも、大麦も、酵母も、樽も、地元のものでないのが大多数です。
それにもかかわらず、テロワールにこだわるお酒が、ウイスキーや日本酒で増えてきています。スコットランドのアイラ島では、島の大麦やピートにこだわったウイスキーが造られていますし、静岡でもガイアフローさんは静岡産の大麦、酵母と樽と水でウイスキーを造ることをしています。日本酒でも産地の地域性へのこだわりが目立ってきていて、とくに水と酒の香味との関係については研究が進み、テロワールという言葉を使うケースが出てきています。静岡の日本酒についていえば、2023年に、お酒の地理的表示(GI)の登録が認められました。
地域らしさ、地域固有なものが売りになるというところはもちろんあるでしょう。他と差別化できることは大きいと思います。けれども、原材料の産地を地元に限ったり、製造工程を制限したりすることは、酒造りを不自由にするものでもあります。それにもかかわらず、テロワールが流行っているのはなぜなのでしょうか。
考えられるのは、物語性と愛着と信頼です。登呂の赤米酒でいえば、登呂遺跡の田んぼで、弥生時代の稲作を想い起しながら仲間でつくった赤米を、この地域と人のつながりを大事にしている酒蔵で苦労して酒にする、という土地やひとと結びついたストーリー。そのストーリーをフックにして生まれる赤米酒や登呂、静岡への愛着。おいしさ・品質への信頼ももちろんありますが、どちらかというとここでつくっているのだから、この人がつくっているのだからという信頼。こういったストーリーや愛着、信頼がお酒の品質に反映されていること。それは、地域固有の環境や習慣、歴史とあわせて、地域産品の価値を上げるし、保証しもするのではないでしょうか。