2025年3月6日 アルテピアッツァ美唄見学

発酵研の大原志麻所長、横濱竜也副所長、丑丸敬史教授、知念晃子准教授、および辻で、廃校を利活用したアート施設、安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄に伺いました。
発酵研客員教授でもある、北海道立総合研究機構森林研究本部林場試験場の脇田陽一森林環境部長兼道東支場長が、アルテピアッツァ美唄の植生アドバイザーということで、施設を案内していただきました。

アルテピアッツァ美唄は、炭鉱町として美唄市が活況を呈した時代に建てられた栄町小学校・栄幼稚園の旧舎を利用しています。1981年に小学校が役目を終えた後も、併設の幼稚園は存続し、2020年3月まで子どもたちを迎え続けたそうです。

美唄市出身の彫刻家でイタリアを拠点に活動する安田侃へ、旧体育館をアトリエとして利用する案が美唄市から持ちかけられたのは、1985年あたりだそうです。
幼稚園と共存する形で徐々にアート施設として形づくられていき、1992年にアルテピアッツァ美唄はオープンを迎えました。

雪に埋もれた広い敷地には、安田侃の彫刻が点在しています。

彫刻の周辺に柵はなく、プレートもありません。近づいて触れたり、くぐり抜けたりすることができます。
冬の間、白大理石の彫刻は布に覆われ、雪から守られています。雪が降らない季節でも、職員によって彫刻の清掃が定期的に行われるそうで、しっかり管理されています。

最初に訪問したのは、展示スペースとなった旧体育館です。天井が高くて開放感があります。薪ストーブが完備されているので、冬でもたっぷり時間をかけて彫刻を鑑賞できます。

屋外同様、旧体育館に陳列された彫刻は柵で囲われておらず、触れて楽しむことができます。また、タイトルや制作意図を説明するプレートもないため、作品と鑑賞者との距離はとても近くなります。しっとりとした大理石に艶めくブロンズと、素材の質感の違いを堪能できました。

続いて、木造二階建ての旧校舎に移動しました。白い壁と焦茶の木材が美しいコントラストとなっています。

玄関や階段の踊り場、廊下の突き当たりで、安田侃の彫刻作品が来場者を出迎えてくれます。無機物なのに温かみがあり、微笑みかけてくるようです。

二階が主な展示スペースです。
L字型となった校舎の片翼には、訪問当時、美唄養護学校中学部・小学部の児童生徒による作品が展示されていました(期間は2025年3月5日から16日まで)。
もう片翼には安田侃の彫刻作品が置かれた部屋や、グッズ販売所があります。野外彫刻の鑑賞に絶好の向きに椅子が置かれおり、くつろげる空間となっています。

旧校舎から5〜10分ほど、野外彫刻を楽しみつつ進むと、カフェと作業スタジオが併設された建物に到着します。
今回の訪問では雪に隠れていましたが、風のそよぎや川のせせらぎを楽しむ「音の広場」も隣接しているようです。
脇田客員教授の解説から、アルテピアッツァ美唄の豊かな自然も鑑賞対象であり、元からの植物と移植されたものとの共存が図られていることを知ることができました。

カフェアルテは、作業工房と共に2007年に新しく建てられた施設ですが、天井の高さや温かみある色の木材など、旧体育館や旧校舎と調和しています。
ストゥディオアルテは、彫刻を体験するための工房です。毎月第一土・日に「こころを彫る授業」が開催され、未経験者でも大理石や軟石を彫ることができます。期間内で終わらなかった場合は、参加費を払えば翌月以降も授業に出られたり、工房を利用できたりするようで、訪問した時も二名の方が石を彫り進めていました。

アルテピアッツァ美唄スタッフの影山さんによると、授業の参加者には道外在住者も多く、東京でオフ会が開かれることもあるとのことでした。
戻ってきたいと感じられる場であることは、アート施設を持続させる上で大きな強みだと感じました。

発酵研では現在、廃校となった南アルプス井川小学校を井川で単離した家康公酵母(仮)で活性化することを目指しています。
誰でも、いつでも、何度でも立ち返ることができる……。アルテピアッツァ美唄の試みは、サステナブルな文化的営為として非常に示唆的と感じました。発酵研として、井川地域に貢献できるよう、研鑽を積んでいきます。

(文責:辻 佐保子)

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2025年2月22日 「南アルプスの自然と麹の歴史」報告

2025年2月22日にB-nest静岡市産学交流センタープレゼンテーションルームにて「南アルプスの自然と麹の歴史」シンポジウムを開催しました。

司会は藤井先生で、第一報告は工学部化学バイオ工学科の戸田三津夫先生による「川はだれのものか? 南アルプスの高山生態系と地質学」という題目でのご発表でした。「越すに越されぬ大井川」というのは既に遥か昔のことで、現在川の水は導水管の中にあるそうです。志太平野もかつてはほとんどが河川敷だったそうです。

治水には歴史的経緯がありますが、川にもっと働かせてあげればコストもかからず、生態系も維持できるというご提案ももっともだと思いました。

第二報告は菱六もやしの助野彰彦社長による「もやしの話:京都の麹の歴史を中心に」です。菱六のお仕事は種麹(もやし)を提供することです。同じ京都の味噌でも使用する麹菌が異なり、味が違ってくるそうです。

麹の歴史は「播磨風土記(現在の兵庫県南西部)」(713年)に、神様にお供えした御飯(当時は蒸したお米)にカビが生え、それで酒を醸して宴会をした、との記述があり、自然種付法が用いられていたようです。清酒醸造に米麹を使用するようになったのは8世紀初めのころと考えられています。もやし(種麹)に関する記述は、「延喜式」(927年)に糵(よねのもやし)以来で、当時は友種式(前回できた麹の一部を次回の麹造りに種麹として利用する方法。白米に10%添加)でした。室町期に入って、麹業は特権と結びつき、かの有名な「文案の麹騒動」に至ります。

菱六もやしの歴史も非常に面白くお話しくださいました。

第三報告は松本和明先生による「南アルプス麓の井川の歴史」についてです。江戸時代の井川地区の様子を、村の生産高、年貢の規模、人口、自社、橋、ため池、河川、海、市場、古墳、幕府直轄の山林、鉄砲の保有数などを書き記した帳簿である村明細帳を中心に垣間見る内容です。

米がとれなかったようで石高がつかず、金納しており、特産物がなく、寺院(・神社)が井川地区(上田村・中野村・小河内村)に一箇所以上あったことが明細帳からわかります。特に参加者からの関心が集中したのが、上田村の海野弥兵衛家の特殊性で、33名もの召使(そのうち1名は庄屋)を雇用していた点です。上田村は太閤検地後約100年間、中世的な関係を継続していたということで、その背景には山間地井川の社会経済的条件、たとえば山林から得られる収入が主であったことなどがあるだろうと推察されます。

また駿河側/遠江側の主張する国境ラインについてまだ一部未定となっている歴史的経緯も非常に興味深かったです。

パネルディスカッションでは、佐藤洋一郎先生がファシリテーターとなり、報告者に加えて、立命館大学食マネジメント学部の南直人先生も登壇され、予定していた時間を大幅に超過して議論が行われました。

最後に大村屋酒造場による登呂遺跡古代米試験醸造酒第一号の酒粕によるスイーツ片手に交流会を行いました。鈴木実佳先生が試行錯誤し、酒粕スコーン、小豆入り酒粕スコーン、酒粕ケーキなどどれも大変おいしかったです。他の先生方は酒粕レーズン、酒粕をクリームチーズとまぜておつまみにする、またブレンダーにかけて鶏肉をつけると大変やわらかくおいしくなるなど色々試されていました。この酒粕は冷凍してもぽろぽろしているので、何にでも入れることができとても使いやすいです。

プログラムと案内チラシはこちらをご覧ください。

2025年2月18日 令和6年度静岡大学公開講座「多彩な視点から学ぶ伊豆半島の自然と社会」

静岡大学東部サテライトで大原所長が「スペインにおける聖地巡礼と豆州八十八か所」についてお話しました。

サンティアゴ巡礼路と熊野古道の二つの道の巡礼者となった経験をふまえ、ルーツ・ブランディングやヒストリカル・ブランディングで歴史文化を現代社会において再構築する視点から、豆州八十八か所巡礼観光の可能性について考えてみました。

サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路、熊野古道、四国遍路、豆州八十八か所は「辺境」であり、そして「歴史の記憶を留める場で、地域社会の文化的革新が起こることが期待される場」という点で共通しており、ヨーロッパで現在、ストーリー性ある「道」のブームが起こっていることにも合致します。また、徒歩巡礼の動機は信仰に限定する必要はなく、トレッキングを通じてダイエットする、ウェルネスツーリズムの対象ともなっています。

伊豆は食材と温泉に恵まれており、聖地巡礼とガストロノミーツーリズムが盛り上がる可能性が大いにあるように思います。東部サテライトの皆さんに紹介していただいた、伊豆石の遺構や伊豆山修験などの見学を通して、巡礼地としての伊豆の魅力を学ばせていただいてきています。

オンサイト/オンラインで多数の方にご参加頂き、またこの公開講座で発酵研のことを知ってくださった方たちが2月22日の「南アルプスの自然と麹の歴史」シンポジウムにも足を運んでくださいました。

2025年2月22日「南アルプスの自然と麹の歴史」

南アルプスの自然と麹の歴史

日時: 2025年2月22日(土)13時00分~17時00分
場所: Bnest静岡市産学交流センター プレゼンテーションルーム

参加申込制です。 こちらからお申し込みください。申込みが定員に達しましたら参加の受付を終了させていただきます。

プログラム

司会 藤井真生(人文社会科学部)
13:00-13:40
戸田三津夫(静岡大学工学部)
「川はだれのものか? 南アルプスの高山生態系と地質学」
13:50-14:30
助野彰彦(菱六もやし社長)
「もやしの話:京都の麹の歴史を中心に」
14:40-15:20
松本和明(静岡大学人文社会科学部)
「南アルプス麓の井川の歴史」
15:30-16:15
パネルディスカッション
ファシリテーター:佐藤洋一郎先生(ふじのくに地球環境史ミュージアム館長)
戸田三津夫・助野彰彦・松本和明・南直人(立命館大学食マネジメント学部・和食文化学会会長)

当日の報告はこちらをご覧ください。

2024年12月14日 伊勢角屋麦酒見学

鈴木実佳教授、宮地紘樹掛川東病院院長、および発酵研広報の依岡で二軒茶屋餅角屋本店に伺いました。伊勢角屋麦酒鈴木成宗社長にひとつひとつ説明を伺いながら見学することができました。順を追ってご報告します。

二軒茶屋餅

鈴木社長は天正年間(1575年)創業の二軒茶屋餅21代目社長でもあります。見学は二軒茶屋餅から始まりました。

二軒茶屋餅の「二軒」は現存するお餅屋の「角屋」とお料理を提供していた「湊屋」が向かい合って二軒あったことから名付けられました。現在湊屋はなく、角屋でお餅が提供されています。角屋の建物は底上げして90度回転させて、現在の向きになりました。

二軒茶屋餅のお餅はきなこをまぶしたあんこ餅。柔らかくて歯切れが良いお餅でした。

味噌蔵(醤油・味噌醸造場)

二軒茶屋餅は大正12年(1923年)から味噌・醤油の醸造業を始めています。二軒茶屋餅から歩いて数十歩のところに位置する味噌蔵をご案内いただきました。

二軒茶屋餅では赤味噌と醤油を創業時から変わらぬ製法で作っていること、鈴木社長は子供の頃から味噌蔵で遊んでいて酵母と親しまれていたことを伺いました。伊勢角屋麦酒の原点はこの味噌蔵にあるようです。

伊勢では一年中しめ縄を飾るそうです。味噌蔵の裏にあるまっすぐな道は路面電車の線路の名残であることも伺いました。

麦酒蔵(神久工場)

1994年に酒税法が改正され、第一次地ビールブームが起こりました。伊勢角屋麦酒は1997年に二軒茶屋餅向かいにビール醸造所と併設レストランを作りました。

現在ビール醸造は下野工場で行っており、ここではビールを作っていないようですが、当時のままの設備を残しています。ここに醸造所を構えた当初のお話を伺いました。「ビール作りの8割は清掃」という格言は印象深かったです。

現在「びやぐら」では二軒茶屋餅の醤油やポン酢、伊勢角屋麦酒のビールとグッズが販売されております。二階ではビールを飲むこともできます。この店舗ではバレルエイジドビールなどの実験的ビールも販売しています。

民具館

二軒茶屋餅の隣、川沿いに蔵が建っており、そこでは民具や道具などの古物が所蔵されています。昔はここが舟着場で、舟を降りた乗客が角屋と湊屋で休憩を取ったそうです。

角屋と湊屋にまつわるものもあれば、伊勢および三重など地域の骨董品・貴重品なども所蔵してありました。古い灰色のレジスターはおよそ10年前までお店で活躍していたようです。

下野工場

伊勢角屋麦酒が軌道に乗るまで、幾多の試練がありました。詳細は鈴木社長の著書『発酵野郎!―世界一のビールを野生酵母でつくる―』をご覧ください。ビール販売が好調になり神久工場が狭くなりつつあった2018年に下野工場が誕生しました。現在伊勢角屋麦酒のビールはここで製造・出荷されています。現在下野工場の見学は有料で受け付けられています。

工場の中の設備をくまなくご紹介いただきました。ここで紹介している写真はその一部です。撮影が許されない研究室も備えており、20種類ほどの野生酵母が保管されていることを伺いました。研究室では酵母の培養も可能で、野生酵母を使ったビールも製造されます。伊勢角屋麦酒定番ビールのひとつ「ヒメホワイト」は鈴木社長が採取した野生酵母 KADOYA1 を使ったビールです。東京駅110周年記念「TOKYO STATION JR PALE ALE」は日本初の鉄道の起点であった新橋駅に咲いていたボケの花から採取した酵母を使っています。

最後に二階の社長室を見学させていただきました。ビアコンテストで受賞した数々のメダルや盾が飾ってありました。世界各地の醸造所、特に発酵研で過去に調査したビアツーリズムに関する意見交換を行ったほか、会社経営や地域コミュニティ形成など、ビール・発酵食品以外のお話もたくさん伺いました。鈴木社長は毎朝社員の日報を読んでいること、鈴木社長が選定した書籍の読書感想文に鈴木社長がコメントを付記することなど、社員とのコミュニケーションの取り方のノウハウも印象に残りました。

二軒茶屋餅は来年で450周年を迎えます。それに合わせるのはおこがましいですが、伊勢角屋麦酒とのコラボ商品製造を目指し、これからも発酵研は研鑽を続きていきます。

伊勢角屋麦酒外宮店と内宮店

製造されたビールを自社店舗で販売するノウハウを調査するため、伊勢市内にある伊勢角屋の外宮店と内宮店を視察してきました。現在伊勢角屋麦酒のタップを飲めるお店は東京と伊勢にあります。

外宮店

外宮店は4タップが設置されており、プラカップでビールが提供されます。この店舗では缶と瓶も買え、発送もしてもらえます。また、二軒茶屋餅のお持ち帰りのお餅も販売されています。

内宮店

内宮店は6タップが設置されています。また、牡蠣串などの食べ歩き商品もあります。奥には食事を提供するレストランも設置されています。

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2024年12月14日、15日 南アルプスユネスコエコパーク10周年記念大会「未来につなげ!ライチョウの生きる山々、南アルプス」

2024年12月14日、15日に南アルプスユネスコエコパーク10周年記念大会「未来につなげ!ライチョウの生きる山々、南アルプス」が開催されます。12月14日に増澤先生が開会あいさつ、「南アルプスユネスコエコパークに学ぶ」と題して講演されます。12月15日は丑丸先生が「南アルプスの酵母からお酒を造る」講演でご登壇されます。IV部では増澤先生のご進行でパネルディスカッションがあります。南アルプスの恵みから生まれたウイスキー、ジビエやクッキーといったおいしい食べ物やライチョウのミニチュア販売もあります。ユネスコエコパーク10周年記念の一連のイベントのなかでもとりわけ重要な発信の場となりますので、ぜひとも足をお運びください。