2024年5月25日 南アルプスユネスコエコパーク登録10周年記念連続シンポジウム 第2回「南アルプスのガストロノミーツーリズム」講演会報告

5月25日(土)に南アルプスユネスコエコパーク登録10周年記念連続シンポジウム 第2回「南アルプスのガストロノミーツーリズム」が開催されました。

佐藤先生の講演では、浜松市天竜区の水窪地域をテーマに、同地域が広く日本アルプスを結ぶ「塩の道」の山間の要衝であり、南アルプスに属する山岳が連なるエリアでの稲作とは異なる雑穀、イモ、トチなどの食文化が形成されたと説明されました。飽食以後である昨今、ガストロノミーについて、現代の食文化の抱える問題を、飽食以前の食文化に立ち戻って考える必要性についても言及されました。

永松先生の講演では、井川地区の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、食文化に触れることを目的としたツーリズムを実現する取り組みについての紹介がありました。遠州・伊豆・駿府でのイベントを紹介し、井川地区ではワークショップから得られた様々なキーワードを手掛かりに、歴史・伝統・習慣・食材の視点から、井川において展開しうる様々な事業やプロジェクトについての展望が示されました。

永松先生の講演のあとに、農学部の木村洋子先生から井川のゆずと南アルプスの花酵母で作ったシロップのご説明があり、会場のみなさんに試飲をしていただきました。「発酵シロップがおいしい。生協で売って欲しい。独特な風味がしておいしかった。お酒で割ってもおいしそう。自分では松の実と氷砂糖の発酵ドリンクをつくって腸活をしている。発酵は素晴らしい技術。醤油にもエタノールがあるとは知らなかった」などの意見が寄せられました。

大原先生の講演では、消滅自治体に中山間地域が多いことから、山岳地帯の消滅が予言されてきた地域のなかで、著しくガストロノミ―により産業的に成功したスペイン・バスク地方について紹介されました。バスク地方は古くからモノトーン農業で有史以来食材が欠乏しており、キビ、稗、粟、りんごを食し、食文化、言語の点でヨーロッパの孤島とされてきました。しかし10年前にバスク祖国の自由によるテロ活動が完全に終息したことを大きな転機に、観光誘致に舵を切りました。バスクは食材のバリエーションがないことを逆手にとりkilómetroceroによる徹底的な地産地消、ゲルニカ爆撃といった歴史的な大きな事柄を平和博物館により喧伝し、Nueva Cocina運動により3つ星ホテルをサン・セバスティアンに集中させ、産官学連携によるガストロノミーに特化した大学設立、世界料理学会を開催、オープンレシピなどにより、長い時間をかけて少しずつ世界一の美食の都を築き上げました。また世界遺産サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路北の道はバスク州を貫いており、そこにはスペイン北部の巡礼路群、サン・ミジャン・ユソとサン・ミジャン・スソの修道院群、アルタミラ洞窟と北スペインの旧石器時代の洞窟画、ピレネー山脈・ペルデュ山の羊飼いの移牧、ビスカヤ橋など山の資源が評価された世界遺産が多数ある。井川とバスクには多くの共通項があることから、先進的な成功事例から何等かの処方箋を得たいところです。

今回のシンポジウムについては静岡新聞で事前に告知が報道され(「シンポジウム「南アルプスと食の旅」25日、静岡・レイアップ御幸町ビル」(5/16))、当日の様子は5月29日に静岡新聞紙面に記事にして頂きました(「南アルプスと食文化を考える 浜松・水窪地域テーマに講演会 静岡市葵区」(5/29))。

当日は100名にせまる多くの参加者がありました。大盛会となりましたこと御礼申し上げます。